2021年ウェブ解析士(日本語)テキスト

3. 第2章:環境分析とマーケティング解析

第2章
環境分析とマーケティング解析

あなたは上司から与えられた今期の目標達成のため、さっそくウェブサイトの解析に着手しようと考えました。

アクセス解析の結果を眺めるとデータはたくさん並んでいて、どこから手を付けてよいか分からず、あなたは途方に暮れてしまいます。

「今期目標の達成のために何を測定するべきか」と考えていると、先輩から「マーケティングの成果を出すには、まずは、自社の置かれている状況を分析することが必要だよ」と教えてもらいました。

「自社の事業の環境はどんな状況か?」、「ユーザーのニーズを満たしているのか?」、「競合がどんな戦略を行っているのか?」など、ますます、何から手をつけていいのか分からなくなりました。そこで、事業の成果につなげるためのデータの集め方と戦略の立て方について学ぶことにしました。

ウェブ解析ツールのデータは膨大です。そのデータを見ているだけでは、事業の成果に結びつけることは、なかなか実現できません。データを見る前に、ユーザーを理解し、競合を理解し、事業を理解することが必要です。ビジネスをとりまく状況を理解することを「環境分析」といいます。この環境分析を行った上で、ウェブサイトの解析をすることが必要なのです。


第2章では、環境分析としてユーザー分析、市場分析、競合分析、自社分析と、新しい製品・サービスの展開方法を学びます。

本書では、「分析」と「解析」を次のような定義で扱います。

  • 分析(Analysis):現状を論理的に整理・分解し、言葉で説明すること。過去の事実をまとめることが目的
  • 解析(Analytics):現状や予測を主に数値的に整理・分解し、数字で説明すること。過去の事実がなぜ起きて、将来何が起きそうなのかを予測することが目的
    • 「2-1. マーケティング・リサーチによるユーザー分析」では、ユーザーが考えていることやユーザーの行動を調査する手法を学びます。
    • 「2-2. 環境分析と戦略立案」では、ビジネスフレームワークを用いた分析方法、戦略立案について学びます。
    • 「2-3. マーケティング解析」では、デジタルマーケティング解析ツールを使ったベンチマーキング手法を学びます。
    • 「2-4. マクロ解析とミクロ解析」では、ウェブサイトの個別のユーザーの閲覧経路を分析した戦略立案方法を学びます。
    • 「2-5. アジアに学ぶ日系企業のデジタルマーケティング戦略」では、日系企業と海外企業の違いから日本企業のグローバル化の機会を学びます。

2-1 マーケティング・リサーチによるユーザー分析

ユーザーを理解するための分析手法を紹介します。ユーザーを理解しなければ、そのあとの環境分析もウェブ解析も正しい考察ができません。ウェブ解析の前にする欠かせない分析です。

2-1-1. アンケート調査

アンケート調査は、アクセス解析やマーケティング解析では把握できないユーザーの意見をアンケートやインタビューや行動観察などで集め、ユーザーの意向や意識を理解するために行います。

アクセス解析だけではユーザーが誰なのか、何をどのように感じているのかが明確にはわかりません。さらに、ユーザーがウェブサイトへのアクセス後に店頭に出向くなど、アクセスログには現れないオフラインの行動などが把握できません。そこで、アンケート調査を行い、よりユーザーの心理や行動を明らかにすることが有効になります。

ユーザー調査を計画するにあたり、最初に調査方法を選択します。目的やスケジュール、費用に合わせて適正な調査方法を選択します。

アンケートの回答者には報酬を払うことが一般的です。報酬は、アンケートの質問の長さとターゲット層によって異なります。オンラインサーベイを使えば日本国内にいても、海外の市場を打診することができます <https://websitebuilders.com/how-to/making-money/online-surveys/>。

定量調査

以下に述べる調査方法は、調査結果を集計するため定量調査といいます。下記の他、電話調査やFAX調査面接調査などがあります。電話調査は世論調査などによく用いられます。

オンラインサーベイ

オンラインサーベイは現在アンケート調査の主流となっています。インターネットを使い、モニターを募集しアンケートを回収します。従来の調査手法と比べて信憑性は薄くなりがちではあるものの、回収が早く、費用的にも安価です。より調査の精度を上げていくために、それ以外の調査方法と複合して活用することで、オンラインサーベイに伴う問題点を克服することができます。

郵送調査

郵送調査はかつてアンケート調査の中心的方法でしたが、今や安価なオンラインサーベイの出現で非常に少なくなりました。一般に、アンケート調査の回答率(発送通数に対する回収率)が高いほど信頼性も高くなります。郵送調査オンラインサーベイに比べ、60%を超える高い回収率を実現することが可能ですが、郵送・回収並びに集計に時間がかかり、謝礼、郵送費などコストもかかります。

定性調査

定性調査はターゲットユーザーに質問した内容をまとめるため集計をしないアンケート調査です。

デプスインタビュー

対象ユーザーをインタビュールームや会議室に呼び、対面により質問形式で実施する調査です。質問者と1対1で行い、例えば、あるウェブサービスを利用しない理由や、どう改善されれば利用したいかといった行動理由や意識、利用意向などを把握するために実施します。

グループインタビュー

デプスインタビュー同様、質問形式の調査ですが、個別ではなく複数ユーザーを集めて実施します。ユーザー同士の会話から、潜在的な課題やニーズが明らかになることもあります。例えば、新しいウェブサービスの受容性、改善ポイントの抽出などを目的に実施するケースがあります。

サンプリング内容の決定

対象者の一部を抽出する調査をサンプリング調査といいます。サンプリング調査は、母集団サンプル数、サンプリング方法、からなります。

母集団とは、全てのユーザーです。サンプル数は、全てのユーザーからアンケート対象となるユーザーです。母集団からサンプル数を抽出する際は、偏りが出ないように一定のルールを策定することがサンプリング方法です。

サンプリング方法は、サンプルが母集団全体の傾向を代表するように選択し、原則としてはランダムサンプリング(無作為抽出)で行います。例えば、母集団を自社ウェブサイトの来訪者と定義したとします。そして、この母集団にアンケートを行うために、トップページにアンケートフォームを設置したとします。このとき、トップページへの来訪者にランダムに質問したのと同じ傾向の回答が得られなければ、この調査は全体を代表しているとはいえません。

サンプル数は多いほど信頼性が高まります。一方で、サンプル数に比例して調査費用は大きくなります。そのため、信頼性とコストの両方を勘案しながら、ベストなサンプル数を設定します。

調査票の作成

調査方法とサンプリング内容が決まったら、調査の対象者に対する質問項目や回答項目が記入された調査票を作成します。

設問の配置にあたっては、最初は回答しやすい内容のことを尋ね、後半になるに従ってより難しい内容を尋ねるようにするとよいでしょう。

質問項目が多すぎると回答者の意欲を妨げますので、設問数は多くなりすぎないように注意します。特に、選択肢を選ぶのではなく自由に記述してもらう形式(自由回答)はあまり多くなりすぎないように注意します。

質問の作成にあたっては、特定の回答を誘導するような尋ね方をしないようにします。例えば、「あなたは消費税率のアップに賛成ですか」という質問をする場合を考えます。単純に「賛成」「反対」「わからない」のいずれかの選択肢を選ばせる形式なら問題はありません。しかし、選択肢の中に、「社会福祉のためにやむをえない」というものが混じっていたらどうでしょう。これは極端な例かもしれませんが、質問の仕方によって回答がゆがめられないよう、気をつけることが大切です。

図:アンケートの例

インタビューモニターのリクルート

インタビューにおいては、対象のリクルートが最も重要です。ターゲットユーザー属性を代表する対象を的確に集める必要があり、目的に合わせて自社サービス、競合サービス利用経験の有無などを考慮します。併せて、インタビューシナリオを設計します。

オンラインサーベイで使うソリューション

オンラインサーベイは調査会社によるサービスがあります。近年はセルフ式リサーチと呼ばれる、自身で調査項目を設定する方法が普及し、安価で利用することができます。

すでに、対象事業の製品やサービスを利用しているユーザーにメールなどでアンケートを取る場合、代表的なサービスはSurvey Monkey <https://jp.surveymonkey.com/>です。無料でも調査票作成ができます。またGoogle Formも多様なアンケートフォームを無料でつくることができます。

モニターを募集してアンケート調査を行う場合は、Google Surveyが便利です。地域や年齢層を指定してモニターにアンケートを送ることができます。商品の見せ方やロゴデザインなどの調査に使うこともできます。

図:Google Survey

図:Google Survey

2-1-2. ユーザビリティの調査

ユーザビリティは「使いやすさ」や「使い勝手」と表され、ユーザーエクスペリエンス(UX)は、ユーザーが利用したときに得られる体験や満足、心理的な変化を指します。ユーザビリティおよびユーザーエクスペリエンスを調査するための手法を紹介します。

ユーザビリティとは

ユーザビリティは、単に「使いやすさ」を表す言葉として漠然と理解されていることが多いのではないでしょうか。ユーザビリティは3つの要素から成り立っていると考えられます。

  • ユーザーが目的を達成できるか、できないか(有効性
  • ユーザーが目的を達成する際、スムーズに進められるか、進められないか(効率性
  • ユーザーによる利用の際、心地よく肯定的な気持ちで使えるか、そうでないか(満足度

テレビのリモコンを例にとって考えてみましょう。リモコンの目的は「テレビを操作すること」です。テレビの電源を付ける、チャンネルを変えるといった操作をユーザーができるかどうかが肝要です。途中経過がどのようなものであれ、操作が完了できれば、そのリモコンには「有効性がある」といえます。

その次の「効率性がある」とは、ただ操作が完了できるという点から一歩進んで、操作を行う際、狙い通りの操作がすぐにできる、操作を完了するまでの流れにつまずきがないといった点から評価されます。

最後の「満足度」は、ユーザーがそのリモコンについて抱く感情に関わるものです。リモコンとその利用体験について「このリモコン使いやすいな、不便はなく、満足だ」と肯定的な気持ちを持つことができれば「満足度がある」ことになります。

ユーザビリティ調査の種類

ユーザビリティを確認するための手法として「ユーザーテスト」があります。実際のユーザー候補となるような人物を被験者として行うテストです。この「実際にユーザーを用いたテスト」には、ユーザビリティテストユーザー行動観察調査という2種類の手法があります。また、専門家が経験則に基づいて行う「ヒューリスティック調査」や「認知的ウォークスルー」という方法もあります。

ユーザビリティテスト

ユーザビリティテストは、対象サイトの操作感、つまりユーザーインターフェイス(UI)上の課題把握や評価を行うための手法です。

多くの場合、特定サイトやアプリのみを対象とし、事前に決められた行動指示(タスク)をユーザーに提示して、そのタスクが「達成できたか」「スムーズにできたか」「ストレスなくできたか」を確認します。

ユーザビリティテストで最も重要なことは「タスクを明確にする」ことですが、「サイトやアプリが成果を出すために、どのタスクが重要か」を明確にすることはそれほど容易ではありません。また、特定サイトやアプリに閉じた行動になってしまうため、「普段ならここで検索エンジンに戻って口コミを調べるんだけどなあ」というような当事者の視点はなかなか得ることができません。そこでユーザー行動観察調査を行うこともあります。

