2021年ウェブ解析士(日本語)テキスト

2. 第1章:ウェブ解析と基本的な指標

第1章
ウェブ解析と基本的な指標

あなたは、入社6年目の消費財メーカーのウェブ担当者です。仕事の範囲は幅広く、ウェブサイトの運営から広告の企画、そして営業部門や製造部門、実店舗の専用端末との連携まで任されています。

上司から「これからデジタルマーケティングを任せるので成果を出してほしい」と指示されました。しかし、「どこから手を付けたらいいのだろうか……?」というのが本音のところです。

そんなとき、先輩から「ウェブ解析士」という資格を教えてもらいました。ウェブ解析士協会のウェブサイトなどで公開されている教材や動画を見ても、初心者向けというにはかなりの量があり、内容も難しそうです。数式や計算、解析方法も次々に出てきます。用語も馴染みのないものがたくさんあります。

「ウェブ解析士を学ぶよりも、SEOや広告で認知を高めることや、ソーシャルメディアを活用してユーザーとの関係を深めることのほうが、すぐに成果に直結しそうな気がしています。ウェブ解析より、もっと成果につながる方法があるのではないか……」と思っていました。

そんな中、「ウェブ解析」はデジタルマーケティングのスキルを習得するために基盤となるということ <https://www.waca.associates/jp/study/wac/>を知り、ウェブ解析は解析のスキルを伸ばすだけではなく、実務のマーケティングで成果をあげるために学ぶのに適しているのではないかと思い、ウェブ解析士認定試験公式テキストを手にしました。


第1章では、ウェブ解析士としてデジタルマーケティングを実践していく上で最も大切な日本のマーケティングの変遷、ウェブ解析の意義、基本的な指標、法律・ポリシーについて学びます。私たちは、ウェブ業界で働くときに欠かせない基盤となるスキルとマインドがウェブ解析にあると考えています。

  • 「1-1. ウェブ解析とは」では、インターネットが社会に与える影響やユーザーに価値を提供するウェブ解析の範囲を解説します。
  • 「1-2. ウェブ解析士の仕事」では、ウェブ解析士の仕事内容や守るべき法律やモラル、セキュリティについて説明します。
  • 「1-3. ウェブの基本的な仕組み」では、ウェブサイトが表示される仕組みや、アクセス解析のローデータを学びます。
  • 「1-4. ウェブ解析に使われる4つの視点」では、データの絞り込みや項目、指標の使い方と、基本的な指標を取り上げます。
  • 「1-5. 新しいプラットフォーマーや経済圏の動き」では、近年に見られる新しいプラットフォームや経済圏について学びます。
  • 「1-6. マーケティング0への招待」では、マーケティングの原点を日本の長い歴史から読み解きます。

1-1 ウェブ解析とは

「ウェブ解析」の役割とは、インターネットを通してデータの裏側にあるユーザーの心理や行動の理解です。そして、ウェブ解析の目的は、インターネットを通して自社やクライアントの事業の成果(売上利益)に貢献することです。

インターネットを用いたマーケティングをデジタルマーケティングと呼びます。すべての企業において、ウェブだけでなくスマートフォン(スマホ)アプリやデジタルサイネージなど、さまざまな顧客との接点(タッチポイント)を活用し、顧客とより深い接点を作ることで、事業の成果に貢献していくことが求められています。

今やデジタルメディアは、ユーザーに最も身近なメディアとなりました。それにともなって取得できるデータ量も飛躍的に増大していますが、記録や連携や解析を容易にするAI(「Artificial Intelligence」の略で人工知能のこと)のコストはクラウドコンピューティングの台頭によって大きく下がり、中小企業などでも活用できるようになっています。

ユーザーは、店舗でもデジタルメディアでも使いやすさを求めています。「スマホで注文した製品を店舗で受け取る」「店舗にない製品をオンラインで届ける」というサービスは、ユーザーにとって必要なサービスとなっています。このように、リアルな店舗とデジタルを連携するチャネル(マーケティングで顧客との接点になるメディアや情報が伝わる経路のこと)の融合(オムニ)、つまりオムニチャネル化(マルチチャネルの進化系、リアルとネットを別々のいろいろな(マルチ)チャネルではなく融合した(オムニ)チャネルと考えること)が小売店に求められています。

例えば「Quip」 <https://www.getquip.com/2020>という電動歯ブラシサービスがあります。電動歯ブラシから送信される日々のデータと、提携歯科医で受ける歯科検診のデータを使い、デンタルケアや関連製品の提案が受けられるというサービスです。このように、メーカーもブランドの立ち上げから販売、サポートまで、デジタル技術で付加価値をつけられるようになってきました。これをD2C(Direct To Consumer)と呼びます。

例えば中国では、レストランの客は「WeChat」 <https://www.wechat.com/>でメニューを見て注文し、「WeChatPay」で決済を行うことができます。WeChatは中国で最もメジャーなメッセンジャーサービスです。店舗側は、WeChatで顧客にキャンペーン情報などを配信することもできます。

このようにデジタル化が進むと、オフラインの活動もデジタル化することで、顧客の利便性向上と業務の最適化が可能になります。これをアフターデジタル(『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(藤井 保文、尾原 和啓 著/日経BP/2019年/ISBN978-4-296-10162-7))あるいはOMO(Online Merges with Offline)(O2O(Online to Offline)から進み、OnlineがOfflineを取り込んだサービスのこと)と呼びます。このようなすべてがオンラインになった社会が全方位で進みつつあります。そして、その動きは、新型コロナウイルスの影響で、さらに急速に全産業で加速しています。既存事業でもこの動きに適合させる必要もあり、デジタル化による事業の抜本的な業務転換をDX(デジタルトランスフォーメーション)と呼びます <https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004-1.pdf>。

デジタル化の対象は広がっているものの、ユーザーの行動をデータを用いて理解し、マーケティングを改善するために用いられているのはウェブ解析の技術です。企業の財務に使われる複式簿記が400年前から誓われているのと同様に、ウェブ解析の方法も大きくは変化していません。マーケティングを改善した結果を客観的に判断するために、ウェブ解析を最初に学んでおく必要があるのです。

ウェブ解析で提供されるレポートは、データを元に数字やグラフを使って根拠を示します。そのデータは問題や改善点を客観的に示しているため、経営者や事業担当者が納得しやすいというメリットもあります。つまり、ウェブ解析は、経営者や事業担当者にユーザーの思いや行動の重要性を伝える橋渡し役でもあるのです。

ウェブ解析の本質は、マーケティングに「カイゼン活動」を取り入れることです。「カイゼン活動」とは、アメリカのデミング博士から学んだ方法に基づいて生み出された品質管理方法です。海外ではISO9001やシックスシグマなどトップダウンの品質改善活動が主流でしたが、カイゼン活動は工場で働く生産現場の社員全員が行うボトムアップ方式でした。これが日本製品の安全性と品質の向上、そしてコストダウンをもたらしたのです。

カイゼン活動の指導者として有名な大野耐一氏の「トヨタ生産手法」(『トヨタ生産方式 ―脱規模の経営をめざして』(大野 耐一 著/ダイヤモンド社/1978年/ISBN4-478-46001-9))は海外の経営にも取り入れられ、それを体系化した「リーン生産方式」はリーン・スタートアップ成長理論(『リーン・スタートアップ ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』(エリック・リース 著、井口 耕二 訳/日経BP/2012年/ISBN978-4-8222-4897-0))でも多く引用されています。

マーケティングにカイゼン活動を用いることがウェブ解析の本質です。

1-1-1. インターネットが社会に与える影響

「DIGITAL 2020」 <https://wearesocial.com/digital-2020>によると、人類の59%がインターネットを利用しています。今や地球上の過半数の人類が使うようになったインターネットの普及は、全世界を対象としてビジネスのあり方や考え方に変革をもたらすこととなりました。

産業にあたえる影響

ホテルを持たないAirbnbは最大の宿泊業者になり、タクシーを1台も持たないUberやGrabが旅客業を一変させました。そして、このような状況をいち早く届けたのは、マスメディアではなく、ソーシャルメディアなどのインターネットで実現したリアルタイムで1対1のやりとりでした。

このようにユーザー自身が情報元となり、積極的にメディアを活用し共有する経済下において重要になるのは、ユーザーに感動的なエクスペリエンス(感動体験)を提供し、エンゲージメント(絆)を作ることです。今や顧客の協力なくして事業の成長はなく、エクスペリエンス向上を意識しない事業は、大きく発展していくことはないでしょう。言い換えれば、事業の収益や効率化だけを考える経営や、製品・サービスの押し売りばかりするマーケティングは、ユーザーとの絆を得られず、社会的に淘汰される時代であるといえます。

ユーザーに与える影響

インターネットの利用範囲は急速に拡大していますが、世代ごとにインターネットの利用頻度や範囲には大きな差が生まれ、そのことがユーザーの価値観や行動様式にも大きな影響を与えています。次に示した世代の定義付けは欧米で生まれた考え方ですが、インターネットによって価値観や情報の共有が進む中、若い世代ほど地域を越えた世界共通の特徴を持つようになっています。

インターネット普及後の世代は、その人の生まれた年代によって価値観に違いが生じているといわれ、次のように分類されます(世代の区切りには、さまざまな定義があります) <https://en.wikipedia.org/wiki/Generation>。

ジェネレーションX(1965~1980年生まれ)

情報源はテレビ中心です。バブル崩壊を経験し、政治や社会活動に冷めた面を持っています。仕事では効率重視で、家庭も仕事も両立を求めます。消費行動は強く、衝動買いもしばしばあります。学歴を重視しています。

この世代はメール中心の人が多く、SNSは積極的に利用しません。インターネットもパソコンを中心に利用する世代です。

ミレニアル世代(1981~1996年生まれ)

「ジェネレーションY」とも呼ばれます。情報はインターネットが中心で、手間がかからず短時間でできることを好みます。将来よりも今の楽しさを重視する傾向が強く、モノへのコダワリが少なく、体験を重視します。学歴やキャリアより、いまの楽しさを重視しています。

「デジタルパイオニア」とも呼ばれ、物心ついたころにはすでに携帯電話やインターネットが普及していた世代です。スマートフォンを使い、SNSを会話の中心に使うことが一般的です。

ジェネレーションZ(1997~2012年生まれ)

すでにSNSが広く普及していて、情報源はインターネットの動画が中心です。社会問題やダイバーシティ(多様な人材を積極的に活用しようという考え方)、インクルージョン(障害などで排除せずに平等に仕事や学びの機会があるという考え方)に対しての関心が強く、仲間同士で意見の交換もしています。簡単で手間がかからないことより、自分が他者と違う個性があることを大切にしています。

「デジタルネイティブ」と呼ばれ、複数のデジタルデバイス、メディアを使ってさまざまなチャネルでの接点があります。情報発信能力が高く、社会問題や自分の主張をオンラインやオフラインで受発信する能力に長けています。

デジタルマーケティングやウェブ解析を行う際には、世代によって全く違う印象を与え、行動を促すことがあります。特にデジタルネイティブであるジェネレーションZは、オンライン・オフラインのどちらの情報受発信能力も長けています。世代間の特徴を意識してデジタルマーケティングを行う必要があります。

世界のインターネット環境の違い

欧米や日本ではスマートフォンがない時期からインターネットの利用が普及しているため、パソコンでの利用が前提のサービスが多くあります。しかし、アジアやアフリカでは、スマートフォンの普及と同時にインターネットの利用が広まったため、スマートフォンでの利用が圧倒的に多くなっています。また、ソーシャルメディアも同時期に普及したことで、インターネットの利用はソーシャルメディア中心になっています。

また、中国は他の国とインターネット環境が少し異なっています。政府によって情報やセキュリティの管理が厳格に行われているため、GoogleやFacebookやYouTubeなどの一部のサービスを利用することができません。その代わりに中国のさまざまなスタートアップが同様のサービスを提供しているため、中国国内ではそれらのサービスが中心に使われています。中国国内でも利用されることを期待するサービスでは、利用できるサービスであるかを確認することが必要です。