ユーザー行動観察調査

ユーザー行動観察調査は、対象サイトのUI上の課題に留まらず、ユーザーの行動パターンや心理の把握も目的とする手法です。

そのため、調査対象も特定サイトやアプリに限定せず、「自社サイト訪問前にどのような行動をしているか」「競合サイトをどのように使うのか」「サイト閲覧後、リアル店舗を訪問したか」など、幅広い行動を対象とします。また、ユーザーの現実的な状況・リアルな状況を確認するために、実際の行動に付き添って観察したり、過去の行動のヒアリングや日記調査といった手法をとります。

ユーザビリティテストでは事前に「タスクを決める」必要がありますが、ユーザー行動観察調査では、調査の中で「重要なタスクを見つける」ということになります。

表:ユーザビリティテストとユーザー行動観察調査

ユーザビリティテスト

ユーザー行動観察調査

目的

ユーザーインターフェイス(UI)の使い勝手の課題把握・評価

UIの課題だけでなくユーザーの行動パターン・心理の把握

対象

サイト・アプリのみで実施するケースが一般的

検索・口コミ・閲覧やリアルも含めた利用行動も対象

方法

決められたタスク(行動指示)の実行可否・時間・満足度を確認

ヒアリング等で状況を把握しユーザーごとに現実的な状況を設定

ヒューリスティック評価

ヒューリスティック評価とは「専門家の経験則、知見をベースに行われる」ユーザビリティの評価手法で「エキスパートレビュー」という言い方をされる場合もあります。おおむね以下の2つに分かれます。そして、ヒューリスティック原則として、システムステータスの可視化性や、システムと現実世界の一致などを紹介したウェブユーザビリティの第一人者であるヤコブ・ニールセンによるインタラクションデザインに関する10の一般原則が有名です。

認知的ウォークスルー

専門家がユーザーになりきって1人で行うユーザビリティテストです。ヒューリスティック原則によるチェックが「漏れのないチェック」を目指しているのに対し、認知的ウォークスルーは、あるタスクや行動を完遂する上での「重大な課題を見つけ出すこと」を主眼としています。

ヒューリスティック評価では、専門家ならではの論理立てられた課題抽出が可能である一方、実際のユーザーでなければ分からない文脈や心理面での課題を把握することが困難であるため、ユーザー行動観察調査やユーザビリティテストとの併用が望まれます。

また、評価を依頼する専門家が1名のみだと、評価に漏れが生じたり、その専門家独自の信念が強く反映されすぎたりするケースがあるため、一般的には複数の専門家に依頼することになります。

2-1-3. アクセシビリティの分析

アクセシビリティとは利用しやすさ、アクセスしやすさを指しています。似た言葉であるバリアフリーは、障害者が健常者と変わらない生活ができる社会を目指したノーマライゼーション <https://en.wikipedia.org/wiki/Normalization_(people_with_disabilities)>の考え方に基づいています。

さらに第1章で紹介したインクルージョンの考えを取り入れたインクルーシブデザインでは、従来デザインの工程では外れていた、障害者や高齢者をデザインプロセスの上流工程に組み入れるデザイン手法を指します。

ウェブアクセシビリティの重要性

ウェブアクセシビリティを高めることは、障害者や高齢者を含めたすべての人にとっての使いやすさ(ヒューマンリーダビリティ human readability)の向上となります。そして、SEOで重要となるクローリングなど機械による情報の読み取りやすさ(マシンリーダビリティ machine readability)の向上にも役立ちます。これにより検索エンジンで高い評価を得やすくなる可能性があります。

つまりアクセシビリティを高めることは、あらゆる人の集客や回遊を促しマーケティングにおいてもプラスになるため重要であるともいえます。

ウェブアクセシビリティの改善方法

音声読み上げソフトへの対応や、文字の大きさを可変にするなどウェブサイト上でアクセシビリティ対応の機能を付けることも重要ですが、現在ブラウザやデバイスでもアクセシビリティ対応がなされているため、デザインで大事なのは適切な情報の提供です。alt属性で画像説明のテキストを表示させることや、HTMLの文章構造を適切にすることなどが重要といえます。

そのほかウェブアクセシビリティの対応方法については、Web Content Accessibility Guidelines(WCAG)2.1 <https://waic.github.io/wcag21/techniques/> <https://waic.github.io/wcag21/guidelines/#orientation>にまとめられています。また達成するための方法はWCAG 2.1 <https://www.w3.org/WAI/WCAG21/Techniques/> <https://waic.github.io/wcag21/techniques/>達成方法集があります。

このような情報をもとに、アクセシビリティを改善するためにも適切な情報提供を進めてください。

2-1-4. アイトラッキング

アイトラッキングは、赤外線などで視線が追える装置を用い、ユーザーがサイトを見ているときの目の動きを測定・把握する手法です。高価な装置が必要になるため、ユーザビリティテスト専門企業が使うツールとなります。

アイトラッキングは、「視線の動き」を測定することで、「何を」、「いつ」、「どの程度」見ていたかを可視化する行動観察手法です。ログ解析では記録できない視線の動きを測定することでウェブ閲覧行動の過程や理由を明らかにするため、ウェブ担当者や制作者が予想もしなかった不具合や改善点を発見できます。

例えば、クリックされていないが注視されている重要なコンテンツは何か、ユーザーの視線や行動を狙いどおりに誘導できているか、デザインが効果的に機能しているか、最適なコンテンツの配置や設計の要素は何か、モバイルアプリの機能の操作性や視認性は狙い通りか、などを調査目的として利用されています。

アイトラッキングの装置は、ディスプレイの下部に設置する「据え置き型アイトラッキング」、メガネのように装着して自由行動下の視線を測定する「メガネ型アイトラッキング」に大別されます。利用する装置は調査目的によって決まりますが、得られるデータは基本的に同じで主に3種類あります。

ゲイズプロット

ユーザーの視線の行動を、線(どこからどの位置を見たか)、数(どの順番で見たか)、円の大きさ(どの程度見たか)で表します。

図:ゲイズプロットの参考例
(画像提供:トビー・テクノロジー株式会社)

図:ゲイズプロットの参考例
(画像提供:トビー・テクノロジー株式会社)
<https://www.tobiipro.com/ja/>
トビー・テクノロジーのアイトラッキングツールは世界シェア60%を占めて、
世界のトップシェアになっています(2020年8⽉現在)
ヒートマップ

注視した時間が長い領域ほど色濃く示されます。サーモグラフィーのようなグラデーションで、全体的にどの場所がよく注視されたかを知ることができます。ログ解析ツールにあるヒートマップとの違いは、ユーザーが実際に注視した領域を可視化していることです。

Area Of Interest(AOI:興味関心領域)

任意に設定した領域に対して、視線がその領域に入った時間と回数を算出し、興味関心のある領域がどの程度注視されたかを知ることができます。この画面では長く多く視線が入ったエリアを色分けしています。色分けされた領域ごとに上記データの数値を見て判断します。

また、上述のデータ解析に加えて事後インタビューや事後アンケートを設け、印象、記憶、理解など、心理的側面まで評価することで、より深い洞察を得ようとする調査も進んでいます。

2-1-5. ニューロマーケティング

ユーザーの脳の応答を計測するニューロマーケティングは、従来方法では難しかった無意識の心理を定量・定性化する最先端の調査方法です。言葉になりにくい感覚的な表現や、何となくといった想い、記憶に残りにくい行動中の意図や心理的な変化、ユーザー自身も気付いておらず言葉にできないといった無意識的な気持ちを明らかにするような課題調査に対して効果を発揮します。

例えば、ランディングページの直感的な印象を把握する場合が挙げられます。また、ある領域が注視されているときに、興味があって注視しているのか、分からなくて注視しているのかを判断する場合や、本来考えていた回答や行動を質問や課題に応じて変えてしまうことが懸念される場合などにも有効です。

無意識の感情を定量・定性化する方法として、脳波、脳血流、発汗、瞳孔、顔表情の計測などがありますが、現在のところ、脳波が最も信頼性があり、世界的に活用が広まってきています。

2-1-6. エスノグラフィ調査

エスノグラフィ調査は、文化人類学や社会人類学の学術研究で用いられているエスノグラフィという調査手法をビジネス分野に応用したものです。

学術研究におけるエスノグラフィは、言語も文化も不明な初めて出会う民族に対して現場調査(フィールドワーク)を行い、その民族の政治、経済、宗教、教育、医療、芸術などあらゆる人間の活動領域を「観察」し「記述」することでその民族を理解するために利用されてきました。

一方、ビジネスにおけるエスノグラフィ調査は、生活者の隠れたニーズや課題、調査対象者自身も気づいていないインサイトを発見するために、学術調査のエスノグラフィの手法を援用して実施されます。

デプスインタビューやグループインタビューなどの他の定性調査手法では、リサーチャーが調査の前に仮説を設定して調査を設計しますが、エスノグラフィ調査では事前の仮説設定はせずに、生活者の行動を観察することで新たな仮説やインサイトを発見することを目的とします。

エスノグラフィ調査のデメリット

エスノグラフィ調査はその手法の特性から以下のようなデメリットがあります。

  • コストが大きくなりやすい
  • 時間がかかる
  • 市場性判断が難しい

エスノグラフィ調査は、基本的に一人ひとりの生活者の行動を当人の心理状態と併せて分析するものであるため、調査対象者数の増加に併せてコストが大きくなります。また集まるデータは映像、画像、テキスト、手書き文字等多岐に渡り、想定外のものが多く含まれることもあります。そのため、解析・分析も複雑になり、多くの時間と労力がかかります。

「市場性判断が難しい」に関しては、調査対象者は数名~20名程度ということが多く、結果が特定の市場を反映しているか判断に迷う側面もあります。

このため、エスノグラフィ調査を新商品・サービス開発などに活用している企業では、エスノグラフィ調査で得られた新たな仮説や生活者のインサイトをもとにアンケート調査などの定量調査を行い、マーケット規模を事前に確認するケースが多くなっています。

表:ビジネスにおけるエスノグラフィ調査の代表的な手法

手法

概要

訪問観察調査

(ホームビジット)

調査対象の自宅を訪問し、日常生活行動を観察する調査法。リサーチャーは基本的に調査対象の生活者の自然な行動を妨げずに観察を行い、普段通りの行動を観察することで、対象者自身も言語化できていない隠されたニーズや課題を発見する。観察を終えた後に適宜質問して、その行動をした理由や心理状態を深堀りして生活者に対する理解を深める。

訪問観察調査は1人のリサーチャーの観察だと見落としや思い込みが入る可能性があるため、複数人で行うことが望ましい。また、ビデオ撮影の許可が得られる場合は生活者の行動を撮影して、後日複数のリサーチャーでビデオを見てディスカッションする場合もある。

日記調査

調査対象者に一定期間の日記をつけてもらい、その記述から、どのような生活の流れの中で特定の行動が起こるのかを読み解く調査手法。日記調査の後、リサーチャーから調査対象者にデプスインタビューを行い、調査対象者の心理を深堀りする場合もある。

購買調査

(ショップアロング)

調査対象者の買い物に同行して普段通りに買い物をしてもらい、その行動を観察する調査手法。どのように商品を選んでいるのか、どの商品と比較したのかなどを観察する。買い物終了後にリサーチャーから特定の商品を選んだ理由や感じたことなどを質問して、購買行動に対する理解を深める。

フォトハンティング

調査対象者に特定のテーマを与え、テーマについて考えたこと、やったこと、気づいたこと、発見したことなどの写真を集めて提出してもらう調査手法。写真とともにそのとき感じたことなどを短いコメントで記載してもらう。調査後にリサーチャーから対象者に質問を行い、そのときに思ったこと感じたことなどを深堀りする。

2-2 環境分析と戦略立案

事業で成果を出すためには、対象となる事業の環境分析が必要不可欠です。

例えば「事業を取り巻く市場はどうなっているのか?」「お客さまのニーズにはどんなものがあるのか?」「競合はどんな活動をしているのか?」「自社の強み、弱みは何か?」といったことを把握しなければなりません。そこから、対象事業領域において「これなら勝てる」という成功要因を見つけ、妥当性のあるゴールを定め、ゴールを達成するための成果指標を策定します。

環境分析では、施策を立案・実行する前に、自社やクライアントの事業が置かれている状況を分析します。この章では、環境分析を効果的に進めるための考え方、そして、戦略策定における代表的なビジネスフレームワークやウェブ解析ツールを紹介します。

図:環境分析の全体像

図:環境分析の全体像

2-2-1. ビジネスフレームワーク

ビジネスフレームワークとは、「変化していく事業環境において、どのような活動を行うべきか」という課題を解決するために必要な現状分析と、これからの戦略立案のための枠組みのことです。まずは、ウェブ解析士がビジネスフレームワークを使う目的を説明していきます。

考えるべきことが整理でき、効率的に課題発見、解決策を発見できる

ビジネスフレームワークは「枠組み」「骨組み」「構造」といった意味であり、活用することで、効率的に、漏れなくダブリなく(MECE)に考えることができます。

例えば、「これからどのようにして売上を伸ばすのか」と問われたときに、何から考えるでしょうか。「市場の動向は?」「競合の動向は?」「自社の状況は?」と考えるべき項目があらかじめあれば、思考を進めることができます。さまざまなフレームワークを適切に使うことで、効率的に分析や立案ができるようになります。

クライアントとの共通言語になる

クライアントは、自社のビジネスについてはよく理解していてもそれほどデジタルマーケティングに詳しくない場合が多く、ウェブを使ってビジネス成果を向上させるノウハウは持っていないことも少なくありません。

ウェブ解析士として成果につながる施策立案を行う際に重要なことは、「クライアントの協力なしにはプロジェクトは成功しない」ということです。そして、クライアントと円滑な協力体制をつくるためには「認識にズレのないコミュニケーションを取ること」が必要です。

例えば、クライアントに対して「競合の動きは当社に影響ありません。自社にも問題はないです。ただし、顧客の行動のニーズの変化があるかもしれません。そこで、デプスインタビューを通して調査することをお勧めします」といえば納得してもらいやすくなります。

あるいは、「製品と価格設定に問題はありません。しかし、認知促進ができておらず、プロモーションの部分に問題があるようです。主としてSNS経由での露出が足りていないので、強化していきましょう」といったようにお互いの共通言語として具体的に提案できると、問題発見や施策提案を行う際に、よりスムーズにより正しくコミュニケーションを取ることが可能になります。

ビジネスフレームワークは、事象を整理するもの。価値ある解釈はあなたが創り出す

ビジネスフレームワークは、「考えるべき項目」を「漏れなくダブりなく」考えるための「枠組み」です。問題発見のために、そして施策提案を作るための思考のガイドとして活用できます。

一方で、簡易的に事象を当てはめたり、並べたりするだけでは、価値を創り出してないともいえます。

ウェブ解析士として、事象を調べ、整理した上で、あなたならではの解釈を示すことが必要です。

2-2-2. 対象事業の特定

環境分析を行う前に、対象となる事業領域を決めます。例えば、クライアント企業が、メーカー、卸、小売と多様な業態で展開しているのであれば、どの事業に対して施策立案を行うのかを特定しなければなりません。この対象事業領域を曖昧にしていると、市場や競合、ユーザーを分析していく上で、お互いの認識がズレてしまったままプロジェクトが進んでいくことになります。

事業の特定のために重要なのは、次の3つの視点です。

ミッション・マーケティングゴールは何か?

ミッションとは、事業が存在する理由であり、お客さまから選ばれる理由であり、事業活動においての判断軸となるものです。マーケティングゴールとは、売上利益だけではなく、事業がお客さまから選ばれ、商品やサービスを通じ、得られる顧客満足や、顧客が体験することを表現するものです。

提供する商品・サービスは何か?

自社は、どんな商品やサービスを通じて、顧客満足や顧客体験を提供するのかを明確にします。

対象顧客は誰か?

自社の商品・サービスの対象となる顧客を明確にします。

2-2-3. 外部環境分析

外部環境とは、業界の外から事業に影響を及ぼす、自社ではコントロールできない要因です。ここでは、外部環境そのものを分析する「PEST分析」と、外部と自社を比較しながら環境を分析する「5フォース分析」を紹介します。

PEST分析

事業は世の中の要因の影響を大きく受けます。例えば2019年10月に消費税率改定がありました。そのときには軽減税率の導入やキャッシュレス推進施策も行われています。このような業界や企業の意思とは異なる要素を分析するために役立つフレームワークが「PEST分析」です。

PEST分析は、法規制や税制などの「政治的要因(Politics)」、景気や為替などの「経済的要因(Economy)」、人口動態や生活者のライフスタイルの変化などの「社会的要因(Society)」、特許や新技術開発などの「技術的要因(Technology)」の4つの項目から整理します。

ここで、消費税率改定は政治的要因、為替相場の変動は経済的要因、少子高齢化やテレワークの増加は社会的要因、ウェブ会議技術の発展は技術的要因です。

注意点としては、網羅的に行おうとすると膨大な情報量となるため、対象事業に深く関係した事象だけにフォーカスすることです。

表:PEST分析(2020年7月時点)

項目

内容

P 政治的要因

  • 2021年に東京五輪が開催される予定だが中止リスクあり
  • 特定定額給付金1人あたり10万円の支給
  • テレワークを推進する施策が政府や自治体より出ている
  • Go Toキャンペーンの実施(不確定要素あり)
  • 2020年11月に米国大統領選挙があり、米国の方針が変わる可能性あり
  • 香港情勢が日中関係に影響を与える可能性あり

E 経済的要因

  • 収入が激減する人が増え、所得格差が広がる可能性あり
  • 世界経済は大きく落ち込み、インバウンド観光には逆風

S 社会的要因

  • 新型コロナウイルスの影響で新しい生活様式が普及する
  • 子供の運動不足、学習不足などが生じる可能性あり
  • 海外旅行に行きにくくなり、近場の旅行や娯楽に注目が集まる
  • 収入が減るアーティスト、アスリート、料理人、運転手などが多く出る
  • 少子高齢化
  • キャッシュレス決済の普及

T 技術的要因

  • Zoomなどテレワーク技術が普及
  • SNSやブログ(note)、動画(YouTube)、マップなどさまざまな無料サービス普及
  • 5Gの普及
  • 動画や写真撮影が皆が持つ機器(スマホ)でできる

5フォース分析

事業の競争環境を分析するためのフレームワークです。市場における「競合他社(Rivalry)」「買い手(Buyer Power)」「売り手(Supplier Power)」「代替品(Threat of Substitutes)」「新規参入(Barriers to Entry)」のそれぞれの力が影響する度合いを分析します。

業界のプレイヤーを整理し、競合他社との敵対関係の大きさ、買い手の交渉力、売り手の交渉力の大きさ、新規参入の脅威、代替品の脅威の大きさを判断します。この5つの力を分析し、業界の収益構造や競争要因を発見します。それぞれのプレイヤーに対して、自社に有利な活動を行い、その力の大きさを変化させることが重要です。

競合他社(Rivalry)

競合同士の争いは価格やコストであることが多く、値引きやコストカットで利益率が低下し、市場自体の魅力が薄れることがあります。競争が激しくなる業界は、「同業者が多い」「成長の速度が遅い」「製品やサービスでの差別化が難しい」といった状況であることが多いです。対象事業の競合他社の数、敵対関係の強さを明確にし、競争要因は何であるかを発見します。

買い手(Buyer Power)

買い手とは、直接の顧客、最終顧客(エンドユーザー)です。買い手の交渉力が高まる理由としては、「供給過剰」「類似品がある」「買い手の情報量が多い」などが挙げられます。買い手の交渉力が強まると、業界内での値下げ競争が始まり、自社の利益を圧迫します。

売り手(Supplier Power)

売り手は、業界内の企業に少しでも高い価格で製品や部品を供給したいため、交渉関係が発生します。売り手の交渉力が高まるのは、「売り手のプレイヤーが少数の場合」「自社の事業が売り手にとって重要ではない場合」「自社にとって売り手の存在が重要な場合」などが挙げられます。供給者である売り手の交渉力が強まると、自社の利益を圧迫します。

代替品(Threat of Substitutes)

業界の製品・サービスが、異なる製品・サービスにとって代わられてしまう場合に大きな脅威となります。代替品の脅威が高まる状況としては、「自社の製品よりも、価格が低い、また性能が高い」「イノベーションにより、以前からある機能をまったく別の機能に変えてしまう」「従来の商習慣を変えてしまう」などが挙げられます。

新規参入(Barriers to Entry)

新規参入の脅威は、業界への参入障壁の高さに関わります。参入障壁が下がれば、新規参入者によって業界構造は一気に変化する可能性があります。参入障壁としては「、ブランド力・知名度」「流通チャネル」「必要となる資金力」「スイッチングコスト(ほかの製品に切り替えるときの手間や心理的コスト)」「公的な規制」などがあります。

図:5フォース分析 ウェブ解析士協会人材育成事業の例

図:5フォース分析 ウェブ解析士協会人材育成事業の例

2-2-4. 事業分析

事業の分析を行う上で、自社の事業別の具体的な分析を行うときのフレームワークとして「3C分析」を使います。

3C分析

3C分析は「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Corporation)」という3つの要素に注目し、事業領域を分析するフレームワークです(『グロービスMBAマネジメントブック【改訂3版】』グロービス経営⼤学院[著]、2008、ダイヤモンド社)。

分析の順番は、顧客→競合→自社で行います。マーケティングで成功するには、買い手である「顧客目線」になれるかが重要です。したがって、まずは顧客のニーズやウォンツを分析し、マーケットにひしめく競合の活動を分析し、その上で自社のマーケティング活動を分析するという順序が適切です。

顧客(Customer)

対象事業がターゲットにしているエンドユーザーのことです。

ユーザーの年齢や居住地、収入、職業のような「デモグラフィック情報」と、ユーザーが商品を探すときの状況や気持ちなどの「サイコグラフィック情報」を分析します。市場規模や動向の分析も行います。

競合(Competitor)

対象事業の競合に対してプレイヤーを整理し、調査対象にします。競合は、大別すると「直接競合」「間接競合」の2種類があります。

例えば、街のレストランの場合、徒歩圏内のレストランや定食屋、カフェやランチ営業の居酒屋は直接競合です。一方で、コンビニやテイクアウトの弁当店、出前やデリバリー形態の飲食業が間接競合です。広義の意味では、ネット通販のお取り寄せグルメも間接競合といえます。このように、競合は捉え方によって対象が変わります。競合を決める場合、顧客から考えることで的確な競合分析が可能になります。

自社(Corporation)