そして、中国では電話番号を交換するだけでメッセージを送り合えるショートメッセージ(短信:SMS)が多用されていました。インターネット契約をしなくても使えるというシンプルさが好まれ、現在でもよく使われます。中国では、プライベートではメールはほとんど使わない人も多いということにも気をつけてください。東南アジアでも、メールよりメッセンジャーやソーシャルメディアでの連絡のほうが好まれます。

1-1-2. ウェブ解析の範囲

ウェブ解析の対象範囲には、ユーザーと接点のあるあらゆる範囲のメディア、チャネル、タッチポイントでユーザーが発信する情報が含まれます。これらの情報には定量的、定性的情報が含まれますが、物流や会計などのユーザーと関わりのない情報は範囲外です。

ウェブ解析においては、「分析」と「解析」を区別して用います。どちらも論理的に事象を読み解き、共通認識を「伝える」ことが求められますが、ウェブ解析では「分析は言葉を対象」とし、「解析は数値を対象」とすると明確に区別しています。意識して使い分けてください。詳しく言えば、「分析」とは、事象を分解し、主に言葉で原因や理由やその事業の構造や成り立ちを明らかにして共通認識を促すことを指します。これに対して、「解析」とは、さまざまな事象をデータとして数値化し、その本質を論理的に明らかにして共通認識を促すことを指します。

分析による事業方針の理解と解析による数値化は、どちらもウェブ解析の対象とすべき範囲となります。

明治維新後、日本の産業の礎を築いた最大の実業家である渋沢栄一は、その著作『論語と算盤』(『論語と算盤』(渋沢 栄一 著/忠誠堂/1914年)国会図書館デジタルコレクション <https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1195171>で参照できる。また、角川ソフィア文庫で現代仮名遣いで復刊されている(ISBN978-4-04-409001-2)ほか、ちくま新書からは『現代語訳 論語と算盤』(守屋 淳 訳/ISBN978-4-480-06535-3)も刊行されている)で道徳と利益は両方重要であると伝え、後世の実業家に大きな影響を与えました。事業において、論語(=道徳)とは企業理念や事業方針ということになります。事業分析によって、事業の理解はその企業の道徳心を知ることにつながります。算盤(=利益)はマーケティング解析などの解析によって、事業の売上を伸ばし、利益を上げることです。どちらか片方の成功では、その事業は成功とはいえません。

ウェブ解析の事前準備として、環境分析が欠かせません。環境分析は、事業ととりまく環境を分析することで、カスタマー分析、ベンチマーク分析、事業分析などがあります。その事業のおかれた環境と方向性を理解することもウェブ解析の重要な範囲です。

環境分析のあとで、ウェブ解析を行います。ウェブ解析では、事業のすべての内容が解析の範囲となります。それぞれ個別のメディアの効果測定だけでは不十分で、すべてのメディアを巻き込んだ活動を実施し、測定しなければいけません。

また、アフターデジタルの時代においては、オフライン・オンライン双方のデータを測定するだけではなく、そのつながりも測定範囲にしなければなりません。

ウェブ解析とは、定量または定性的なあらゆるデータからユーザーを理解し、その満足度を高める行動を促していくことで、事業の成果に貢献する技術です。つまり、ユーザーを理解し事業の成果につなげるための仮説を立て行動し、その結果を測定しあらたな事業の方向を指し示す技術ともいえます。

ウェブ解析の範囲として、次の3つの範囲の解析が挙げられます。

ビジネス解析

市場や競合他社に関する調査データや、商談率や受注率、売上などの事業プロセスに関するデータの分析

マーケティング解析

ソーシャルメディアや検索サイトにおける検索トレンド、視聴率調査結果などから得られるアクセス解析以外のインターネットから得られるデータの解析

アクセス解析

オウンドメディアと呼ばれる、自社で運営するウェブサイトやアプリから得られるヒートマップツールを含むデータの解析

図:ウェブ解析の範囲

図:ウェブ解析の範囲

1-1-3. エクスペリエンスとエンゲージメントが価値を創造する

あらゆるものが飽和した現代において、製品・サービスの機能や性能そのものでユーザーニーズに応えることは年々難しくなってきています。顧客が、製品・サービスとの接触を点ではなく線で捉え、そこから得られるあらゆる体験から「うれしい」「楽しい」「また使いたい」というような好意的な価値が生まれ、ブランドとして強化されていくことが、差別化につながります

エクスペリエンス(感動体験)

本来的には、「エクスペリエンス」とはユーザーやカスタマーが製品・サービスを利用したり購入したときの体験のことです。ただし、本テキストでは、事業の価値を高めるような「感動体験」をエクスペリエンスと定義します。事業は、よりよいエクスペリエンスを提供することが重要になります。よいエクスペリエンスを提供できない事業は存続することができません。ここで取り上げるエクスペリエンスには、次の2種類があります。

一般的なエクスペリエンスの定義
  • 「ユーザーエクスペリエンス(UX:User Experience)」はウェブサイトやアプリなど、部分的な操作画面利用者としての体験です。なお、UXと混同されがちな「ユーザーインターフェイス(UI:User Interface)」は、ユーザーがウェブサイトやアプリで情報をやり取りする接触面を指します。
  • 「カスタマーエクスペリエンス(CX:Customer Experience)」は、顧客の認知から購入や利用までの、顧客が一連の流れの中で得るあらゆる体験です。CXを高めることで、顧客はエンゲージメントを感じ、さらなる利用や率先した共有・拡散へとつながります。

図:カスタマーエクスペリエンスとユーザーエクスペリエンスの関係

図:カスタマーエクスペリエンスとユーザーエクスペリエンスの関係

イーコマースを例に考えてみましょう。ウェブサイトで目的の製品・サービスを見つけられるか、納得して購入できるかといったUXの良し悪しは、ターゲッsトユーザー(顧客)がその製品・サービスを購入するかどうかに大きく影響します。しかし、顧客と事業の接点は、ウェブサイトだけではありません。購入から到着までの対応、包装や製品そのもの、カスタマーサポートなど、ウェブサイト以外にも、顧客としてのエクスペリエンス、すなわちCXの入り口になるタッチポイント(接点)が数多く存在しています。どんなにウェブサイトのUXがよくても、配達予定日に配送されないといった購入後の対応が悪ければ、顧客としては不満が高まり、エンゲージメントも低下します。つまり、企業と顧客との接点が複数存在する以上、それぞれの接点でエクスペリエンスの向上に努めることが重要なのです。

ウェブ解析において、UXはもちろん重要ですが、それ以上にCXを考慮して設計・解析してください。ウェブサイト1つのユーザーの行動を把握しただけで、そこから施策を考えるのでは部分的なUXの改善・最適化にしかならず、CXの向上は限定されてしまいます。ターゲットの目的、状況・環境における心理状況を把握し、エクスペリエンス全体を設計するために、部署や担当者間が連携して顧客にとっての優れたエクスペリエンスを提供していく必要があります。

エンゲージメント(絆)

エンゲージメント(絆)は、企業や製品・サービスが持つ考えや主張に喜怒哀楽の感情も含め同意することやその感情をさします。ロイヤリティ(Loyalty)を近い意味で使うこともあります。ユーザーが持つエンゲージメントは、その企業や製品・サービスのデザインやポリシーなどが中心になります。どんなによい品質や機能があっても、その企業や製品・サービスにデザインなどの部分でユーザーが感情面でも賛同できる部分がないと、エンゲージメントを獲得することはできません。

エンゲージメントを獲得できる企業や製品・サービスは、「価格以外に持ち合わせている価値」をユーザーに感じてもらうことができます。エンゲージメントにより、ユーザーが企業や製品・サービスに対して常に「期待」や「信頼」を寄せながら接してくれるからです。中長期的なエンゲージメントをユーザーが感じてくれれば、顧客として何度も製品・サービスを購入してくれるようになります。

エンゲージメントにより、特定の製品・サービスに愛着や信頼を感じ、繰り返し購入したり、優先的に購入してくれることをカスタマーユーザーのロイヤリティと呼び、それを獲得することとブランディングに密接な関わりがあります。

ユーザーやカスタマーによいエクスペリエンスを提供し、そこからよいエンゲージメントを獲得することがデジタルマーケティングで目指すことです。そして、ウェブ解析で測定するのはこれらのエクスペリエンスやエンゲージメントの変化であり、そのためにビジネス解析やデジタルマーケティング解析やアクセス解析を行います。

1-1-4. ブランディングとコンセプトワーク

提供したエクスペリエンスや、構築したエンゲージメントを資産化することがブランディングになります。資産化とは、ブランドのデザインや名称を見たときに、その感動経験、絆を想起させることです。ブランディングが曖昧になると、せっかくのよい経験や絆がブランドと結び付かず、特定のイベントや場所に紐付いて想起されません。

曖昧にならないブランディングを行うためには、コンセプトワークでビジネスのあるべき姿を定義することが求められます。

ブランディング

「価格以外に持ち合わせている価値」がブランディングです。かつて多くの企業は、マスメディアの広告に多額の宣伝費を投じ、長期的なロイヤリティを育てるブランディングを行ってきました。しかし、その方法では、製品サービスのブランディングと中長期的なエンゲージメントの獲得が一層難しくなっています。ニーズが多様化を極め、かつ価格競争が激化する中において、マスメディアは効率が悪く、1つの製品・サービスが永続的に手にされることは少なくなってきたからです。

この課題を解決するため、デジタルマーケティングがブランディングを視野に入れ、ウェブ解析もターゲットの中にある「ブランド像」を浮き彫りにし、エンゲージメントを高める「ブランディング」を促すことが必要となります。

ブランディングの方向を定めるコンセプトワーク

これからのウェブ解析士には、担当する事業の価値を深く理解し、どのようにコミュニケーションすれば、顧客とのエンゲージメントを増幅できるかという課題意識が必要です。

そのためには、次に示したようなステートメント(宣言)を明確にする必要があり、このステートメントを生み出す活動をコンセプトワークといいます。

ビジョン

実現したい社会、環境、未来を表現したステートメントです。あるべき周辺の状況を説明する、図やペインテッドストーリー(実現した時期の自分たちや周囲の状況を周囲に説明するストーリーにして表現すること)を描くこともあります。

ミッション

そのビジョンを実現するために行いたい活動のステートメントで、やりたいことや果たしたい役割を説明します。ユーザーやカスタマーや社会に対して貢献する姿として書いたり、自分たちが極めたい技術やサービスで表現することもあります。

マーケティングゴール

ビジネスゴール(売上や企業規模)の対義語で、ユーザーやカスタマーや社会がどのように課題解決し、満足し、幸せになるかを説明するステートメントです。ユーザーやカスタマー、社会が主語であり、どう感謝しているかを説明します。ユーザーやカスタマーのペルソナ(後述)など、ユーザー分析の絞り込みに使うことができます

これらには、当然ながら、他者と違いがわかるパーソナリティがあることが重要です。このようなビジネスのコンセプトを決めることが、コンセプトワークです。コンセプトワークには、ロジックツリー(後述)を含むこともあります。すでにコンセプトがあれば、それを言語化し、言語化していなければ言語化からスタートすることになります。

これらのステートメントを確認、設定することからブランディング活動をはじめてください。

CXがブランディングの起爆剤になる

ブランディング活動において、競合間の競争ルールが大きく変化しています。ブランドに宿る機能的な価値やイメージ価値での差別化が難しくなっている現在、CXを差別化の起爆剤にしていこうという考え方が注目されています。

そのためには、顧客の気持ちの変化に寄り添い、CXが豊かになる方向に、マーケティングプロセス全般を刷新していく必要があります。豊かなCXが提供できれば、顧客の自発的な「推奨」やポジティブな「評価」を引き出すことが可能になります。CXの中で、ウェブ解析が顧客と事業の最良な接点を作る技術として、ますます役割が大きくなっていくことは間違いありません。