自社の「強み」や「独自性」とそれを生み出す「資源(リソース)」を分析します。

自社の「強み」や「独自性」は、アンケートやインタビューなどの方法で、ユーザーにも聞いてみます。「なぜ、他社ではなく、弊社の商品を選んでくださったのですか」と尋ねることで、競合他社との比較ポイントや判断基準を知ることができます。

図:3C分析

図:3C分析

2-2-5. 市場機会の発見

戦略の策定において、外部環境を分析する目的は、市場における機会と脅威を見つけることにあります。また、事業内部分析では、自社の強みと弱みを把握します。ここでは、「SWOT分析」で把握し、「クロスSWOT分析」で戦略策定とする方法を紹介します(『経営戦略全史』三⾕ 宏治[著]、2013、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

SWOT分析

「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」の頭文字をとった名称で、外部要因と内部要因を整理します。SWOT分析の各項目の内容は次のとおりです。

強み(Strengths)

競合に対して差別化ができ、ユーザーのニーズを満たすことができる自社が持つ内部要因です。技術力の高さや研究開発力、営業力、マーケティング力などが当てはまります。機会と混同しないように注意してください。ユーザーがなぜ自社サービスや商品を利用してくれるかのヒントとなります。

弱み(Weaknesses)

自社が競合に対して劣っていて、ユーザーのニーズを満たすことができない内部要因です。コストやリソースで足りていない部分など、自社が苦手とする部分を抽出します。

機会(Opportunities)

自社のチャンスに見える外部要因です。政治、経済、社会、技術、競合や買い手、売り手の動きから、事業にとって成長の追い風となる要因をより多く抽出します。

脅威(Threats)

自社にとって障害となる外部要因です。自社の強みを打ち消す危険性や弱みが深刻になる環境の変化、競合他社の動きをより多く抽出します。

SWOT分析では、収集する情報が膨大になるので、対象事業の目標やターゲットユーザーを定めて、自社に関係のあるものから分析します。その際に、自社の強みを機会と混同したり、自社の弱みを脅威と混同したりすることがあるので注意が必要です。機会と脅威は、自社の活動では変えることができない要因です。内部の「強み・弱み」と外部の「機会・脅威」を混同しないようにしてください。

また強みと弱み、機会と脅威は表裏になり社内で意見が分かれることもあります。

事実や推測がどちらに該当するのか、議論して見解を合わせましょう。

クロスSWOT分析

SWOT分析で収集した項目は「状況」です。さらに、「クロスSWOT分析(TOWS analysis)」を行い、自身の解釈を行い、戦略を策定していきます。

自社の強み×機会:積極化戦略(SO戦略)

自社の強みを使い機会を活かす方法を検討します。その上で、自社の強みがより高まり、追い風に乗れるような戦略を策定します。

自社の強み×脅威:差別化戦略(ST戦略)

自社の強みで脅威の影響を避ける方法を検討します。脅威を避け、場合によっては機会として活かすことができないかと考えることが重要です。脅威を逆手に取って、競合他社との差別化ポイントを探りながら、戦略を策定します。

自社の弱み×機会:段階的戦略(WO戦略)

機会を活かすために、自社の弱みを補強する方法を検討します。段階的に弱みを改善してチャンスを取り逃がさないようにする戦略を策定します。具体的には、弱みを理解しつつビジネスチャンスを逃さない新規参入を行う、特に参入せずに様子を見るなど、機会損失を起こさない判断を行います。

自社の弱み×脅威:専守防衛・撤退戦略(WT戦略)

自社の弱みを理解し、脅威による影響を避ける、もしくは最小限にする方法を検討します。徹底的に防衛策を図るか、事業そのものを撤退するのかの判断が必要です。最悪の結果を想定しつつ、その結果を避けるような戦略を策定します。

表:クロスSWOTウェブ解析士協会人材育成事業の例

【機会】

  • テレワークの浸透/働き方改革
  • オンライン会議の普及
  • 各種助成金/補助金
  • デジタルマーケティングの拡大

脅威

  • 新しい技術の台頭
  • コロナ禍による広告抑制
  • 検索離れとSNSへの移行

強み

  • オンライン講座がすでにある
  • オンライン試験に対応している
  • 全国に講師がいる
  • 毎年改訂し最新の情報

広報とマーケティング力強化

  • 新しい時代に合わせた特徴を打ち出す
  • オンライン講座の強化

新サービス整備

  • SNSマネージャー認定講座など新しい講座・セミナー開発
  • カリキュラムの改変

弱み

  • 国家資格ではない
  • ウェブ解析自体の市場がまだ狭い
  • 知名度がある講師はまだ少ない

資格の浸透

  • 無料/安価なオンラインセミナーなどでのPR活動
  • 活躍人材の紹介

見直し

  • 国家資格とは一線を画すブランディング
  • 普遍的な事柄の強化

2-2-6. STP分析

STP分析とは、セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の頭文字を取った名称で、市場を細分化し、ターゲットとポジションを明確にする分析方法です。

セグメンテーションで市場の全体像を把握して細分化し、ターゲティングで狙うべき市場を定め、その中で競合他社との位置関係を定めるのがポジショニングです。

これらにより自社の製品・サービスを効率よく売上を上げていくことを目指します。顧客のニーズを明確にし、プロモーション戦略を明確にし、他社との差別化を図ることができるからです。

セグメンテーション:勝つための軸を決める

同じようなニーズを持つ顧客層をまとめます。セグメントする際に主に使う指標は4つです。

  1. 年齢や性別、職業などの人口動態変数
  2. 地域や天候、交通状況などの地理的変数
  3. 価値観やライフスタイルなどの心理的変数
  4. 購買におけるベネフィットや購買回数、ロイヤリティの状態などの行動変数

ターゲティング:対象を絞る

セグメントした市場の中から狙うターゲットを決めます。

ターゲティングは企業の状況などによって変わってきます。

例えば、限られた市場に集中させる、複数の市場を狙いそれぞれに別々の商品・サービスを投入する、すべての市場に同じ商品を投入するなどが考えられます。ブルーオーシャンの開拓につながることもあります。

ポジショニング:選ばれる理由を作る

定めた市場でどのような立ち位置をとるか決めていきます。

競合に勝てる軸を定めることが大切です。

例えば、価格、品質、ロケーション、サポート体制などが軸になります。同じ市場・同じ商品であったとしても、サポート体制を充実させ高価格で販売するという方法もありますし、多様なトッピングを用意してユーザーの詳細なニーズに応えるという方法もあります。逆にそのようなものを排除し低価格で勝負するという方法もあるでしょう。

図:STP分析 ウェブ解析士協会人材育成事業の例

図:STP分析 ウェブ解析士協会人材育成事業の例

STP分析の注意点

STP分析を行う際は、次の6Rと呼ばれるフレームワークを活用すると良いでしょう。

十分な規模(Realistic scale)

業界の市場規模のことです。自社が狙うにあたり十分かどうかを確認します。

成長性(Rate of growth)

業界の市場規模の成長度合いのことです。今は小さくてもここまでの分析から伸びると考える市場を狙うことも一つの方法です。

競合状況(Rival)

業界の競合の数や競争環境のことです。競合の多さや強さだけではありません。例えば、強い競合により寡占状態であったとしても、地域や対象を絞ることで勝てるポジションがあることがあります。

優先順位(Rank)

狙った業界をどれだけ優先度が高いかを評価することです。また波及効果が高いかどうかを検討します。

到達可能性(Reach

物理的な距離の長さや、ニーズや文化などターゲットへ製品・情報・サービスが届くかどうかを評価することです。例えば、海外に製品を販売する場合、その対象とする国で利用されている検索エンジンやSNSを利用できなければリーチができないことになります。

測定可能性(Response

ユーザーからの反応を測定できるかということです。PDCAを回すためにも、適切な評価指標を設けそれを測定することが大切です。

表:6R STPウェブ解析士協会人材育成事業の例

十分な規模

デジタルマーケティングに関わる人は10万人と推計し、その2割(2万人)が資格に関心を持つと推測した。

成長性

デジタルマーケティングの需要は高まるだろう。日本の広告費(電通)によると毎年10%前後インターネット広告費は増えている。

競合状況

専門家中心の組織やウェブ全般の研修会社などは多く存在するが、初心者を対象に全国で行うデジタルマーケティング系の組織は少ない。

優先順位

デジタルのウェイトが高まる中で、初期はウェブ解析を業にしようとする組織、中期では広告代理店や制作会社、長期ではこれからデジタル事業に参入する組織で優先度が高まると推測した。

到達可能性

それぞれの対象に合わせた広告配信だけではなく、地域性や専門性の高い講師を育成することでその販路を活かす。

測定可能性

ターゲットに即したアクセス状況や申込状況を測定することで軌道修正を図る。

2-2-7. マーケティングミックス

製品・サービスを複数の視点から分析します。ここでは、売り手視点の「4P分析」と、ユーザー視点の「4C分析」を紹介します。このマーケティングミックスは、現状の製品・サービスの分析に使う場合と、新しい製品・サービスを市場に展開するために使う場合があります。

事業の目的と時間軸を意識して活用してください。

4P分析

製品・サービスを構成する要素である「製品(Product)」「価格(Price)」「流通(Place)」「販売促進(Promotion)」を売り手から見た視点で分析するフレームワークです。

製品(Product)

製品の特性は、3つの要素から成り立っています。1つ目の要素は、製品のコアです。顧客の本質的なニーズを満たすための、根本となる機能や価値のことです。2つ目の要素は、製品の形態です。コアに付随する品質やスタイル、ブランド、パッケージなどが挙げられます。3つ目の要素は、付随機能です。アフターサービスや保証、成功体験など、付加的な要素のうちで顧客が価値を感じるものを指します。

価格(Price)

コスト、カスタマーバリュー、競争環境で分析します。コストは、固定費変動費で構成されていて、製品1つあたりの価格から変動費を引いた限界利益の最大化を意識します。カスタマーバリューは顧客が妥当だと認める価格のことです。製品自体の質や、伝達する力などが影響します。競争環境は、競合の価格やその動向を分析します。競合事業、製品、サービスから競合が設定している価格を分析します。

流通(Place)

長さ、エリア、卸や代理店などパートナー企業で分析します。長さとは、流通業者を通すか、直接ユーザーとやりとりしているかといったことが対象です。

販売促進(Promotion)

販売促進の手段として、広告、人的セールス、パブリシティ、クチコミなどを分析します。広告は、どのようなメディアを組み合わせて活用しているか、伝えるべき情報がビジュアライズされているかを分析します。誰にどんなポジションで売り込みたいかを明確にし、ターゲットのほしいときにほしい情報をほしい場所で打ち出すことです。人的セールスは、営業担当者を通して販売を進めることです。パブリシティとは、商品やサービス提供者側が発信した情報をメディアに取り上げてもらうことです。クチコミは、ユーザーを巻き込み、ユーザー自ら商品やサービスの宣伝を行うことです。

4C分析

「ユーザーが得る価値(Customer Value)」「ユーザーの負担コスト(Cost to the Customer)」「ユーザーにとっての利便性(Convenience)」「ユーザーとのコミュニケーション(Communication)」で分析するフレームワークです。昨今、ユーザー視点でのマーケティングが重要になっており、注目されています。

ユーザーが得る価値(Customer Value)

4P分析の「Product」をユーザー視点にしたものです。コストに対して得られる価値がユーザーにとって高ければ、その製品・サービスが選ばれることになります。

ユーザーの負担コスト(Cost to the Customer)