ピーター・ドラッカーが、最古のマーケティング戦略として紹介した越後屋の事例(『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』フィリップ・コトラー、ケビン・レーン・ケラー 著/恩藏 直人 監修/月谷 真紀 訳/丸善出版/2014年/ISBN978-4-621-06616-4)では、庶民が「ターゲットユーザー」でした。分け隔てなく反物(着物)を売り、その代わりに現金掛け値なし(掛け売り(代金後払い)をしないで、正札どおりに現金で取り引きを行うこと)で販売しています。1683年には、引札(チラシ)の効果測定も行っています <http://www.yhmf.jp/pdf/activity/adstudies/vol_03_01_02.pdf>。また、雨の日にはお店の宣伝を載せた番傘を無料で貸し、「番傘貸し」が日本橋の名物となりました。その風景が「江戸中を 越後屋にして 虹がふき」という川柳に詠まれています。CXがブランディングの起爆剤となった事例といえるでしょう。

ウェブ解析士はコンセプトワークを通してブランディングを行い、ブランディングに関するさまざまな知識や手法を習得した上で、そこから中長期的な関係づくりの視点から行動を促していくこととなります。顧客に寄り添い、顧客とのエンゲージメントを深める活動を促す事こそが、ウェブ解析といえるでしょう。

1-1-5. 企業の社会的責任とブランディング

では、よりよいエクスペリエンスやエンゲージメントを生み出すブランディング活動とは、どのようなものでしょうか。

エンゲージメントが、ビジネスにとってますます重要になっているにもかかわらず、エンゲージメントは簡単に失われやすい状況になっています。これまでのブランディングは、製品の品質がよい・サービスがよいなど、カスタマーに対するメリットの提供が中心でした。もちろん今でも重要ですが、現在ではユーザーは他のサービスや競合の情報を容易に知ることができるため、簡単に他へ乗り換えてしまいます。このことを「液状化する消費」 <https://academic.oup.com/jcr/article/44/3/582/3063162>とも呼びます。

SDGsとパーパス

購買行動にとって、製品・サービスの機能や性能の重要性が低くなる一方で、地球温暖化、新型コロナウイルスのパンデミックなどを通じ、人々は社会的問題の解決、未来への問題解決の関心を高めています。

このことは、企業や政府にとっても同様で、社会や環境への貢献が需要な指標となっています。CSR(企業の社会的責任)が、企業価値を計る上でも欠かせない要素になっていることからも明らかです。この動きは決して新しいことではなく、1980年代からは製品・サービスの購入が環境保全など社会貢献に役立つという「コーズマーケティング」(『マーケティング零』大石 芳裕 編著/白桃書房/2015年/ISBN978-4-561-65214-4)が生まれました。これからは、ビジネスそのものが社会的責任、社会的貢献と連動することが求められます。

また、国連は、2030年までに世界が達成しないと人類の持続可能な成長が困難になるという指標として、「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」を2015年に定めました。17のカテゴリからなる指標で、現在、世界中の国々や企業、投資家がこの指標の達成のために技術と労力と投資を行っています。言い換えれば、SDGsに貢献しないビジネスは技術も労力も投資も対象外になりやすいということです。

図:SDGsの17の目標

図:SDGsの17の目標
<https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/>

CXを達成するブランディング活動として、SDGsを意識したコンセプトをビジネスに持つことは1つの賢明な方法です。どのカテゴリにどのように貢献するかを明示することで、カスタマーとのエンゲージメントを獲得することが期待できます。

企業にパーパスが求められる時代

社会において、企業がどのように貢献するかを示したものを「パーパス(目的)」と呼びます。「ミッション」は、自分たちがしたい方向性、ビジョンが顧客と顧客の周りの環境に与えたい影響を指します。それに対しパーパスは、より広く従業員や家族へ与えたいエクスペリエンスや率先して解決に取り組む社会問題を示します。

単に社会問題解決を希望するメッセージを発信するだけではなく、具体的な行動が求められます。顧客だけではなく従業員やその家族を含む、すべてのステークホルダーに幸福を届けること、原料の調達や製品の生産プロセスにおいてサステナビリティや社会的な 公平性を明確に打ち出すこと、潜在的な社会課題の問題提起と解決に取り組むことなど、ビジネスの範囲を超えて、自らインフルエンサーとして認知を広げたり、クラウドファンディングなどで投資家とともに活動したりすることがパーパスには期待されます。

日本では、近江商人 <https://ja.wikipedia.org/wiki/近江商人>が商売の心得として「三方よし」を中世から掲げていました。近江商人が創業した商社である伊藤忠商事は、2019年に「三方よし」を企業理念に掲げました。「三方よし」とは「売り手よし、買い手よし、世間よし」のことで、商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会にも貢献できてこそよい商売との考えです <https://www.itochu.co.jp/ja/about/history/oumi.html>。日本に何百年も続く企業が多いのは、このような理念を持ち、持続可能な経営を続けてきたからともいわれています。

図:近江商人(初代細田善兵衛)の絵

図:近江商人(初代細田善兵衛)の絵
<https://commons.wikimedia.org/wiki/File:%C5%8Cmi_merchant_1st_Hosoda_Zenbe.png>

この考えをベースにした公益資本主義(「公益」資本主義 英米型資本主義の終焉』原 丈人 著/文藝春秋/2017年/ISBN978-4-16-661104-1)は、ビジネスは短期的な株主利益を中心に追い求めるのではなく、社会への貢献(公益)を意識したビジネスを展開することで、長期的な企業価値を高め、長期保有株主にも貢献するという考えもあります。

デジタルマーケティングでもウェブ解析でも、このような視座でビジネスを捉え、ユーザーが社会に貢献することの価値をクライアントや関係者に伝えていくことが求められています。

ダイバーシティとインクルージョンはビジネスの必要条件

SDGsを意識した活動など、企業の社会的責任を目指すのは、よりよいブランディングにプラスにする活動です。その中でもダイバーシティとインクルージョンは、企業が必ず意識しなければならない必要条件となっています。

例えば、「Black Lives Matter」の広がりにより、企業や行政が人種差別や性差別に対応することが、事業存続で必ず守らなければいけない非常にセンシティブな問題と強く認識されるようになりました。プロモーションや採用、CSRにおいても、平等な取り扱いが行われることに細心の注意と配慮が必要です。

「Black Lives Matter」とは

通称「BLM」とも呼ばれ、日本語では「黒人の命も大切だ」と訳される。黒人に対する暴力や形式的な人種差別の撤廃を訴えるもの

ダイバーシティ

ダイバーシティとは「多様性」のことで、人種、性別など、多様な人々が差別なくサービスを受け、働くことができる状況を指します。外国人、女性、LGBTなど、さまざまなひとへの理解促進、機会均等、雇用促進、活躍推進などが当てはまります。

インクルージョン

インクルージョンとは「包括、受容」のことであり、障害のある人も健常者と同様に学習や就職などの機会があることを指します。健常者と障碍者の間に壁を作らず、一体となって包括された存在として生きる、という考え方です。インクルージョンを意識した教育をインクルーシブ教育といいます。

ユーザーが、ダイバーシティやインクルージョンへの配慮が足りない企業や著名人、意見を表明したり、忌避したりする傾向がますます高まっています。人種や性別に基づく差別的な発言をしたり、平等な環境構築を怠ったりする企業は、深刻なブランディングの損失を招くことが起きています。

デジタルマーケティングでも注意が必要です。過去に差別的な発言をした著名人をオンライン・オフラインで攻撃する傾向をキャンセル・カルチャー(またはコールアウト・カルチャー)といい、差別的な意見をする人をコミュニティから外す(キャンセル)ことが一般化しています。

特にジェネレーションZの世代は社会的な問題意識が高く、情報受発信能力も他の世代に比べ高いため、高い関心を持って行動しています。ウェブ解析士は、このような社会の動向を意識して、エクスペリエンスとエンゲージメントを創造し、測定することが必要です。

1-2 ウェブ解析士の仕事

ウェブ解析士の有資格者のほとんどは、調査分析が業務ではなく、本業はウェブ制作や広告運用やコンサルティングといった他業務です。ウェブ解析を通じて、事業の成果につながる行動を促すことが仕事です。ここでは、ウェブ解析士として、立場によってどのような課題を解決する必要があるのかを紹介します。

1-2-1. ウェブ解析士が解決する課題

ビジネスでデジタルマーケティングを活用する際、経営者、ウェブ担当者、ウェブ業界は、三者三様の課題を抱えています。ウェブ解析士は、これらの課題を解決する役割を担います。そのために、ウェブ解析士がどのようにスキルを活用するかを理解しましょう。

経営者:自らデジタルマーケティングの活用戦略を立てるようになること

多くの経営者は、デジタルマーケティングに対して正しく向き合えていません。一方で、ユーザーは、次々にリリースされる新しいデジタルマーケティングのサービスやアプリを利用しています。つまり、双方の間にギャップが生じます。このギャップは、経営者が何もしなければリスクとなりますが、ギャップに正しく向き合うことでチャンスになります。

ここで注意しなければならないのは、他社の成功事例を模倣して自社に採用するだけでは、ほとんどが失敗するということです。なぜならば、成功要因というのは施策そのものだけではなく、時期や市場環境などが複合的に関係しているからです。

デジタルマーケティングを経営に活用するには、ウェブ解析を学んだ経営者が自らDX(デジタルトランスフォーメーション)の戦略と向きあわなければなりません。ウェブ解析により、無料またはローコストでユーザーの行動データを収集できます。しかし、データは過去の結果に過ぎません。データをもとに、未来の戦略を立てるのは自分自身です。これからの経営では、ウェブ解析を用いて自分で成功法則を見つける、あるいは作り出すという意識が必要になります。

ウェブ担当者:ウェブの貢献に説明責任を持つこと

ウェブ担当者の多くは、社内の多忙な業務やウェブマーケティングに対する無理解のために時間や機会を奪われ、十分な活躍ができていません。また、経営者や社員もウェブがどのように事業の成果につながるのかをイメージすることができず、関心を寄せてもらえない場合もあります。

ウェブ解析を学んだウェブ担当者自身が、自社のウェブがどの程度事業に貢献しているかを関係者に説明し、ウェブの重要性を理解してもらう必要があります。そのためには、ウェブにかけているコストや時間、ウェブで獲得した収益や恩恵を知っておく必要があります。

ウェブ解析を活用して、ウェブサイトが獲得したユーザー数やコストと、それ以外の販売手段やマーケティングとの比較が可能になり、データをもとに結果を可視化して関係者に説明することができます。また、ウェブ担当者の業務範囲は自社のウェブサイトだけにとどまりません。

そして、ウェブに携わらない関係者も、デジタルマーケティングを業務に活用できるように積極的に取り組む必要があり、ウェブ解析を用いて成果を数値化し、誰でもウェブの役割や重要性がわかるように「翻訳」する必要があります。この最初の一歩で、ウェブ担当者がリーダーシップを発揮して、事業の成果につながる環境を構築しなくてはなりません。

デジタルマーケティング業界:クライアントの投資対効果に責任をもつこと

デジタルマーケティングに関わる業界は、低コスト化と多様化に直面しています。例えば、デザインやプログラムは、低コスト化・無料化が進んでいます。参入障壁が低い業界であるために、フリーランスの登用やオフショア開発(開発業務を海外の事業者や海外子会社に発注すること)が増えているためです。また、「オープンソース」(ソースコードを公開すること。そのソフトウェアの多くは無償)や「フリーウェア」(無料で利用できるアプリケーション)が普及したことで、ウェブ制作やシステム開発の際に、無料で使えるサービスも増えています。

このような背景からウェブサイト構築の単価は急速に下落しており、制作する側は単に作るだけでは市場で生き残れなくなっています。ウェブサイトの目的は、単に作ることではなく、ウェブサイトへと集客し、売上利益を増やすことです。つまり、成果を意識したデジタルマーケティングの能力が、ますます重要になってきているのです。

従来、広告費以外の制作コストなどは、人月計算で行われることが一般的でした。しかし、これからは、成果に貢献した割合だけを課金するスタンスを持つなど、お客さまへの成果貢献の捉え方や報酬の在り方について考え直すことも重要です。これは、売上に応じて報酬が確定する成功報酬とは限りません。あらゆる提案において、お客さまが期待する効果とその結果をもたらすための対価として、自らのスキルに対する価値を決める意識を持つ必要があります。

ウェブ解析士:デジタルマーケティングのプロフェッショナルであること

「professional」(プロフェッショナル)の語源はラテン語の「professus」(プロフェス)まで遡り、これは「公に宣言する」を意味します。もともとは宗教的な儀式における宣言というような意味であったものが、修練を積んだと宣言した職業という意味で使われるようになったと考えられています。ドラッカーはプロフェッショナルの条件(『プロフェッショナルの条件 ―いかに成果をあげ、成長するか(はじめて読むドラッカー)』(P・F・ドラッカー 著、上田 惇生 編訳/ダイヤモンド社/2000年/ISBN4-478-30059-3))として「(クライアントに)知りえて害をなさない」を挙げています。どのような仕事でも、プロフェッショナルが責任を果たすことは、古今東西大事なフィロソフィーです。デジタルマーケティングでも、プロフェッショナリズムを持つ専門家になりましょう。

ウェブ解析士は医者のような国家資格ではありませんが、デジタルマーケティングのプロフェッショナルです。前述したように人によって立場や役割は違いますが、仕事においてクライアントに対して害をなしてはいけませんし、すべてのクライアントに誠意をもってビジネスに貢献することが求められます。ウェブ解析士の有資格者が、実務においてクライアントやユーザー対して問題のある行動をとったり、不利になるような提案があったことが明らかになった場合は、資格の失効、退会となることがあります。

1-2-2. ウェブ解析士に必要な能力

ウェブ解析の最終目的は「事業に成果をもたらすこと」にあります。ウェブサイトを改善することも、デジタルマーケティングで集客を増やすことも、あくまでも手段の1つです。ウェブ解析の目的が「ウェブ解析データのレポートを作ること」と誤解されることもありますが、それは手段であって目的ではないことに注意しましょう。

そして、ウェブ解析士の役割は、「ウェブ解析を用いてユーザーのニーズを正しく理解し、事業の成果に貢献すること」です。

ウェブ解析士に求められる3つの理解

ウェブ解析を事業の成果につなげるためには、ウェブだけではなく、解析の対象となる企業のビジネスモデルやマーケティングを理解する必要があります。事業の成果につながるウェブ解析を行うには、対象となるクライアントや自社について、次に示す3つの理解が必要です。

経営・マーケティングの理解

解析の対象となるビジネスのカスタマーやユーザーやビジネスモデルを理解すること

ウェブ・インターネットの理解

デジタルマーケティングに必要なウェブやアプリ、インターネットの技術や仕組みを正しく理解すること

統計・データ解析・データ分析の理解

統計学などのデータを適切に解析するときに求められるデータの収集、整理、表現技術を、それぞれを適切に利用し、判断する方法を理解すること

図:ウェブ解析士に求められる3つの理解

図:ウェブ解析士に求められる3つの理解

ウェブ解析士に求められるスキル

これからウェブ解析を学んでいく皆さんにとって、どのようなスキルを伸ばしていく必要があるかを紹介します。必要なスキルは、次の5つに分類できます。

1. 情報収集力

自分や事業の状況に合わせて、社内や業界内外の情報を常にチェックし、必要な情報を収集する能力です。ウェブ解析士のイベントや交流、インターネット上の記事、クライアントとの会話などを通じて、常に情報のアンテナを張っておきましょう。

2. 仮説力

ウェブサイトを利用するユーザーの解析をする際、仮説を持って行い、検証するための能力です。例えば、対象のウェブサイトについて事前に利用者属性を想定し、その検証に必要な解析は何かを決定していくといったことです。

3. 設計力

ウェブサイトのゴールやKPIなどの目指すべき方向を決定します。また、それらの数値を取得・解析するために、どのツールで、どのようなデータを取得するべきかを決める知識も必要です。

4. 施策実行力

解析をしても改善案が反映されなければ、サイトはよくなっていきません。そのために必要なのは、施策立案ができることです。思い付きではなく数値に基づいた改善提案をすることが、施策実行力を伸ばす上で重要です。

5. 情報発信力

情報は発信する人に集まります。社内外で行った取り組みや情報を共有し、自らの認知度を上げましょう。自分たちが行っている取り組みを理解してもらえれば、協力者も増え、成果を出しやすくなります。

この5つの力は、実践を通じて伸ばすところが大きいものです。本書とウェブ解析士の資格を武器に、実践での活用に取り組んでください。

1-2-3. ウェブ解析士の活動

ウェブの改善活動は、個人で行うものではありません。

数値をもとに改善を実現していくためには、組織内に解析が浸透し、全体として実行することが重要です。そこで、ウェブ解析士として求められる役割の1つに、企業内におけるウェブ解析の浸透があります。自分だけがウェブの見識を深めるのではなく、組織やチーム内でウェブ解析に興味を持つ人を増やせば、ウェブ解析士の地位を高め、評価されるようになります。そのためにも、ぜひ社内において次の4つの取り組みを実現してほしいと考えています。

  • PDCAサイクルのフレームワーク
  • 課題解決のためのアプローチ
  • ウェブ解析の民主化の活動
  • アジャイル型改善の進行

それぞれについて、説明していきましょう。

PDCAサイクルのフレームワーク

ウェブ解析を活用するためには、継続したカイゼン活動が最も重要です。継続したカイゼン活動の基礎となるPDCAサイクルを意識して活動してください。

「PDCAサイクル」とは、本来は生産管理や品質管理をスムーズに進めるための概念です。日本では、戦後アメリカから学んだ品質管理手法とともに使われ始めました。デミング博士が改めて提案した「PDSAサイクル」(「s」は「Study」を示す)や、より進化したOODAループなどもありますが、どの方法でも次のような手順でカイゼン活動を繰り返します。

「OODA」とは

見る(Observe)、わかる(Orient)、決める(Decide)、動く(Act)の頭文字を取ったもの

Plan(計画)

従来の実績や将来の予測などをもとにして業務計画を作成する。

Do(実施)

計画に沿って業務を行う。

Check(検証)

業務の実施が計画に沿っているかどうかを確認する。

Action(対策)

実施が計画に沿っていない部分を調べて処置をする。

PDCAサイクルでは、この4段階が一巡したら、最後のActionを次のPDCAサイクルにつなげ、らせんを描くように継続的な改善を図っていきます。

まずは短期間で小規模なサイクルを優先し、次第に大規模かつ長期間にわたるPDCAサイクルへと拡張します。ウェブ解析においては、施策の確度よりも、PDCAサイクルを素早く回し、改善活動を繰り返すことのほうが重要です。小さく迅速に施策を積み重ね、経験値を増やすことで成功法則を発見しましょう。

図:PDCAサイクル

図:PDCAサイクル

課題解決のための3つのアプローチ

最初から、すべてのデータが揃っているビジネス環境はほとんどありません。そして、ウェブ解析で扱うデータは、さまざまな要因で容易に変化し、なおかつ正確性に欠けるものが含まれていることもあります。

そのような場合にウェブ解析を用いて課題を解決するには、従来のデータ分析とは異なる3つのアプローチ方法を用います。

1. 仮説検証

データを見る前に、想定される現状や行った施策の結果について仮説を立て、行動します。そして、行動結果で得られたデータをもとに検証します。単にデータを見ているだけでは気付けない法則や傾向が浮かび上がります。

2. 問題発見

データにより、仮説にはなかった意外な変化から新たな仮説や法則を発見します。

3. 対策立案

仮説検証と問題発見から生まれた検証結果や新たな仮説から新たな対策を立案します。その対策が成功するかどうか、現実的かどうかを考慮します。

まず、環境分析やコンセプトワークに基づいて、事業のあるべき方向性に向けて行動し、その行動からデータを収集して次の可能性をさぐります。ウェブ解析では、データをもとに想像力を働かせ、関連性を見いだし(たとえ間違っていても)行動につながるヒントを探し出します。なぜなら、データは過去の結果であり、未来を正解に自動で指し示すことはないからです。

したがって、まず仮説を立て、その仮説に基づいて行動し、行動結果をデータとして検証し、その結果から成果につながるヒントを見つける必要があるわけです。データを見て行動するのではなく、行動をしてデータを見ることがウェブ解析士のアプローチです。データの正しさや精度より、そこから得た気づきや発見をビジネスに活かすことが重要です。

行動を重視するアプローチは、アジアでも古くからありました。陽明学の命題の1つで「知行合一」といい、日本では「知りて行わざれば知らざると同じ」と解釈されます。中国で始まった儒学の一派である陽明学は、日本にも大きな影響を与えました。幕末の明治維新の多くの偉人が、自らの信念を拠り所にし、行動することを尊ぶ陽明学を学びました。そして日本の武士道では、学問を学ぶばかりで行動しない人を「本の虫」と呼び、行動できない知識だけの人を評価しない文化がありました。

それと同様に、「ウェブ解析=データ集計」と捉え、数値の上下のような事実を羅列しただけで、行動につながる提案をしていないレポートは十分ではありません。なぜなら、改善のためにどのような行動をすべきかがわからないと、事業の成果につながらないからです。よりよい方法は、仮説を立て、行動した結果を測定することです。仮説通りなら、さらに精度を高めることができ、仮説通りにならなければ、その行動に意味がないということが立証されます。データから想定しなかった新たな仮説を発見できるように、行動の結果を観測することがウェブ解析の基本的な手法です。

ウェブ解析の民主化の活動

ウェブ解析士は、自らウェブ解析を軸に行動をするだけでは不十分です。事業の成果につなげる行動をすることは、自分だけではできません。ウェブ解析士に求められる活動やアプローチは誰でも実践できるので、自らデータをもとに行動をする模範を示すとともに、関わる自社の組織やクライアントの組織へウェブ解析を定着し、活用するための役割も求められます。

事業に関わるすべての人がウェブ解析を使い、ユーザーを理解して事業に貢献できることをウェブ解析の民主化と呼んでいます。

能動的に組織でウェブ解析を活用するためには、『人を動かす』(D・カーネギー 著、山口 博 訳/創元社/1999年/ISBN4-422-10051-3)にあるように 、次の3つのことが肝要です。

  1. 攻めたり批判したり不平を言ったりしない
  2. 正直で真摯な称賛をする
  3. 他の人に強い欲求を引き起こさせる

組織一人ひとりの意見や問題を批判せず、あらゆる関係者の仮説や提案を真摯に称賛し、組織の役割に合わせ、彼らの成果になるように誘導することが必要です。

ウェブ解析士は、ウェブ解析をボトムアップのカイゼン活動に活用できるように誘導することを目指します。経営者や特定の専門家だけがウェブ解析を使っても、ウェブ解析から得られる気づきを継続的で効果的に活かすことができません。

ウェブ解析の民主化を行うための具体的な取り組みとして、次のようなものが挙げられます。

  • 「データに日常的に触れる」ための環境整備
  • 「データを理解する」ための勉強会の実施
  • 「事例」を広めるための活動
  • アジャイル型改善プロジェクトの進行
「データに日常的に触れる」ための環境整備

日常的にデータに触れることが、社内の理解促進に重要です。

そのためにできることの1つが、定期的なデータの共有です。解析ツールのレポートや数値を、組織内で毎日自動的にメール配信したり、月次のレポートを共有したりするのもよいでしょう。企業によっては、大きなスクリーンで常に最新の数値を確認できる環境を用意しているところもあります。まずは、必要なときに適切なデータに触れられる環境を用意することです。しかし、データに触れたとしても、それをどうやって見ればよいか、どうやって利用するかがわからなければ、せっかくの機会も無駄になります。

「データを理解する」ための勉強会の実施

次に必要となるのは、「データを理解する」ことです。

そのために大切なのが、勉強会の実施です。難しいことを行う必要はありません。送付や出力しているデータを説明する場を設けたり、社内で一緒にアクセス解析ツールを学ぶための勉強会を開いたりします。また、外部の知見を取り入れるために講師を招いたり、セミナーなどに参加して社内にフィードバックしたりといったことも有効でしょう。周りから「この人はデータに理解があり、それを広めようとしている」と認めてもらえれば、そこから協働や信頼が生まれます。ぜひ、社内におけるデータのエヴァンジェリスト(伝道師)を目指してください。