4P分析の「Price」をユーザー視点にしたものです。金銭に限らず、時間的、心理的コストが含まれます。

ユーザーにとっての利便性(Convenience)

4P分析の「Place」をユーザー視点にしたものです。製品やサービスの購入や使いやすさとして、決済や配送の利便性が含まれます。

ユーザーとのコミュニケーション(Communication)

4P分析の「Promotion」をユーザー視点にしたものです。ユーザーが日頃どんなところから情報を得ているのかを分析し、ユーザーが事業と接点を持ったタッチポイントを分析します。オンライン・オフラインを通して接触機会を増やし、ユーザーをファンにしていく活動が含まれます。

表:4C分析 ウェブ解析士協会人材育成事業の例

Customer Value
(ユーザーが得る価値)

  • 客観的な評価が得られる
  • 体系的に、かつレベルに応じた学習ができる
  • 毎年新しい情報を得られる

Cost to the Customer
(ユーザーが負担するコスト)

  • 受講料・受験料
  • 会費
  • 学習時間と試験時間がそれなりにかかる

Convenience

(ユーザーにとっての利便性)

  • オンラインでも各地域でも受講・受験できる
  • テキストは書店やAmazonで買える
  • 自分の空いている時間に学習できる

Communication

(ユーザーとのコミュニケーション)

  • 全国にいる講師(ウェブ解析士マスター)
  • SNSでの情報発信
  • 関連するセミナーの開催

2-2-8. ブルー・オーシャン戦略

これまでの戦略策定は、競合他社と競争するという「レッド・オーシャン」の市場で戦うことを前提としていました。しかし、ブルー・オーシャン戦略は、未開拓のユーザーに新たな価値を提供することで、新しい市場を創造し、利潤の最大化を実現するというものです(『新版ブルー・オーシャン戦略』W・チャン・キム、レネ・モボルニュ[著]、⼊⼭ 章栄、有賀 裕⼦[訳]、2015、ダイヤモンド社。『ブルー・オーシャン・シフト』W・チャン・キム、レネ・モボルニュ[著]有賀 裕⼦[訳]、2018、ダイヤモンド社)。

表:レッド・オーシャン戦略とブルー・オーシャン戦略

レッド・オーシャン戦略

ブルー・オーシャン戦略

既存の市場で競争する

戦っていない市場を創造

既存のルールで競争する

競争の必要性をなくす

既存の需要を利用する

新しい需要を創造して勝ち取る

提供価値とコストのどちらかを下げる

価値とコストのどちらかを下げることに妥協しない

ここでは、ブルー・オーシャン戦略で使われるフレームワークを紹介します。

戦略キャンパス

業界における競争要因を並べ、買い手にとっての価値の高さを明らかにするチャートです。このチャートで表す事業戦略を「価値曲線」とも呼びます。横軸には「顧客への提供価値としての業界の競争要因」、縦軸には「顧客がどの程度の価値レベルを享受しているか」(スコア)をとります。そして、高スコアであるほど、企業がその要因に力を入れていることを意味します。

図:戦略キャンバス ウェブ解析士協会人材育成事業の例

図:戦略キャンバス ウェブ解析士協会人材育成事業の例

PMSマップ

縦軸に「パイオニア(Pioneer)」「移行者(Migrator)」「安住者(Setter)」を、横軸に「現在」「将来」を取り、ブルー・オーシャンを創造できる製品・サービスを絞り込むフレームワークです。パイオニアは、顧客に提供する価値を格段に引き上げる可能性のある人です。安住者は、標準的な価値曲線となる層です。移行者は、パイオニアと安住者の中間に位置します。

このマップから、現在あるいは将来に、パイオニアになる製品やサービスを特定します。安住者に位置する製品やサービスは現在の大きな収益源であり、パイオニアとなる製品やサービスは初期段階において多大なコストがかかります。パイオニアと安住者のバランスをうまく取る必要があります。

図:PMSマップウェブ解析士協会人材育成事業の例

図:PMSマップウェブ解析士協会人材育成事業の例

非顧客層3グループの分類

購入していないユーザーを潜在的な市場として考え、それぞれの非顧客層の共通点を発見します。

第1グループの「消極的買い手」

対象事業の市場に近い存在ですが、必要最低限の支出しかしない人です。競合他社と併用して購買しているので、なぜ対象事業で購買を増やさないかという視点で分析します。

第2グループの「利用しないと決めた買い手」

対象事業の製品やサービスを検討した上で、製品やサービスに満足できず、使わないと判断した人です。対象事業の製品やサービスを使わなくなった理由を探ります。

第3グループの「市場から距離を置く買い手」

市場から、最も遠く、自社の製品やサービスについて検討したこともない人です。心理を分析し、自社の製品やサービスとつながりを持つ可能性を探ります。

グループごとの共通点を解明し、それによってブルー・オーシャンを創造します。

図:非顧客層3グループの分類 ウェブ解析士協会人材育成事業の例

図:非顧客層3グループの分類 ウェブ解析士協会人材育成事業の例

買い手の効用マップ

顧客が経験する買い手のステージとして「購入」「納品」「使用」「併用」「保守管理」「破棄」を列とし、顧客の効用を生み出す要素として「生産性」「シンプルさ」「利便性」「リスク低減」「楽しさや好ましさのイメージ」「環境への優しさ」を行として、買い手のステージを進めるための要因を「○」、妨げてしまう要因を「×」として記入します。自社だけではなく競合も含めて分析し、ユーザーの経験に効用を促す要因を特定します。

表:買い手の効用マップ ウェブ解析士協会人材育成事業の例

購入

段階

納品

段階

使用

段階

併用

段階

保守管理

段階

破棄

段階

生産性

シンプルさ

×

利便性

×

×

リスク低減

楽しさや
好ましいイメージ

環境への優しさ

4つのアクション

差別化と低コストを同時に追及するために、4つの質問に答える形で、従来の戦略ロジックやビジネスモデルの刷新の可能性を探ります。

  • 業界常識として、取り除くべき要素は何か
  • 業界標準と比べて、減らすべき要素は何か
  • 業界標準と比べて、増やすべき要素は何か
  • 業界に対して、新たに付け加えるべき要素は何か

この4つの問いをもとに、取り除いたり減らしたりすることでコストの削減を検討します。そして、付け加えたり増やしたりすることで、顧客への付加価値を向上させます

図:4つのアクション

図:4つのアクション

6つの経路(パス)

「6つの経路」とは、競合がいない市場を探すための思考経路です。

  • 代替産業に学ぶ
  • 業界内のほかの戦略グループに学ぶ
  • 買い手グループに目を向ける
  • 補完財や補完サービスを見渡す
  • 機能志向と感性志向を切り替える
  • 将来を見渡す

従来の戦略策定は、競合が真似できない自社の強みでユーザーに価値を提供するというを考え方がありますが、ブルーオーシャン戦略では、代替となる企業の動向から機会を見つけます。また、ユーザーの要望に応えるのではなく、ユーザーをゼロから定義します。製品・サービスは、業界の枠組みからの価値最大化を図るのではなく、併用している製品・サービスの動向から価値最大化を図ります。業界内の機能と感性を整理し、その機能を最大化させるのではなく、その機能を入れ替えることができないかを探ります。現在の外部環境や業界動向ではなく、将来の外部環境や業界動向から機会を探ります。

表:6つのパス

経路(パス)

一般的な経営思考

経路(パス)

ブルー・オーシャンの経営思考

業界から学ぶ

業界内の競合企業に照準を合わせる

代替産業に学ぶ

代替財や代替サービスを提供する業界に着目する

同じ戦略の

企業から学ぶ

同じ戦略思考の企業と競争ポジションに注意する

ほかの戦略の

企業から学ぶ

業界内のさまざまな戦略グループを見渡す

買い手に

注目する

単純に買い手・ユーザーの要望に応えようと注力する

買い手グループに

注意する

業界の買い手グループを定義し直す

業界製品や

サービスの範囲

業界の枠組みの中で、製品やサービスの価値を最大化しようとする

補完財や補完

サービスを見渡す

業界の枠組みを越えて補完財や補完サービスを見渡す

機能志向と

感性志向に分ける

業界の機能志向・感性志向に沿って、価格・パフォーマンス比を改善する

機能志向と感性

志向を切り替える

業界の機能志向あるいは感性志向を問い直す

今を見る

外部トレンドへの適応を目指す

将来を見通す

将来にわたって外部トレンドの形成に関わる

2-3 マーケティング解析

ウェブを中心としたマーケティング解析の方法を紹介します。解析といった場合、最初に頭に思い浮かべるのは、自社サイトに設置された解析ツールのデータを分析し、レポートを作成することかもしれません。これは、もちろん間違いではありませんが、マーケティングの効果を十分に評価しきれない場合もあり得ます。

ウェブ解析士は自社のアクセス解析を実施するのを前提に、それ以外のデータや情報も積極的に取得することが必要です。解析ツールは自社サイトの状況を微細なまでに見える化してくれますが、逆にアクセス解析の結果から外部環境を把握するのは困難なのが実情でしょう。ユーザーのトレンドや世の中がどう動いているのか、サイトの「外」も含めて解析するために、まずはデータの見方としての絶対評価と相対評価を理解してください。

2-3-1. 絶対評価と相対評価

デジタルマーケティングの施策を評価する場合、最も一般的な方法は、アクセス解析です。アクセス解析する際、過去のデータや任意で決めた基準値と比較することは「絶対評価」で、競合、異業種などと比較することは「相対評価」になります。

絶対評価だけでなく、相対評価も用いると、事業の正確な状況が判断できます。例えば、自社の売上が前年と比較して減少していたら、絶対評価では「芳しくない」と判断しますが、競合も含め市場全体が縮小していれば、相対評価によって「よく持ちこたえた」と解釈できる可能性もあります。

図:絶対評価と相対評価

図:絶対評価と相対評価

相対評価によって、目標を立てやすいというメリットもあるでしょう。同規模の競合他社などを参考にすることで、自社の目指すべき目標を定めやすくなります。この相対評価では「ベンチマーキング」を意識しながら、ツールの使用方法、情報収集、分析の仕方を学びましょう。

ベンチマーキングとは、自社にとって取り込みたい優良事例を持つ企業を見いだし、自社との差を明らかにして目標を定め、方針を決定することです。

図:目標に向けた方針の策定

図:目標に向けた方針の策定

ここでは、6つのステップでベンチマーキングを進める方法を説明していきます。

図:ベンチマーキングの進め方

図:ベンチマーキングの進め方

Step 1:業績

市場全体が伸びているのかを確認し、次にその業界を牽引する主要プレイヤーである企業の業績を考査します。

Step 2:ウェブ来訪者数

その企業のウェブサイトのパフォーマンスを確認し、業績と連動しているのか、サービス内容と連動した傾向なのかなどを分析します。

Step 3:来訪者内訳

ウェブ来訪者の属性、トラフィックから、集客への取り組みの違いを精査します。

Step 4:検索順位

SEOのパフォーマンスを調べ、自然検索流入への取り組みの違いを検討します。

Step 5:表示速度

表示速度を調べて、閲覧ストレス軽減への取り組みの違いを検討します。

Step 6:更新頻度

更新頻度や更新内容を調べて、ユーザビリティやコンテンツの取り組みの違いを検討します。

まずはベンチマークすべき企業を特定し、その企業のウェブサイトを調査します。その後、事業とベンチマーク企業の差分を把握して、活かせるベストプラクティスの仮説を立てます。

PR施策、広告施策、SEO施策、コンテンツマーケティング、ユーザビリティ改善(ページ速度)、UI設計、更新(=改善頻度)といった、多面的な視点で自社にはないベストプラクティスを見いだします。

図:ベストプラクティスの発掘

図:ベストプラクティスの発掘

「施策につながるデータに注目する」というウェブ解析の原則にしたがって、「解析結果からどんな施策が講じられるのか」をイメージしながら調査することが重要です。このような調査、解析、考察を行うことで、自社のポジション評価や課題発見につなげます。

2-3-2. ベンチマーキングのための情報ソースやツール

情報ソースとツールを利用する方法として「解析の視点」「ツールの使い方」という2つの観点で説明します。

検索ニーズの確認

Googleトレンドを使って、市場の検索ニーズを大まかに把握します。期間や地域別、複数の言葉で検索数の増減を相対的に比較ができます。「コスメ」と「メイク」の検索数を過去10年で見てみると、2012年1月に逆転しています。このようにユーザーにおける検索ニーズの変化を把握することで、新たな気付きが得られ、仮説立案や施策を実施する際にも有用です。結果を国でフィルタをかけることもでき、有力な海外マーケットのリサーチにも役立ちます。

解析の視点

キーワードの検索数が増えているか減っているか、需要期や閑散期などの季節性はあるのかなどを確認します。

ツールの使い方

どんなキーワードがその業界の伸長を指し示しているのかを推測するには、該当する業界への理解が重要です。GoogleやYahoo! JAPANなどの媒体が提供しているリスティング広告のキーワードアドバイスツールなどを利用して、検索ボリュームの多いキーワードを調べることもできます。

業界の主要プレイヤーを特定する

GoogleやYahoo!などの検索エンジンで、業界名に、「業績」「ランキング」などのワードを加えて検索します。

137業界のセグメントから、業界の過去の推移、業界の動向と現状、企業ランキング&シェアなどが掲載されています。

解析の視点

消費者からどれくらい支持されているのかを測るのは、売上が一般的でしょう。利益や株価、時価総額などの情報は経営的な要素も強くなり、マーケティング視点では評価が困難です。ランキングの並び順と合わせて、差異の大きさ、市場全体に対して上位数社のシェア率が大きいのか、それとも分散しているのかなども併せて考察します。

ツールの使い方

検索エンジンで、「(キーワード) 業界売上 ランキング」を検索します。検索上位に「年度- 業界動向サーチ」が表示されます。事業と関連性があるかを確認して、分析します。

主要プレイヤーの業績を確認する

日経会社情報DIGITALは無料でも使えますが、掲載情報のすべてを閲覧するには、有料会員の申し込みが必要です。売上が安定的に増加していることや、時価総額などもわかります。

解析の視点

業界成長が鈍化しており、上位企業の寡占化が進んでいるとなると、上位以外の企業にとっては厳しい状況であるように思われます。このように、全体のトレンドと各社のトレンドを併せて見ることで、業界の現在のコンディションを深掘りします。

ツールの使い方

企業名を入力して検索します。詳細情報は有料会員のみですが、売上高の情報は確認できます。また、ページ下部には「業界から銘柄を探す」という機能があります。ここでは、当該業界の主な銘柄(企業)が時価総額順に並ぶので、先のランキングと併せて分析します。

ウェブサイトのパフォーマンスを他サイトと比較する

「SimilarWeb」は視聴率モニターなどをもとにした推計値を基本に、ウェブサイトの分析を行うツールです。したがって、Googleアナリティクスなどの全数データとは値が異なるため、効果測定には注意が必要で、他サイトとの比較など、相対評価としての利用がお勧めです。

解析の視点

各社間の業績の差異とウェブサイトのパフォーマンスの差異に大きな違いがあるかを確認します。仮に業績よりもウェブサイトのパフォーマンスが高かった場合は、その企業がデジタルマーケティングに力を入れている、もしくはウェブと相性のよい製品を扱っているといった可能性が考えられます。逆に、業績よりもウェブサイトのパフォーマンスが低い場合は、デジタルマーケティングにあまり注力していないのかもしれません。

ツールの使い方

SimilarWebに対象ウェブサイトのURLを入力すると、そのウェブサイトのパフォーマンスを調査できます。無料版の場合は、URL第2階層以下を指定した調査ができないため、調査対象はURL第1階層で調査できるウェブサイトに限られます。無料版では、過去3カ月間の月平均値を確認できます。

特に確認したい情報は、「来訪数」「平均直帰率」「平均PV」「平均滞在時間」です。

SEMrushはSEO、広告、SNS等で競合分析ができるオールインワンのツールです。SimilarWebと同様にトラフィックの分析ができるほか、競合サイトのオーガニック検索順位やLP、広告出稿しているキーワードとコピーなど、より広範で具体的なデータを調べることが可能です。ただ、数多くのツールが用意されている分、使いこなすまでやや時間がかかるかもしれません。また、トラフィックなどは推定値となるため、競合比較や参考値として利用するのが良いでしょう。

解析の視点

競合とのキーワードの順位比較や競合がオーガニック検索で上位のページなど、より具体的なデータから戦略を立てることができます。また、競合がリスティング広告で出稿しているキーワードや出稿量、広告コピーの他、SNSの投稿などから、デジタルマーケティングにおける総合的な戦略を分析し、自社の施策に生かすことができます。

ツールの使い方

オーガニック検索の分析で利用する場合は、「キーワードギャップ」で自社と競合のSWOT分析をすると便利です。競合と自社の検索順位を比較し、自社が弱いキーワードや、欠けているキーワードを収集していきます。例えば、「自社が弱く、かつ競合が10位以内」のキーワードは優先的に施策が必要になるでしょう。さらに、実際にコンテンツを計画する際には、キーワード調査ツールが用意されているので、そちらで関連キーワードなどを調べます。また、テクニカルSEOの検査ツールやバックリンク分析ツールも用意されているため、SEOのさまざまな視点からの分析が可能になっています。広告運用で利用する場合は、競合のリスティング広告分析やディスプレイ広告分析機能が活用できます。

SEMrushは無料版も用意されていますが、1日のリクエスト数や利用できる機能が制限されているため、実務で利用する際には有料プランを利用したほうがストレスなく使えます。有料プランは$99.95/月と比較的リーズナブルな上、上記で紹介した機能を含むほとんどのツールが利用できるようになるのでコストパフォーマンスは悪くないでしょう。

日本では「SimilarWeb」が有名ですが、海外では、Amazonの子会社であるAlexaが開発している「Alexa Web Search」もよく使われています。Alexaは1996年から開発されている商業サイトのウェブトラフィックデータ追跡および分析ツールです。具体的には、各ウェブサイト上でのブラウズ動作に関するデータを収集し、Alexaのウェブサイトに送信します。サーバー上で保存されたデータは分析され、ウェブトラフィックレポートの基礎データとなります。そして、それらのデータをもとにして、Alexa Rankと呼ばれるデータなどが算出されます。また、それ以外の機能として、最適なキーワードを探索する機能、競合他社のキーワード分析を実施する機能、自社サイトでSEOを行った場合の目標に対する最適化度合いを測定する機能などが含まれています。

「Alexa Web Search」の特徴

Similar Webとデータソースが異なるため、メディアの媒体資料では信頼性を⾼めるため両者のデータを参照されることが多い

ウェブサイトの来訪者の属性を確認する

国内20万人規模の消費者パネルにより、ウェブサイトのパフォーマンス情報を調査できます。SimilarWebと比べて、来訪者のデモグラフィック属性情報が充実している点が特徴です。無料でも利用できますが、利用登録が必要です。

解析の視点

調査対象にしたウェブサイトに訪問するユーザーの属性に偏りがないかを確認します。業績のよい会社の属性を確認することで、どのような属性のユーザーに受け入れられているかの参考になります。また、各社主要商品のメインターゲットに違いが顕著な場合もあります。

ツールの使い方

対象ウェブサイトのURLを入力すると、来訪者数などのパフォーマンスを確認できます。ウェブ来訪者の属性を調べる場合には「ユーザー属性」のメニューから確認します。eMark+の無料版では、直近1カ月間の情報を閲覧できます。

特に確認したい情報は、「性別」「年代」「地域」「職業」「未既婚」「子供の有無」「世帯年収」「個人年収」です。

性別、年代など、ツールによってさまざまな属性情報を確認できますが、無作為に多くのデータを収集するよりも、その業界、その企業、その製品などの特徴を表しやすい項目にフォーカスした分析を行うことが大切です。

ウェブサイトのキーワード別順位を確認する

同じキーワードで自社と競合で検索の順位を調査することができます。どの企業がどんなキーワードで検索上位を狙っているのかを解析し、施策のヒントを見出します。

解析の方法

検索エンジンにおける検索順位は、そのキーワードに対する消費者の関心の高さと比例します。単にSEOで短期的に順位を上げられたとしても、ユーザーの期待と異なった内容だった場合は見過ごされてしまい、検索結果の上位を維持することは難しくなります。

ツールの使い方

ツールに対象ウェブサイトのURLと、調査したい検索ワードを入力します。結果表示に若干時間がかかるケースがあります。ツールによっては、順位を定期的に取得するものもあります。

社名や製品名などの指名ワードで獲得できるのは主に顕在層であり、「一般ワード」で獲得できるのは潜在層のユーザーです。認知を広げたい、新規の顧客を開拓したい場合は、一般ワードの検索順位にフォーカスしましょう。

ウェブサイトのSEOの要因を確認する

SEO関係の基本情報を一通り調査できるツールです。以前からSEOで重要といわれる基本的な項目の情報が中心となっています。「資生堂」では、キーワード、h1要素が確認できますが、「花王」は確認できませんでした。

解析の視点

メタ情報、含有キーワードの情報などを見ると、検索エンジンを意識している度合いがわかります。また、インデックス数は、ページ数、つまりコンテンツの量ともいえ、その意味でもユーザーに対するサイトの情報提供の姿勢を反映していると見ることもできます。

ツールの使い方

ツールに対象ウェブサイトのURLを入力するだけで、基本的な情報収集を行います。

特に確認したい情報は、「タイトル、ディスクリプション、キーワード、h1要素」「インデックス数(ページ数=コンテンツ数)」「含有キーワードと出現頻度」です。

ウェブサイトの表示速度のパフォーマンスを確認する

表示速度のパフォーマンス調査ツールの中で、結果のデータが充実しているのが「Pingdom」です。応答時間、ファイルサイズなどのほか、ページ内各ファイルのリクエスト応答速度も細かく調査してくれるため、具体的な改善業務に活かしやすいツールです。

解析の視点

同じ業界や競合サイトなどの応答時間の差異で評価します。応答時間は、基本的に短ければ短いほど利用者の使い勝手がよく、ストレスも低く、エンゲージメントが高まると考えられます。

ツールの使い方

ツールに対象ウェブサイトのURLを入力するだけで、基本的な情報収集を行います。

特に確認したいのは、「Load time」「ファイルサイズ」「構成ファイル数」です。

ウェブサイトの更新頻度を確認する

世界中のウェブサイトの履歴をアーカイブしているサービスです。そのドメインでウェブサイトが公開されたときから、更新されるたびに、ページがアーカイブされています。Flashなど、その時代で使われていたプラグインがないと閲覧できないコンテンツもありますが、その当時のまま保存されているわけです。