「事例」を広めるための活動

最後に大切なのは、成功・失敗を問わず、取り組んだ施策を共有することです。

データの理解も大切ですが、ほかの人が「自分でも改善に取り組んでみよう」と思うきっかけは、事例であることが多いからです。ほかの部署やサービスの成功事例を聞くことで、自分たちもチャレンジしてみたいと思えるようになります。たとえ失敗事例であっても、同じ失敗を繰り返さないための学びとなります。このように、施策を知る・知ってもらうために、次の2つの活動を組織内で心がけてみてください。

事例の保存

1つ目は、事例の保存です。実施した事例を誰でも確認できるように、簡単でもよいのでまとめてください。例えば、施策ごとに1つのExcelファイルで「実施した目的」「実施した内容」「スクリーンショット」「得られた結果」「そこからの気付き」などをまとめましょう。[図:キャンペーン管理シート(テンプレート例)]のキャンペーン管理シートのテンプレートも参考にしてみてください。

図:キャンペーン管理シート(テンプレート例)

図:キャンペーン管理シート(テンプレート例)
施策を共有する場の創設

2つ目は、施策を共有する場を設けることです。例えば、月1回、取り組んだ施策例を各担当者に発表してもらうといった形式です。1枚のPowerPointファイルにまとめ、発表時間は5分といった簡単なルールを作るとよいでしょう。可能であれば、少しだけ予算をもらって優秀な施策を表彰するといった仕組みを作ると非常に有効です。お互いの施策を聞くことは、自分の施策の引き出しを増やせるだけでなく、新しいアイデアの参考にもなります。こうした取り組みを継続することで、社内での解析の浸透を試みてください。

アジャイル型改善プロジェクトの進行

ユーザーの変化は、速く、激しくなっています。このような状況でウェブ解析を効果的に進めるには、継続的な改善体制を作り、成果につながるプロジェクト管理手法を実現させる必要があります。

そのためには、アジャイル型のプロジェクト管理手法が効果的です。アジャイル型では、1つの施策の実施に数カ月をかけるのではなく、短い期間(例えば週単位)で「分析」「実行」「振り返り」を繰り返していきます。

図:アジャイル型の改善プロセス

図:アジャイル型の改善プロセス

従来のウォーターフォール型のプロジェクト管理手法は、上流から下流に向かって工程を決めて手順どおりに進めていくです。最初から実現したいことが明確で、手順どおりに進めば問題がないようなプロジェクトの場合に適しています。

ウォーターフォール型の改善プロセス

図:ウォーターフォール型の改善プロセス

変化の激しいウェブ解析のプロジェクトはアジャイル型のプロジェクト管理を心がけたいところですが、この手法で改善を進めていくためには、それを実現するための環境を整えていく必要があります。ユーザーの変化をいち早く捉えて施策を行っていくためには、「体制・方針」「ルール」「環境」の3つが必要です。それぞれ詳しく確認してみましょう。

体制・方針

1人だけですべてを実行するのは現実的ではなく、体制を構築することが欠かせません。最低限必要となる役割は3つあります。

  • 企画全体をプランニングする。アイデアを考えて承認を得る
  • 分析施策の実施前後でデータを確認し、適切な改善ポイントを特定し、結果を確認する
  • 制作コンテンツや機能を形にして反映する

この3つの役割は、どれか1つが欠けても継続的な施策の実行と改善が難しくなります。したがって、自社内だけで完結する必要はなく、外部のパートナーやコンサルタントなども含めて協働して取り組むことが大切です。

ルール

アジャイル型の改善を進めるためには、事前にルールを決めておく必要があります。

継続的な改善が滞る理由の1つに、「承認に時間がかかる」ことがあります。対応策として、例えば特定の範囲や予算内であれば承認プロセスを省く、あるいは簡略化するという取り決めをしておきます。

また、制作の優先順位で進行が遅延するケースもあります。この場合も、後述する「環境」とあわせて、企画担当者が自分の権限で制作してよい範囲を最初に決めておいたり、開発担当者の工数を事前確保したりといった準備と承認が必要です。施策を行うたびに毎回同じところで判断が入る場合は、そこを簡略化できないかを関係者と議論しましょう。

環境

アジャイルに進める上で最も大切なのは、施策を素早く実施し、数値を素早く確認できる環境を構築することです。

施策の実行に関しては「A/Bテストツール」「CMS」「メール配信システム」などの準備が重要になります。例えば、A/Bテストツールの「Googleオプティマイズ」であれば、ウェブ上でテストパターンを作成できるため、ファイルのアップロードや面倒な転送設定なども必要なく、すぐにテストを開始できます。

数値を素早く確認するには、誰でも簡単にデータの確認ができる環境の整備も必要です。実施した施策がサイトのゴールやKPIに影響を与えているのか、ユーザーに外部変化があったかなどに素早く気づける環境を整えましょう。例えば、「ダッシュボード」(重要な数値がまとまった自動更新される簡易なレポート)の活用がお勧めです。代表的なツールである「Googleデータポータル」では、決まったURLにアクセスすれば、誰でも最新の数値を素早くチェックすることができます。

1-2-4. ウェブ解析士の行動規範と法律

ここでは、ウェブ解析士として知っておくべき法律をまとめました。具体的な対策は、判例、ガイドライン、自主規制などさまざまですが、基本的な内容と目的を理解してください。

不正アクセス禁止法

「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」(不正アクセス禁止法)は、他人のパソコンを無断で操作したり侵入したりすることを防止するための法律です。

不正アクセス行為を行った者は、3年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます。他人のIDやパスワードを利用する場合のほか、セキュリティホールへの攻撃などによってアクセス制限機能を回避し、コンピューターの機能を無断で利用する場合も含まれます。

また、識別符号(IDやパスワード)を本人以外に提供したり、不正に取得した識別符号を保管したりすることも禁じています。アクセス管理者(サーバーなどを管理する管理者)には罰則はありませんが、不正アクセス行為から防御するために必要な措置をとることが求められています。ウェブ解析士として不正アクセス禁止法で気を付ける点は、次のとおりです。

  • アクセス解析、ウェブサイト、広告などのASPサービスの管理画面の操作では、必ずアクセス管理者であるクライアントの許可を得てからアクセスする
  • IDやパスワードは厳重に保管し、漏洩してはならない(クライアントのウェブサーバーなどで必要な防御措置がなされていない場合、適切な措置を勧める)
  • 不正アクセス行為を防止するため、コンピューターネットワークのログを監視し、不自然な頻度やシステムへのアクセスを調べて、必要ならば接続者に確認を行う

不正競争防止法

「不正競争防止法」は、営業や競争の公正を確保するために制定されています。

デジタルマーケティングにおいても、他社の顧客情報を不正に入手したり、ユーザーが混同するような類似名でウェブサイトを立ち上げたりするといった行為は、法律違反に問われることがあります。不正競争行為に抵触する場合、民事上の請求と刑事罰が処せられる可能性があります。

ウェブ解析士は、ウェブサイトの名称や商品名、サービス名が他人の商品・営業(商品などの表示)として一般に広く認識されているものと同一または類似の表示になっていないかなどに注意を払う必要があります。消費者に誤解を与える、つまり悪用と見なされるようであれば、コンテンツやサービスの見直しの検討を含めて顧問弁護士などに相談すべきとクライアントに助言しましょう。

営業上の秘密を不正に入手しているケースにも注意が必要です。例えば、競合の社員から入手した取引先情報や顧客情報、ビジネスを運営する上でのノウハウが、これにあたります。同様に、虚偽の事実を告知して他社の信用を害する行為、産地や品質を誤認させるような表示を行う行為、他社のサービスと誤認を促すようなドメインの不正取得行為なども不正競争行為として禁止されています。

薬機法

薬と医療機器に関する法律として「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」があります(2014年に改正される前は薬に関する「薬事法」と呼ばれていました)。

この法律は「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」「医療機器及び再生医療等製品」の4種について、安全性と体への有効性を確保するための法律です。また、研究開発の促進のために必要な対策を行い、保健衛生の向上を図ることも目的としています。 薬機法は関わる個人・法人すべて責任を問われます。

これらの4種にあてはまる製品を取り扱うには、販売対象物や販売形態などに応じた許可を得なければならず、行政の承認を得ないと広告することもできません。また、効果・効能の表示も関係する承認を受けた製品についてしか行えません。

他方で、野菜、牛乳、調味料といった「明らかな食品」については、薬機法の適用はなく、効果・効能の表示も可能な場合がありますが、誇大表示などは後述の景品表示法違反に該当します。

薬機法の4種と「明らかな食品」の間に存在するのが、健康食品です。健康食品で、承認を得ていない製品については、効果や効能をウェブサイトに掲載したり、広告を掲載したりすることはできません。例えば、健康食品を使用した体験を表現するような場合、個人の体験である旨のいわゆる「打ち消し表示」を行うことが多くあります。これについては消費者庁が打ち消し表示に問題がないかの調査報告を行っており、今後は慎重な対応が必要とされています。

これらの法律に違反した場合、罰金や懲役に処せられることがあります。

ウェブ解析士は、ウェブサイトや広告に掲載する情報が法律に抵触しないよう気を付け、必要に応じて表現や内容の変更を検討する必要があります。このような法律に抵触するウェブサイトは、行政から警告を受ける可能性があります。また、リスティング広告出稿の際、審査によって出稿を断られるケースもあります。

製品が行政側の承認を得ている場合は、よりわかりやすくなるようにウェブサイトを見直す・追記をする、あるいは医薬品や医薬部外品と誤解されないように表現を変更するなどの必要があります。

薬機法などの法律は常に改正されており、対象となるメディアや都道府県によっても運用が異なります。具体的な内容の変更については、行政担当部署(薬事監視指導課など)や弁護士といった法律の専門家の意見も仰ぎながら対策を行ってください。

あはき法

「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師などに関する法律」を略して「あはき法」といいます。

医師以外が(治療を目的とした)マッサージ、針、灸を行うには、あん摩マッサージ指圧師免許、はり師免許、きゆう師免許を取得することが必要です。また、エステ、アロマテラピー、カイロプラクティックなどの業種の広告宣伝にもこの法律が適用され、治療を目的としたマッサージができる旨の広告・広報を行うことは法律違反となり、50万円以下の罰金となります。

なお、マッサージと隣接するサービスとして、トリートメントやリラクゼーションマッサージといったサービスが存在しますが、これらについては、両者の境界が必ずしも明確ではない場合があるので、広告表記などは事前に行政担当部署に相談するといった対応が望まれます。

知的財産権など

「知的財産権」とは、発明や創作によって生み出されたものを、発明者の財産として一定の期間保護する権利です。インターネット上のコンテンツも知的財産権により保護されるものが多く含まれます。

著作権

画像、文章、動画、音楽などのコンテンツは著作物となり、著作権者には、複製権やインターネットへのアップロード権(公衆送信権)など、さまざまな権利が生じます。一般に「著作権」という場合、「著作財産権」という権利を指しますが、著作者は著作物を創作すると、法律上は、著作財産権のほかに「著作者人格権」という権利も自動的に得ることになります。

産業財産権

産業財産権には、特許権、実用新案権、意匠権、商標権の4つがあります。

著作権の意識が低いウェブ制作者が、ほかの会社のウェブサイトにある文章や画像などのコンテンツを勝手に使用し、ウェブサイト運営者が思わぬトラブルに巻き込まれることがあります。

ウェブサイト構築を外部の制作会社に依頼する際は、使用するコンテンツに著作権上の問題がないかを確認しなければなりません。また、外部の会社などに制作を委託した著作物については、その著作権を譲り受ける契約をする必要があります。法律では、納品を受けても、著作権がなければアップロードもできないことになっています。