分析の視点や方法

更新頻度の多さは、ウェブを通じた消費者とのコミュニケーションに対する企業姿勢の表れの1つであると考えられます。また、ユーザーにとって情報の有益さや鮮度の高さと連動する場合が多く、その結果として、満足度や再来訪率の高さにつながります。その他、フルリニューアルの変遷を確認すれば、現在のウェブサイトの方針を推察できます。

ツールの使い方

冒頭の棒グラフが更新頻度であり、グラフの起点が、そのドメインでのウェブサイトの誕生年になります。各年を選択すると、その年内の各月カレンダーが下部に表示され、更新のあった日にマークが付いています。このマークをクリックすると、その時点のウェブサイトが表示されます。表示されたウェブサイトは、基本的にはリンクなどの機能もそのまま表示されますが、当時のHTMLを現在のウェブブラウザで正しく表示することは難しく、表示崩れや非表示になる場所もあります。

特に確認したい情報は、「更新履歴」「更新内容」「過去のウェブサイト」です。

2-4 マクロ解析とミクロ解析

ウェブサイト全体の傾向を集計する量的調査(デモグラフィック)を行うマクロ解析に対し、個別ユーザーの閲覧経路を調査しユーザーの感情や思考を想像する質的調査(サイコグラフィック)を行うのがミクロ解析です。

2-4-1. マクロ解析とミクロ解析の違い

マクロ解析とは、サイト全体のデータをもとに、トラフィックやユーザーの傾向を把握し、事業の成果に貢献するためのレポートです。

ユーザーや広告の効果などを集計、解析し、その成功理由や問題点を明らかにし、ビジネスに貢献する提案を行います。

マクロ解析では、事業分析や競合分析を含むことがあります。またオフラインの店舗やマスメディアの結果などあらゆるデータをもとに、ウェブに限らぬビジネスやサービスの改善まで含めます。

図:マクロ解析とミクロ解析の違い

図:マクロ解析とミクロ解析の違い
表:マクロ解析とミクロ解析の指標

マクロ解析

ミクロ解析

主な指標

  • サイトへ流入している企業名、地域名
  • 閲覧ページ経路(見積もり依頼があった見込み客が何を閲覧しているかなど)
  • 訪問頻度・訪問回数・日時

目的

  • 事業の成果を上げること
  • ユーザーの満足度を上げること

ツール

  • アクセス解析ツール
  • 広告効果測定ツール
  • 競合分析ツール

マクロ解析における主要な解析指標には、セッション数、ページビュー数、直帰率などがあります。ミクロ解析では、サイトへ流入している企業名、地域名、閲覧したページや経路、訪問頻度、訪問回数、日時が主な指標となります。

ミクロ解析は、ウェブサイトを見ているユーザーの個別の閲覧経路といった情報が得られるため、営業部門をはじめとする各部門スタッフのデジタルマーケティングへの関心を集め、それぞれの業務に活かすことができるようになります。

マクロ解析は事業の成果に貢献することをゴールに全体の傾向からマーケティングやコンテンツの問題点を発見、ビジネスを改善する提案を行います。

ミクロ解析はユーザー一人に着目し、そのユーザーのゲインポイント、ペインポイントを明らかにすることでそのユーザーをより満足にするための改善の提案を行います。

マクロ解析でビジネスの改善につながらない提案になったり、ミクロ解析でユーザー視点の改善になっていない場合は、その目的を達成できない点に注意してください。

2-4-2. ミクロ解析とツール

Googleアナリティクスには、ユーザーエクスプローラレポートという機能がありますが、機能に制限があります。

また、ミクロ解析機能に優れた体表的な有料解析ツールには、「らくらくログ解析」 <https://www.rakulog.com/>、「User Insight」 <https://ui.userlocal.jp/>、「Amplitude」 <https://www.locationvalue.com/service/amplitude/>などがあります。

2-4-3. ミクロ解析の目的と対象者選定

ミクロ解析の目的と対象者選定を説明します。

ミクロ解析の目的

1-1-3でユーザーエクスペリエンスの定義や、その重要性を説明しました。これは、多くの情報をユーザーが得られるようになり、ニーズの多様化や、個別一人ひとりの価値観が異なってきたことが背景にあります。

そこで、マクロ解析のように、指標の総数、率、平均で見るのではなく、ユーザー一人ひとりの行動を分析し、心理を読み解き、事業の課題に合わせて個別最適化したウェブサイト改善やサービス提供、そしてアプローチ手法を行うことが重要です。

ミクロ解析は、個別一人のユーザーにフォーカスし、ユーザーの体験を向上し、ユーザーの満足度を高めることを目的としています。

ミクロ解析の実施方法

ミクロ解析は、次のような手順で実施します。

1. ユーザー選定条件を特定(ユーザー選定)

対象期間中のユーザー群の中から、どのユーザーを分析対象にするかの選定条件を特定します。事業の目的や課題にあわせた選定条件となるようにしてください。下記は選定基準の例です。

  • コンバージョンに至ったユーザー
  • 訪問回数5回以上、
    かつ商品Aページを閲覧したユーザー
  • 特定した企業、かつセミナーページを閲覧したユーザー
2. 対象ユーザーを選定(ユーザー選定理由)

選定条件に基づいて、対象ユーザーをリストアップします。リストアップしたユーザーの閲覧経路を順番に見ながら傾向をつかみ、詳細に分析します。

なぜこのユーザーを選んだのかも明確にします。選定したユーザーの企業が特定される場合は、企業のホームページや口コミサイトを確認しながらユーザーの置かれている環境を分析します。

3. 閲覧経路を分析し、改善点の仮説を立てる(経路分析)

閲覧したページの特定だけでなく、閲覧した順序や各ページの滞在時間、ユーザーのデバイスや地域などにも注目して分析します。

ユーザーがウェブサイトを利用しているシーン、ウェブサイトを訪れた目的、知りたいこと、興味を持っている製品、検討にあたって関心を寄せていることなどに仮説を立てます。

4 人物像の作成(ペルソナ、カスタマージャーニーマップ)

経路分析から見える事実を人物像としてまとめてみましょう。それをもとにペルソナを作成します。そのペルソナと経路分析からカスタマージャーニーマップを作成し、その人の行動と課題、改善内容をまとめます。

5 施策立案策と実行(施策・実行)

ウェブサイトの改善、営業活動の改善、製品、サービス企画改善と目的にあわせて、担当部門と連携して対策立案を行います。施策は、ユーザー目線で立案すること。施策立案後、実行します。

6. 施策実行後の効果検証

施策実行後は、その効果の検証を行います。ウェブサイトの改善を目的とした場合は、マクロ解析の量的調査と組み合わせて実施することで、検証できます。営業活動の改善は、商談でのクライアントとのコミュニケーション結果から、仮説が正しかったかどうかを検証できます。製品、サービス企画改善の場合は、リサーチや、観察に基づく調査などを行い、検証できます。

2-4-4. ミクロ解析を使ったユーザー分析と展開

ユーザーを特定し、ユーザーの思考と行動を施策に展開するためのフレームワークとして「ペルソナ分析」と「カスタマージャーニーマップ」を説明します。

ペルソナ

ペルソナは、商品やサービスを購入するであろう「理想のユーザー像」を設定します。年齢、家族、住まい、仕事などの基本情報、ライフスタイル、対象商品やサービスに対する意識や行動、情報接触の傾向などを設定します。

商品やサービスの内容、調査の目的によっては、複数のペルソナを作ることが必要な場合もあります。

プロジェクトの関係者が協力してペルソナを作成することによって、お客さまの課題、生活行動の考察、自社が提供する価値を共有でき、ユーザー像がより明確化され、ユーザーへの理解が深まります。

図:ペルソナ分析の例(ウェブ解析士マスター⼭内真由美氏が作成したもの)

図:ペルソナ分析の例(ウェブ解析士マスター⼭内真由美氏が作成したもの)

カスタマージャーニーマップ(Customer Journey Map)

カスタマージャーニーマップとは、カスタマー(顧客)の行動をジャーニー(旅)に見立てたフレームワークのことです。具体的には、ユーザーが商品やサービスを認知し、興味を持ち、購入・申し込みに到達するまでの行動を分析します。

ユーザーの態度変容をステップ化し、態度変容のステップごとにゴール、アクション、接点、想い、気付き、解決策を一覧にします。ゴール、アクション、接点、想いはユーザー視点とし、気付きや解決策は事業側視点から考えます。カスタマージャーニーマップは、「顧客の理解」や「関係者間の認識整理」に有効です。

図:カスタマージャーニーマップの例

図:カスタマージャーニーマップの例

2-4-5. 事業戦略をミクロ解析から策定

ミクロ解析は、ウェブサイトやデジタルマーケティングの改善以外にも、リード獲得、リード育成を目的として、インサイドセールス部門や営業部門へ連携し、顧客獲得につなげることができます。

また、ターゲット市場外からの閲覧が多い場合は、製品・サービスの開発のヒントになることもあります。

ミクロ解析から見込み客を見つける

ミクロ解析は、アクセスログIPアドレス情報からユーザーの組織名やページ閲覧内容を調べることができます。この組織名情報を活用して組織ごとのミクロ解析を行えば、営業会議で次のような議論ができます。

  • 「ウェブサイトを見ていたA社は、製品Xについての取引実績があるが、新たに製品Yに関する技術ページも見ている。次回商談時に提案してみよう」
  • 「展示会で名刺交換した見込み客の中で、D社がウェブサイトを訪れて商品ページを閲覧していたので興味を持っているようだ」
  • 「提案活動中のE社は閲覧ページ数も多いし、滞在時間も長くじっくりと閲覧している。さらに、E社からのユーザー数が増えているので、社内会議で議題に挙がったのかもしれない。次回提案時は担当営業のFさんに同行し確実にクロージングしよう」
  • 「今まで想定していなかった電機業界からのアクセスが多い。商品開発部と連携して電機業界向けの製品・サービスの開発を考えてみよう」

図:Googleアナリティクスユーザーエクスプローラーによるユーザーの特定

図:Googleアナリティクスユーザーエクスプローラーによるユーザーの特定

問い合わせがあった見込み客の経路分析で商談力を高める

ミクロ解析は、特に法人向けサービスや製品(B2B)や不動産ファンドのような、意思決定プロセスに時間がかかる製品や、サービスを扱っている企業で商談力を高めることができます。ユーザーのウェブサイト内での動きから、隠れたニーズや興味を持っているポイントの仮説を立て、商談時に持参するカタログの選定や、商談時にプレゼンすべき論点を定めることができます。

さらに、商談後にウェブサイトへ再訪してきているかどうかを閲覧経路で確認します。商談後の閲覧経路から、見込み客が初回商談を経て興味を持っているポイントを分析することで、契約獲得に向けた提案書作成や見積書作成の参考になります。

このように、従来はオフラインでの営業担当の属人的なヒアリングスキルに依存していたことも、ミクロ解析によって見込み客の「ニーズ」を知ることができれば、営業担当者の商談力を底上げができるようになります。