ウェブ制作会社が著作権の行使をしないことも明記すべきでしょう。プログラムについては、システム開発会社が開発を効率化するために再利用することも多く、著作権を留保する代わりに、指定したウェブサイトでの使用権のみを認める契約も多くあります。

インターネットで配布されている画像などのコンテンツや、プログラムが無償で使えるオープンソースライセンスのソフトウェアなどについては、必ず制作者や著作権者が許可している範囲を確認してください。改変したものも同じライセンスで利用できるようにしなければならない、著作権表示を含める必要がある、商用利用に制限がある、使用時には制作者に連絡しなければならないといった条件がある場合もあります。

また、肖像権や著作隣接権についても、学んでおくことをお勧めします。

景品表示法

商品を実際よりもよく見えるように表示(不当表示)したり、過大な景品類の提供(不当景品)があったりすると、消費者の選択に悪影響を与え、不利益をかぶらせるおそれがあります。このような不当表示・景品から消費者を保護することを目的とした法律が「景品表示法」です。

不当表示には、優良誤認表示(内容について著しく優良であると一般消費者に示す)、有利誤認表示(価格や取引条件について著しく有利であると一般消費者に示す)、その他、誤認されるおそれのあるものとして、内閣総理大臣が指定する表示(商品の原産国、おとり広告、有料老人ホームに関する不当表示など、現在、6つが指定されている)があります。

なお、第三者のふりをしてクチコミサイトに事業のよい評判を捏造すること(ステルスマーケティング)も不当表示にあたる可能性が高く、ウェブサイト運営者がこれに関与することも規制の対象になります。

不当景品の規制には、一般懸賞(くじなどの偶然性、特定行為の優劣性によって景品提供するもの。この懸賞は取引金額が5,000円未満なら最高額は取引金額の20倍、5,000円以上なら最高額は10万円で、総額は懸賞の売上予定金額の2%)、共同懸賞(共同して景品提供すること。この懸賞の最高額は取引金額にかかわらず30万円、総額は懸賞の売上予定金額の3%)、総付景品(もれなく提供される景品のこと。景品は取引金額が1,000円未満なら最高額は200円、1,000円以上なら最高額は取引金額の10分の2)が当てはまります。

景品表示法に違反すると、消費者庁が調査を実施し、違反行為が認められれば「措置命令」で不当な表示を止め、再発防止策をとるように命令されます。そのほか、違反のおそれのある行為には「警告」、違反につながるおそれのある行為には「注意」の措置がとられます。

特定電子メール法

「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」(特定電子メール法)は、「迷惑メール防止法」とも呼ばれています。

原則として、あらかじめ同意していた者のみに対して広告宣伝メールの送信が認められる「オプトイン方式」が義務付けられています。受信拒否をした者への再送信は禁止されています。さらに、送信者は「送信者の氏名または名称」「受信拒否の通知を受け取る手段」「その他総務省令・内閣府令で定める事項」を明らかにしなければなりません。

送信者情報を偽った場合には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科され、その他の義務の違反者には行政からの是正措置命令が発せられるほか、法人では3,000万円以下の罰金に処せられることがあります。

特定商取引法

「特定商取引に関する法律」(特定商取引法)は、消費者保護を目的とした法律です。「訪問販売」「通信販売」「電話勧誘販売」「連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法)」「特定継続的役務提供(エステ、語学教室、結婚相手紹介サービス、パソコン教室など)」「業務提供誘引販売(いわゆる内職商法)」「訪問購入」を規制しています。

ウェブ解析士の業務で関わるのは、返品特約の取り扱いやウェブサイトに明示すべき情報の表示義務などが挙げられます。具体的には、消費者庁の特定商取引法に関するウェブページ <https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/specified_commercial_transactions/>などを参考にしてください。

改正民法への対応

明治時代に作られた民法が120年を経て初めて全般的に見直され、2020年4月1日に施行されました。改正民法では、債権法の内容が大きく変わっています。

ウェブ解析士がクライアントと締結する契約は、通常は請負契約か準委任契約なので、この2点の改正に絞って説明します(業務委託契約書という名称の契約書であっても、法律的には請負か準委任のどちらかに分かれます)。

注意すべき請負契約の変更点
  • 瑕疵担保責任の条文は削除され、仕事の目的物が契約の趣旨に適合しない場合の契約不適合責任に置き換わった
  • 契約不適合があった場合、クライアントは、報酬減額請求が可能になった。契約不適合があった場合でも、それが軽微な場合には、クライアントは契約解除ができなくなった
  • 改正前は、引き渡しから1年間で瑕疵担保責任の追及はできなくなったのが、不適合を知ってから1年以内に通知を請負人に送れば不適合責任を追及できるようになった
  • 改正前は、修補に過分の費用を要し、かつ、瑕疵が重要でない場合には、クライアントが瑕疵の修補を請求することは認められていなかったが、修補が不可能でない限り、修補請求が可能になった
  • 改正前は、請負人は無過失であっても損害賠償責任を負っていたが、請負人の過失が損害賠償の要件になった
  • 仕事が未完成の場合でも、請負人が割合的に報酬を請求することができる場合について明記された
注意すべき準委任契約の変更点
  • 仕事の完成を報酬請求の条件とする準委任契約の締結が可能になった

このように大幅に改正されたので、特に完成物の納品を条件とする契約を締結する際には、改正点に十分に気を付けて契約書(特に報酬や損害賠償の条項)を確認しましょう。また、これらの改正点については、個別の契約書で異なる定めをおけば、それが優先して適用されます。いずれにしても契約書の条項を確認することが重要です。

個人情報の保護に関する法律

「個人情報の保護に関する法律」(個人情報保護法)は、個人情報の有用性に配慮しつつも、プライバシーを侵害しないように個人情報の適切な取り扱いを定めた法律です。

ウェブ解析士は、メールアドレスや購買履歴など、個人情報を取り扱う場面に多く接する可能性があるため、個人情報保護について十分に理解しておく必要があります。個人情報とは、生存している個人に関する情報であって、➀氏名、生年月日などにより特定の個人を識別することができるもの(ほかの情報と容易に照合することができ、それによって特定の個人を識別可能になるものを含む)、または➁個人識別符号のいずれかを指します。

➀に関しては、例えば、免許証やパスポートのように当該情報それ自体で特定の個人を識別できる情報はもちろん、ほかの情報と容易に照合することができ、それによって個人が容易に特定できるものも個人情報に含まれます。また、官報、電話帳、職員録、およびインターネット上に情報が存在する場合(情報が公知のもの)であっても、特定の個人を識別できる情報という定義に該当する限り、個人情報保護法上の「個人情報」として扱われる点にも注意が必要でしょう。

➁において個人識別符号とは、(a)身体の一部の特徴を電子計算機のために変換した符号(DNA、顔、虹彩、声紋、歩行の態様、手指の静脈、指紋・掌紋)または(b)サービス利用や書類において対象者ごとに割り振られる符号(旅券番号、基礎年金番号、免許証番号、住民票コード、マイナンバー、各種保険証など)からなります。

改正個人情報保護法が2017年5月に施行されたことで、個人情報の定義が明確になり、保護を強化する一方で、ビッグデータとしての利用がしやすくなりました。具体的には、個人情報の管理は件数の規模にかかわらず義務化されたことや、公開された情報も個人情報として取り扱うものの、利用用途を特定して明示すればデータとしてマーケティングに応用しやすくなったことなどが挙げられます。次のようなルールが定められています。

  • 利用目的を特定して、その範囲内で利用する
  • 利用目的を通知又は公表する
  • 漏洩などが生じないように安全に管理する
  • 従業者・委託先にも安全管理を徹底する
  • 第三者に提供する場合は、あらかじめ本人から同意を得る
  • 第三者に提供した場合・第三者から提供を受けた場合は記録する
  • 本人から開示などの請求があった場合には対応する
  • 苦情などに適切・迅速に対応する

個人情報保護法違反による行政、刑事、民事での責任を負うリスクは重大です。また、各省庁は事業分野ごとにガイドラインを作成しています。これらのガイドラインに合わせて、事業分野の実情に応じて管理に取り組むことが必要です。

なお、2020年6月12日に公布された改正個人情報保護法(「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」の公布について <https://www.ppc.go.jp/news/press/2020/200612/>)には、「個人関連情報」という言葉があります。生存する個人に関連する情報で、それだけでは個人を特定できないものの、個人情報と紐付けたり、第三者に提供すると個人情報として利用できる情報を指します。Cookieやアクセス解析データを個人情報と紐付ける形で外部企業に提供したり、購買履歴など個人情報とアクセス解析データを紐付けて広告配信をするなどが当てはまります。この場合は個人情報と同等の扱いとなり、「速やかに本人に取得、利用、目的について同意を得なければならない」となっています。

1-2-5. ウェブサイトのプライバシー保護法制対応

個人情報保護:ウェブサイトを構築・運営する当事者の責任

ウェブサイトを構築する際、個人情報や個人のプライバシーに関する情報が取り扱う事が増えてきています。

個人情報が漏洩した場合、その情報はネットワークを介して国境を越えて一瞬で世界中に流出し、対処をさらに難しくしてしまいます。AIやIoTなど、外部と複雑に接続されたシステムは、利用者に利便性を提供するものではありますが、利用者が意図していない形で個人情報が利用されてしまう可能性もあります。

欧州ではプライバシーに関する権利は、基本人権(Fundamental Human Rights)を構成する重要な要素とされています。そのような背景もあり、ウェブサイトの技術的欠陥や、倫理観や公平性の欠如などによるプライバシー侵害は防がなければなりません。ウェブサイトを構築・運営する当事者は、今まで以上に高い意識と責任感をもって、個人情報保護に取り組む必要が出てきています。

図:世界の主なプライバシー保護法制(© Internet Initiative Japan Inc.)

図:世界の主なプライバシー保護法制(© Internet Initiative Japan Inc.)

厳しくなる各国の個人情報保護法制

ウェブサイトと個人情報の関係が切っても切れないものになってきている一方で、世界各国での個人情報保護に関する法制度は厳しくなる傾向にあります。

2018年の欧州での「EU一般データ保護規則」(General Data Protection Regulation:GDPR)施行以降、2020年にはカリフォルニア州消費者プライバシー法(California Consumer Privacy Act:CCPA)が施行され、日本でも2020年6月に改正個人情報保護法が2年を越えない範囲で施行されることになります。これらのプライバシー保護法は域外適用と呼ばれる概念があるものもあり、例えばGDPRの場合、EU域内に拠点を持たない場合であっても、EU域内に商品またはサービスを提供する場合にはGDPRは適用されます。

GDPRは違反した場合に高額の制裁金を課していることは広く知られていますが、違反した場合にはクラスアクション(集団訴訟のこと)により損害賠償を請求され、制裁金以上に高い代償を求められるケースも考えられます。

日本を基盤に事業を展開するウェブサイトであっても、その管理者は、日本の個人情報保護法に従った対応を取るだけでなく、海外の個人情報保護法についても正しく理解をしておく必要があります。

「GDPRの制裁金」の金額

制裁金の上限として、カテゴリによって「最大10,000,000ユーロまたは全世界年間売上高の2%の高いほう」「最大20,000,000ユーロまたは全世界年間売上高の4%の高いほう」の2種類が定められている

表:GDPR制裁事例(紹介)(ⓒ株式会社インターネットイニシアティブ)

対象企業

摘発年

個人データ保護
監督機関

制裁金

事象(概要)

1

British Airways(BA)

2019年7月

ICO (UK)

約250億円

BAのWebサイトのITセキュリティの不備を突き、顧客のアクセスが漏洩。

2

Marriott

2019年7月

ICO (UK)

約135億円

買収した企業のシステム脆弱性を突き、顧客データベースが漏洩

3

Google

2019年1月

CNIL(FR)

約62億円

透明性のある情報提供を行う義務に違反 ・ターゲティング広告目的の処理を行うための法的根拠を備える義務に違反

表:世界各国における近年のプライバシー保護法制(© Internet Initiative Japan Inc.)