図:Googleアナリティクス ユーザーエクスプローラーによるユーザーの閲覧経路解析

図:Googleアナリティクス ユーザーエクスプローラーによるユーザーの閲覧経路解析

メールマガジンや広告の出稿品質の改善をする

ミクロ解析は、メルマガや広告を経由してウェブサイトを訪れたユーザーの閲覧経路を分析できます。閲覧経路から媒体ごとのユーザー行動の傾向やニーズの違いを把握することで、広告の出稿方法を見直し、最適化できます。

図:ミクロ解析によるユーザーの閲覧経路解析

図:ミクロ解析によるユーザーの閲覧経路解析

2-4-6. ミクロ解析と他手法の連携

ミクロ解析は、次のような応用でさらなる課題解決が進んでいます。

ユーザーテストとミクロ解析を組み合わせる

ミクロ解析以外の代表的なユーザ分析手法の1つに、2-1-2「ユーザビリティの調査」で紹介したユーザーテストがあります。ユーザーテストとミクロ解析を組み合わせたユーザー行動観察を行うことで、マクロ解析では知ることができないユーザーの心理や感情に焦点を当てた解析ができるようになります。

より「個人」を見る流れに

IPアドレス情報のみでは組織名はわかっても、「個人」までは特定することができません。

そこで、パラメーターの付与を設定することで、「個人」を特定したミクロ解析ができるツールも登場しています。この機能を有する主なミクロ解析ツールに「リストファインダー」、「SATORI」、「MindPick」、「juicer」などがあります。また、近年はDMP(データマネジメントプラットフォーム)を活用したマーケティングオートメーションの導入も進んでいますが、DMPに蓄積させるビッグデータとしても活用されています。

図:個人を特定してウェブサイトでの閲覧行動を解析する仕組み

図:個人を特定してウェブサイトでの閲覧行動を解析する仕組み

ミクロ解析を行う際の注意点

ミクロ解析では、個人を特定する解析を行うため、次のことに注意してください。

関連法規や自社のポリシーを遵守する

閲覧経路分析は、個人情報と関連付けた解析をすることもできます。2020年3月に個人情報保護法の改正がありました。ミクロ解析を実施するにあたってはこれらの法律やポリシーを確認し、遵守するようにしてください

ミクロ解析で得られるデータと実際の閲覧実態に差異が出ることがある

多くのミクロ解析ツールではCookieを使用して、ユーザーの判別を行っています。そのため、実際には同一人物であっても、ウェブサイトに訪れた環境によっては別のユーザーとして扱われる場合があります。例えば、同一人物がPCとスマートフォンではCookie情報が異なるため、別ユーザーとみなされることがあります。さらに、ブラウザのセキュリティ設定でサードパーティーCookieを受け付けない設定にしている場合は、訪問のたびに別のユーザーとしてアクセスログデータに記録される場合があります。

また、組織名は、固定のIPアドレスを保有している企業からのアクセスに限られます。固定IPを保有していない企業からウェブサイトへのアクセスがあった場合は、組織名の代わりにプロバイダ名が表示されます(IPアドレスには数の制限があり固定IPを取得していない企業は契約しているプロバイダになります)。このように、閲覧実態とアクセスログデータには差異が生じる場合があることにも注意をして解析を行ってください。

2-5 アジアに学ぶ日系企業のデジタルマーケティング戦略

日系企業と海外企業のマーケティングの違いから日本企業の海外進出のヒントをご紹介します。

日本はとても素敵な国です。観光地としても知られ、多くの観光客に好感を持たれています。海外の観光客が日本の電器店やドン・キホーテや薬局などで爆買いする光景は決して珍しくなくなりました。しかし日本発の越境ECが海外で成功している例が少ないのはなぜでしょうか? 日本の市場への理解は完璧ではないですが、在日経験があって、日本人とコミュニケーションができて、外国人だから気づく、日系企業とアジアの企業のプロモーション視点の違い、そして日本から海外進出する時に考えるポイントを、私の視点で共有します。

アジア企業と日系企業との戦略の違い

Time is Money、時は金なり。時間にシビアなのが、ECで成功しているアジアの企業の特徴です。個人的な印象ですが、日系企業には「ホウ.レン.ソウ」の言葉に表れているように、お客様の確認と承認が最優先になり、スピーディーではない面があります。もちろん、お客様の了承がないまま適当に仕事をするべきではありません。日系企業はもっと柔軟に対応するべきということです。

国民性かもしれないですが、完璧なものを出したがるのは日系企業の特徴です。そもそも完璧なキャンペーンは存在しません。方向性、KPIとコアの宣伝素材が確定していれば、あとはマーケターに自由にやらせるべきです。プロモーションに対するオーディエンスの反応を見て、素早く最適化することこそ成功への早道です。

何をどこで売りたいではなく、売れるマーケットを選びましょう

PDCAはとても大切です。実際やってみなければ、すべては仮説でしかありません。何の商品をどのマーケットでどのように売るかの選定する方法もこうであるべきです。

例えば、シンガポールはGDPが高いため購買能力が高く、市場としては魅力的です。また、法人税が低く、日本人が住みやすい国ナンバー1に選ばれています。上記の理由でシンガポールに進出する会社を多数知っています。

しかし同じ東南アジアでも、家賃と人件費は周りの国と比べて最低2~3倍高くなります。店舗ビジネスは一番コストが高いのですが、私が知っている日系スキンケアメーカーは、4年前にテストマーケットをせず、いきなりシンガポールで店舗を構えました。未だに赤字です。まずは越境ECで、コストを抑えながら、売れるマーケットを明確にすることが得策だと思います。

東南アジアで推薦されるデジタルマーケティングの手法

日本との大きな違いはTwitterの浸透度が低いことです。使用される言語が多いことと学歴レベルの格差が原因だと見ています。インドネシアだけで700言語、フィリピンは120から187言語で、タイは62言語あるといわれています。その上に、国によって学歴レベルの格差を加えると、文字ベースのTwitterが使われていないことも納得できます。

文字でなければ、何か良いというとビデオマーケティングが効果的です。タイのコマーシャルは「長いのに面白い」で有名です。バンコクは東京より前から電車内でコマーシャルを流していたと思います。言葉がわからないながら、電車内でずっとコマーシャルを見てた記憶があります。

インフルエンサーの活用が有力

ビデオマーケティングの延長で東南アジアでは全体的にFacebook、InstagramとYouTubeが主流となっています。ブランドレベルからの発信もありますが、インフルエンサーレベルでの活用が目立っています。ブランドレベルの信用も大切ですが、身近な存在と思えるインフルエンサーの信憑性の方が高いと思われています。経験上、日系企業は日本での商品やサービスのレビューをそのまま英訳して、サイト、広告などに使いますが、ローカルマーケットからすると「日本では人気ですね」くらいにしか思っていないと思います。もっと寄り添って、現地の方のレビューを集めることに力を入れるべきだと思います。

各地域ローカルのマーケターは欠かせない

英語ができなくて現地とコミュニケーションができないからといって、日本にいるマーケターに海外のマーケティングを任せるべきではありません。海外にオフィスを設けて、ローカルの人材を雇っている広告代理店はたくさんあります。海外進出を視野に入れているならば、現地に直接行って人を紹介してもらうこともできます。日本国内にいながらでも、ウェブ解析士協会のような団体に人を紹介してもらうこともできます。方法はいくらでもあります。言葉は最も重要な問題ではありません。

例えばシンガポールの共通言語は英語です。シンガポールの会社は英語が通じないベトナムに商品を売り込む時、ベトナム語ができないから難しいですよねと言う人はいないです。日本人は言語の問題を気にしすぎていると思います。

アジア企業と日系企業の施策の違い

日本語の特徴からでしょうか。日本の広告は控えめという印象があります。そして、日本人は日本語以外の情報を選びたがらないことによる選択肢の量の違いもありますが、他の国の方よりは根気よく、目の前にある情報を理解しようとしてくれます。そこで日本人がプロモーションで心がけてほしいことは、「大げさくらいがちょうどいい」ということです。

機能を強調するか消費者のメリットを強調するか

商品の説明について、日系企業は機能を強調しますが、アジアの企業は消費者にとってのメリットを語ります。職人のプライドで、材料や職人技にどのくらいこだわっているかを伝えたい気持ちはわかりますが、消費者には関係ありません。

厳しい言い方のようですが、角度を変えて、以下のような考え方をしてはいかがでしょうか? 日本製は品質が高いことが知られています。日本製は職人のこだわりが強く、中国製や韓国製の製品より価格が高いことも理解されています。ですので、機能が優れていることを中心にアピールしていても、消費者がすでに知っていることを言っているだけで、購買意欲を高められません。

文章を(1)問題点、(2)解決策、(3)得られる結果、にまとめることをいつもお客様におすすめしています。

視覚に訴える

文字より写真、写真よりビデオの方が効果的です。この法則は恐らく、日本もあてはまりますが、アジアの企業の方がずっと派手です。なぜでしょうか? それは日本語の情報にくらべて、英語や中国語の情報の量と選択肢が多いからだと思います。アマゾンやアリババのような巨大なショッピングモールのマーケットシェアは言うまでもなく圧倒的に大きいです。このショッピングモールの競争が激しい中で、売れる商品を研究すると、広告宣伝素材が豊富なことが違いとして挙げられます。費用対効果が高いこともあるでしょう。ブランド力も関係あるでしょう。それでは、キックスターター <https://www.kickstarter.com/>を例として、見てみましょう。キックスターターはニューヨークから始まった、R&amp;D中の商品を掲載し、資金を集める、いわゆるクラウドファンディングのサイトです。ここで紹介している商品は全部無名です。目標金額に満たない商品や、もしくはギリギリでしか達成できなかった商品と、目標の数倍の金額を達成した商品を見比べれば、すぐその差に気づきます。目標の数倍の金額を達成した商品はすべて紹介動画がしっかりしています。商品がどのような問題を解決し、この商品を使うことによってどのように利用者が楽になるかを説明しています。

「R&amp;D 」とは

Research and developmentの略で、研究開発を意味する

効果的な割引

以前ある化粧品の広告宣伝を担当していた時、割引に対して頑なな抵抗を受けたこともあります。クライアントは割引をすることでブランドのネームバリューを落とす怖さがあると話していました。前の段落でも伝えましたが、海外では選択肢がたくさんあるので、競争が激しいのです。割引はあくまでも値下げをしたいのではなく、注目してもらうための手段のひとつでしかありません。もちろん、安ければいいというわけではありません。オンライン詐欺が多い中、安すぎるのはインチキっぽいと警戒されるからです。でもユーザーに「得をしている」と感じさせることが大事です。例えばトライアルセットは、リスクを最小限にし、お客様が簡単に試す機会となるいいきっかけになります。どのような割引が一番効くかはA/Bテストをしてみないとわからないですが、競争が激しい中では、知ってもらうきっかけや、手に取って見てもらえるきっかけを工夫しなければなりません。

コロナ禍の今こそグローバル展開のチャンス

最近のグローバル進出は10年前、20年前とは違います。日本製だけで売れるのはもう昔の時代で、さまざまな国から多く優れた商品が流通していて、とにかく競争が激しいのです。勝ち抜くためには、スピード力、継続力とリソース力が鍵になります。継続するためにリスクとコストを最低限にしつつ、あらゆる可能性を試す必要があります。

今の世の中はまさに、グローバル進出に一番適切なタイミングです。コロナ禍でオンライン化がより進んできて、オンラインがより当たり前になっています。ネットというリソース、越境ECというリソース、グーグルやFacebookなどのリソースを上手く使えるようにならないといけないです。