Region

Country

Privacy / Security Law (example)

Enforced in

Europe

EU (EEA)

GDPR (General Data Protection Regulation)

2018.5

Russia

Federal Law 242-FZ

2015.9

Asia

Japan

個人情報保護法

2017.5 / 2022.6(?)

Singapore

Personal Data Protection Act 2012 (PDPA)

2014.1

Malaysia

Personal Data Protection Act 2010 (PDPA)

2013.11

Thailand

Personal Data Protection Act B.E. 2562

2020.5

Vietnam

The Law on Cyber Information Security

2019.1

Taiwan

個人資料保護法(個人情報保護法)

2016.3

China

网络安全法(サイバーセキュリティ法)

2017.6

India

Information Technology, Act, 2000

2017.6

America

U.S.A.(California)

California Consumer Protection Act (CCPA)

2020.7

Brazil

Lei Geral de Proteção de Dados (LGPD)

2020.8

データ処理の原則:OECDガイドライン

GDPRや日本の個人情報保護法改正など、各国の個人情報保護法制は大きく変わりつつあります。しかし、個人情報の取り扱いに関する考え方には基本となる原則論があり、実はこの基本原則論は大きくは変化していません。それは、「OECD8原則」と呼ばれる考え方です。OECDは、1980年に「プライバシーの保護及び個人データの越境移動に関するガイドライン」(OECD Guidelines on the Protection of Privacy and Transborder Flows of Personal Data)を制定しています。このOECDガイドラインでは、個人情報の取り扱いについての基本原則(OECD8原則)を規定しており、今日の各国の個人情報保護法制の根幹をなす原則となっています。

現在の各国個人情報保護法制にはそれぞれ違いはありますが、個人情報の取り扱いについては、概ねこの原則と似たような概念となっており、この原則論を理解しておくことが、個人情報の取り扱いを行う上で重要です。

表:個人情報の取扱いに関する基本原則(OECD8原則)(© Internet Initiative Japan Inc.)

原則名

英語

説明

原則1

収集制限の原則

Collection Limitation Principle

個人データを収集する際には、法律にのっとり、また公正な手段によって、個人データの主体(本人)に通知または同意を得て収集するべきである

原則2

データ内容の原則

Data Quality Principle

個人データの内容は、利用の目的に沿ったものであり、かつ正確、完全、最新であるべきである

原則3

目的明確化の原則

Purpose Specification Principle

個人データを収集する目的を明確にし、データを利用する際には収集したときの目的に合致しているべきである

原則4

利用制限の原則

Use Limitation Principle

個人データの主体(本人)の同意がある場合、もしくは法律の規定がある場合を除いては、収集したデータをその目的以外のために利用してはならない

原則5

安全保護の原則

Security Safeguards Principle

合理的な安全保護の措置によって、紛失や破壊、使用改竄、漏洩などから保護すべきである

原則6

公開の原則

Openness Principle

個人データの収集を実施する方針などを公開し、データの存在やその利用目的、管理者なども明確に示すべきである

原則7

個人参加の原則

Individual Participation Principle

個人データの主体が、自分に関するデータの所在やその内容を確認できるとともに、異議を申し立てることを保証すべきである

原則8

責任の原則

Accountability Principle

個人データの管理者は、これらの諸原則を実施する上での責任を有するべきである

個人情報の取り扱い:Cookie規制

ウェブサイトの管理者が意識しておくべき個人情報の取り扱いにおける留意点として代表的なものに、Cookieに関する取り扱いが挙げられます。

各国により詳細は異なりますが、Cookie(およびCookieに関連する個人識別情報)は、個人情報(または個人情報に類似するもの)と捉え、そのデータの利活用に際し、利用者(データ主体)に対して収集目的や利用手段を説明した上で、同意を得ることが必要という考え方が一般的です。

EUのCookie規制

EU市場を対象とするウェブサイトやモバイルアプリなどのオンラインサービスでCookieをはじめとする電子通信端末装置の読み書き機能を利用する場合、利用者の同意を取得しなければなりません。また、この同意は、GDPRが定める要件に従って取得することが求められます。具体的には次のとおりです。

  1. Cookieなど(Cookie以外の類似技術も規制対象となる)によるデータ処理の目的・方法・開示先・期間等について明確かつ包括的な情報提供を利用者に行った上で取得した同意であること
  2. 選択の余地がない取引条件ではなく、利用者が自由に与えた同意であること
  3. データ処理の1つひとつの目的ごとに同意を取得すること
  4. 曖昧ではない、肯定的な行為(例えばチェックボックスやチェックボックスのクリック、スライドスイッチのドラッグ、画面のスワイプなど)によって取得した同意であること
  5. Cookieを実際に設定するまでに事前に同意を取得すること
  6. 同意を取得したことをウェブサイト管理者が証明できること

これには、同意取得が不要な例外がいくつか定義されていますが、商用オンラインサービスの機能を実装するために必要なCookieについては、同意を取得する必要がありません。

この「必須Cookie」の範囲として、EU及び加盟国監督当局のガイドラインで次のようなものが例示されています。

  1. ウェブサイトの表示言語やフォントを記憶するためのCookie
  2. 買い物カゴに入れたアイテムを記憶するためのCookie
  3. 利用者のサービスログイン状態を記憶するためのCookie
  4. セキュリティアップデートの状態を監視するためのCookie
  5. 詐欺的な利用を防止するためのCookie
  6. アクセス負荷分散を目的とするCookie

必須Cookieではないもの、例えば、行動ターゲティング広告、オーディエンス分析等を目的とするCookieは、情報提供した上で、事前に同意を取得することが必要です。

EUCookie規制の対象はCookieだけではない

EUのCookie規制を定めたeプライバシー指令では、「利用者の端末装置への情報の書き込みまたは端末装置にすでに蓄積されている情報の読み出し」を規制対象としています。Cookieはその典型例であり、Cookie以外にも次のような追跡技術は、同じ規制の対象となります。

  • HTML5規格のローカルストレージ
    → 「1-3 ローカルストレージ」を参照
  • デバイス・フィンガープリンティング
    → 「1-3 フィンガープリント」を参照
  • トラッキング・ピクセル
    → 「4-2 Facebookピクセル等」を参照
  • モバイルOSにおける広告目的の端末装置識別子(IDFA、AAIDなど)
    → 「4-7 IDFA」を参照
  • IoTやコネクテッド・デバイスで用いられる各種の操作追跡技術
    → 「4-8 IoT」を参照

米国カリフォルニア州のCookie規制

米国カリフォルニア州で2020年1月から施行されている消費者プライバシー法(CCPA)でも、Cookieなどの追跡技術を利用した個人情報の処理が規制されています。

カリフォルニア州に居住する消費者の個人情報を利用する一定規模の事業者は、事業拠点の場所にかかわらず、この規制を受けることになります。具体的には、事業者が取得したウェブ閲覧履歴、ネット上の行動履歴、アプリの利用履歴といった個人情報を経済的な目的のために第三者に提供する場合、あらかじめ目的、開示先などについて消費者に情報提供した上で、消費者がこのような開示を拒否できる権利を行使できるような仕組みをウェブサイトやアプリに実装しなければなりません。

日本の個人情報保護法改正について:Cookie規制

日本では2019年に就活サイトでのCookieなどの扱いについて大きな議論が起きたのはご存知の方も多いと思います。2019年の就活サイトでの勧告事例は、個人情報保護法の改正に大きな影響を与えていると考えられ、これをきっかけにCookieの扱いについてはより慎重な取り扱いが必要となってきています。

今回の改正個人情報保護法では、個人関連情報(「1-2 個人情報の保護に関する法律」を参照)という概念が導入されました。

図:個人情報保護を巡る国内外の動向(個人情報保護委員会)から抜粋

図:個人情報保護を巡る国内外の動向(個人情報保護委員会)から抜粋

各国の異なるCookie規制に対応するには?

各国での法制度は複雑になり、世界各国に展開されるウェブサイトにとっては、各国で異なるCookie規制への対応をウェブサイト管理者自らが実装することは極めて困難になりつつあります。

例えば、EUのCookie規制に対応するには、Cookieバナー及び詳細設定画面によるCookie利用の目的・開示先等の情報提供、Cookie利用に関するオプトイン同意の取得、同意取得の証明が最低限必要です。カリフォルニア州CCPAの規制に対応するには、情報提供に加えて、Cookie利用に関するオプトアウト機会の提供が必要です。改正後の個人情報保護法により、日本でもCookieを利用する場合、何らかの対応が必要となる可能性があります。

このような課題を解決するため、近年では各国のCookie規制に対応して、同意の取得を手助けしてくれるツール(Cookie同意管理ツール)が提供されています。GDPR対応などでは無償のツールも出ており、導入は比較的簡単に行えます。ただし、利用者が同意を行う前にCookieが発行されてしまっていたり、Cookieウォール(自分のCookieをパブリッシャーが利用することを許可しなければ、サイトの記事ページに進むことができないような仕組み)が実装されていたりと、正しく実装が行えてないケースも見受けられます。ただ単にバナーを出せばよいというわけではなく、法制度の正しい理解に基づいた実装が求められます。

相反する要素であるデータ利活用と法対応はどのように進めていくべきか

ウェブサイト訪問時に、明確にデータの利用方法や手段を説明し、同意を取得しようとすると、取得できるデータは減ることになると思われます。これを嫌がるウェブマーケティング担当者の方は多いでしょう。

しかし、今日の世界ではさまざまなプライバシー保護規制が設けられ、ウェブサイト運営時の法対応は複雑になっています。こういうときこそ、透明性、公正性の原則に立ち戻ることが重要です。サードパーティ Cookie(4章記述)がなくなったとしても、おそらく新たなターゲティング広告の手法が生まれてきます。AIやデジタルトランスフォーメーション(DX)によって、さまざまなものがつながってきている現在では、しっかりとデータの利用目的や手段を説明しておかないと、思わぬところで思わぬ問題が発生する可能性があります。ウェブサイト運営者は評判を落とすリスクを避けるためにも、透明性、公正性の原則を基本に据えることが重要です。

ヨーロッパ、アメリカ、日本を見ても、制裁を受けたり社会的な大きな問題となったりするきっかけは、消費者、従業員、取引先など、人が合理的期待を裏切られたと感じる場合から発生していることがほとんどです。物事が複雑化している社会では、なおさらこの原則が重要となってくると考えられます。例えば、ターゲティング広告でサードパーティーの数が多少増えたとしても、目的を明示し、実施していることの本質について十分説明を尽くした上で同意を取っていれば、人は合理的期待を裏切られたとは感じないでしょう。データ主体に対し、実施していることを、枝葉ではなく大きな意味で、いかに正しく理解してもらうかという努力を継続していく必要があります。

1-2-6. ウェブ解析士が守るべきモラル

ウェブは急速に発展を続けているため、法律や判例が追いついていないことがあります。法律的にはグレーゾーンだったり問題がなかったりする行動でも、プロとしてモラルを持って判断しなければならない場合があります。いくつかの判断基準と事例を紹介しましょう。

消費者行動分析とプライバシー保護

ウェブ解析は、消費者行動を分析することで企業に有益な情報を与え、一方でユーザーの満足度の高いサービスやプロモーションを受けることを可能にする技術です。今後、この技術は2つの方向で進化していくでしょう。

1つはデータの個人情報化で、ウェブ解析の行動履歴に、会員情報や購買履歴などのアクセス解析以外のユーザーデータを紐付けることで、より精度の高い分析や最適化を行う方向です。もう1つはウェブ解析の応用範囲の拡大で、スマートフォンやデジタルサイネージなど、市街地や店舗内の行動履歴などに解析範囲が広がっていくことが予想されます。

その一方で、個人は自分のプライバシーに関わる情報を、許可なく他人に利用させない権利を持っています。他者が個人情報を利用するときは、その利用範囲や利用目的を定めることが法律で義務付けられています。

ウェブ解析士としては、ウェブ解析を事業に応用するにあたって、ユーザーのプライバシーを尊重することや、たとえ法律やポリシーに違反していないとしてもウェブサイト上でユーザー本人の望まない誘導を行わないといったことに気を配る必要があります。

モラルに欠ける行動

クチコミを通してユーザーの共感を得ることで、企業単体では実現できない広範囲のユーザーへのプロモーションができます。そのため、企業によって捏造したクチコミ情報を利用者の声と装ってクチコミマーケティングに用いられるケースがあります。これを「ステルスマーケティング」と呼びます。

「芸能人に対価を支払った上で、商品を利用してもらい、よい評判をブログなどに掲載させる」「Q&amp;Aサイトに消費者を装って商品について質問すると同時に、別の消費者を装って回答を掲載する」「アルバイトなどを雇い、商品を持たせて旅行した内容を一般人の体験談として掲載する」といったようなステルスマーケティングは、本来のクチコミマーケティングとはまったく異なるものです。

ユーザーを欺く行為をすれば、企業の社会的信用を落とすだけではありません。消費者庁によれば、このように商品・サービスを提供する事業者自身がステルスマーケティングを依頼したのであれば、景品表示法(景表法)に抵触します。この際、規制の対象は原則として広告代理店ではなく事業主である点に注意してください。

不誠実なデジタルマーケティング手法への注意

オンライン媒体の本文スペースに、広告主がお金を支払って記事配信を行う「ネイティブ広告(ネイティブアド)」と呼ばれる広告形式があります。

ネイティブ広告はユーザーの情報収集体験を妨げないことが特徴であり、近年では活用が増えています。しかし、ネイティブ広告を悪用し、消費者を欺く広告も増えてきました。そのため、一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA)がガイドライン <https://www.jiaa.org/gdl_siryo/gdl/native/>を発表しています。「広告であることを明記する」「広告主体者が誰であるか明記する」などです。

関連検索ワードに対するSEOにも注意が必要です。特に、検索エンジンで検索したときに「サジェスト(お勧め)」として検索窓に表示される検索結果に対する施策です。サジェストは、本来、ユーザーがよく利用する検索傾向から検索エンジンが類推して表示していますが、プログラムなどを使って検索エンジンでユーザーに見せかけた不正な動作を行ってサジェストに表示させる手法がありました。このような手法は違法ではありませんが、検索エンジンの検索結果への信頼性を著しく損ねてしまいます。ウェブ解析士は、このような手法を取り扱うべきではありません。

2016年末には、媒体企業が信憑性に欠く医療関連情報を記事として大量に作成し、閲覧数の獲得によりオンライン広告収入を得ていた問題があり、連日報道されて波紋を広げました。SEO手法の是非はあれ、記事コンテンツの上位表示によりオンライン広告収入を得るということはビジネスモデルの1つであり、違法行為には該当しません。この問題の本質は、生命にも関わる重大な情報に対して、根拠を示したり裏付けを取ったりすることもなく公開し、ユーザーの目によく触れるようにしていたという点にあります。

ウェブ解析士は、たとえクライアントや媒体企業に利益があろうとも、その記事を読むユーザーを欺く行為をしてはいけません。また、先の媒体は関連媒体も含めて、ほとんどが公開停止となっており、運営企業は失墜した信頼の回復に努めています。ユーザーを欺くことは、結果的にはクライアントを貶める行為になるので、ウェブ解析士としては決して加担してはなりません。

アドフラウド(広告詐欺)

ディスプレイ広告の広告配信プラットフォームの発展によって、広告主側は多数のメディアへ広告出稿ができるようになり、メディア側も直接営業なしで数多くの広告を集めることが可能になりました。しかし、信頼できる広告配信プラットフォームであっても、多段階に連鎖したアドネットワークなどが原因で「アドフラウド(広告詐欺)」に遭遇する危険性があります。

アドフラウドとは、広告主がメディアやプラットフォームなどに広告費を支払って出稿しているにもかかわらず、広告主にとって望ましい成果につながらない詐欺的な広告の消化が行われ、成約件数や効果を不正に水増しされることを指します。具体的には、専用のプログラムによってインプレッションやクリックを多数発生させて広告費を不正に詐取したり、不正なサイトに広告が掲載されたりするなど、小遣い稼ぎ目的の一個人から反社会的勢力に関わる国内外の悪徳業者まで、さまざまなプレイヤーの介在が疑われています。

また、米国の業界団体が「広告の50%以上の面積が画面に1秒以上露出するインプレッション」を「ビューアブルインプレッション」として定義していますが、Googleはビューアブルインプレッションについて、「ディスプレイ広告の56.1%はビューアブルインプレッションになっていない」との調査結果を2014年に発表し <https://doubleclick-publishers.googleblog.com/2014/12/5-factors-of-viewability.html>、2015年9月にビューアビリティを保証する仕組みに移行しています。

一方、正常な広告配信においても、有効とはいえないトラフィックが混在することがあります。無効なトラフィックを「Invalid Traffic(IVT)」と呼びますが、検索エンジンのクローラーといったプログラムによる悪意のないトラフィックと、作為的にインプレッションやクリックを発生させる悪意のあるトラフィックがあります。前者は自ら人間でないことを示しているので容易に除外できますが、後者は人間であるように偽装するなど、さまざまな手法があり、さらにアドフラウドによって生じるトラフィックも含まれます。これらについては、無効なトラフィックとして広告レポートから除外することで、広告レポートの正確性と有効性を高める必要があります。

広告効果測定には「成果が何件あったか」というコンバージョンをKPIとして重視することが多いのですが、何回表示されたか、クリックされたかといった中間指標も把握することが重要です。「KPI=成果・獲得」といったことだけに注目しすぎると、意図していないターゲットや配信場所で広告が消化されていることに気付かない可能性があるため、注意してください。

クライアントの成功をサポートする

ウェブ解析士協会で実施したアンケート結果などを踏まえると、ウェブ解析士のおよそ3分の1が組織内(企業や官公庁・自治体、学校など)で活動しており、残る3分の2が組織外でクライアントを支援しています。

立場の違いはあれ、ウェブ解析士は事業の成果につなげるために必要な情報をわかりやすく関係者と共有し、判断の手助けをすることが求められます。ウェブ解析士は、デジタルマーケティングのプロフェッショナルとして、クライアントが成功させようとしているビジネスモデルをマーケティングでサポートします。残念ながら、私たちは事業を必ず成功させられるとは限りません。さまざまな理由で失敗もあります。ウェブ解析士がプロフェッショナルとして最低限保証すべきことは、「知りながら害をなさない」ことです。

したがって、関係者のリテラシーや自らの立場を悪用して、信頼の損失になったり、ビジネスに支障を来したりするようなことをしてはなりません。例えば、プロフェッショナルから見たら明らかに効果がないものを効果があるように見せてサービスを提案することや、本当は作業や出稿をしていないのに、クライアントが気付かないため、そのまま費用を請求してしまうことなどが当てはまります。具体的には、次のようなものが挙げられます。

  • 運用型広告で媒体に支払う広告費用の請求金額を改ざんすること
  • 「Googleマイビジネス」のような無料で実施できるサービスへの掲載を有償で請求すること(設定代行などの作業費用は、これに当てはまらない)
  • 本来は広告宣伝費などとして計上すべきSEOやウェブサイトをリース契約にして契約し、不当な費用を請求すること
  • モバイルアプリなど、開発自体や普及に多大な広告・宣伝・告知の労力が必要なサービスを、それらの能力のない中小企業向けに提供すること

ミッションを曲解しない

ソーシャルゲームを含めたオンラインゲームでは、ほとんどの場合、初期段階を無料にし、その後、ゲームを有利に進めるためのアイテムや、レベルを上げるための課金で収益を得ています。このような一定の費用をかけないと進めることが難しいタイプのゲームでは、多額の料金徴収を受けた消費者とゲーム提供会社との間でトラブルになることがあり、未成年者がスマートフォンのゲームで遊んでいて、想定外の料金になってしまうというケースも増えています。

ソーシャルゲームの「コンプリートガチャ」と呼ばれる商法では、ゲーム会社が景品表示法違反であると判断され、注意を受けたことで社会問題化しました。コンプリートガチャという仕組みは、ランダムに入手できるアイテムのうち、特定の複数アイテムをすべて揃えることで稀少アイテムを入手できるというシステムで、くじを引くために、有料課金が必要になります。一見、単純なくじ引きゲームであるため、簡単に目的を達成できそうに思われますが、実際は達成の確率が非常に低く作られているので、いったん料金を支払ったユーザーは、途中でそのゲームを止めることに心理的抵抗を感じ、目的達成まで高額な費用を払い続けることになりがちです(コンコルド効果)。確率統計手法と人間心理をついたこの仕組みには、多くの批判が寄せられました。

ウェブ解析士がオンラインゲームの解析を行う際、そのミッションは事業の成果につなげること、すなわち「いかに有料課金を増やすか」ということになります。具体的には、無料課金ユーザーを有料課金ユーザーとするには、どのタイミングでイベント発生やアイテムを提供することが適切かといった解析分析です。事業の成果につなげるための施策を考えつつも、コンプリートガチャのように、ユーザー心理に付け込むような手法は慎むべきです。

目指すべき企業とユーザーとの関係

ウェブ解析士は事業の成果に貢献することが役割ですが、成果につながればどんなことをしてもよいわけではありません。また、情報漏洩や不適切な業者選定などのトラブルに巻き込まれるリスクを回避することも意識しなければなりません。

このような注意点を無視すると、一時的には事業の成果に貢献できたとしても、長期的には企業の信頼を損ないます。あるいは、業界全体で見た場合、インターネットへの不信感や不安を増長することになり、結果としてウェブ解析士にとってもクライアントにとってもマイナスに働く危険性があります。次の3点を守り、企業とユーザーとの良好な関係を築くように努めてください。

ユーザーの意思を尊重すること

ウェブ解析士は、解析を通じてユーザーを今まで以上に幸せにしたり、クライアントへの満足度を高めたりする仕事をするべきです。ユーザーが望まぬことを強制したり、知られたくないことを暴くような解析やマーケティングはすべきではありません。

ユーザーの満足度向上を通した事業の発展を意識すること

ウェブ解析士の役割が事業の成果に貢献することであっても、ユーザーにメリットがなく、満足度を向上させるものでない場合は、その施策は行うべきではありません。

ウェブを通じた社会の発展に資すること

ウェブ解析士は、ウェブを通してユーザーの満足度を向上させることで、企業の発展に貢献するように行動しましょう。

ウェブは、ユーザーには利便性を、企業にはマーケティングをもたらしました。しかし一方で、新たなトラブルや犯罪なども起きています。行政・立法機関や各企業は、法律や企業独自のコンプライアンスを高めることで防止策や罰則規定を整えていますが、マーケティング手法の進化に追いついていないのが現状です。つまり、ユーザーの幸せと企業の発展は、最終的にはインターネットの信頼性を高められるかという、関係者一人ひとりのモラル・良心に依存することになります。インターネットへの信頼性が失われれば、ウェブ解析士はもちろん、ウェブ業界やクライアントの情報発信も満足のいく結果を得られなくなってしまいます。

最近、若年層は検索エンジンの検索結果を信頼せず、知人によるクチコミやソーシャルメディアの情報を信じるようになっているという話がありますが、これも検索エンジン上で行き過ぎたマーケティングを行った結果の1つといえます。自分の行っていることが、ウェブを通じた社会の発展に貢献しているのか、常に意識しながら行動しましょう。

1-2-7. ウェブサイトのリスク管理

ウェブサイトを運営する上で、企業に起きるさまざまなリスクを把握しておきましょう。ウェブ解析士が直接的にセキュリティの管理をすることはありませんが、マーケティング施策や顧客情報の利用において、これらの重要性や主な施策を理解しておく必要があります。

ウェブサイトのセキュリティ

セキュリティ対策の範囲は幅広く、「システム」と「運用体制」に応じて個別に検討します。セキュリティ対策で最初に行うべきは、情報資産の棚卸しと、それらが漏洩した場合の被害額を算出して共有することです。次に、運用の見直しとネットワークやセキュリティ対策を分析します。ウェブシステムはインターネットを経由して誰もがアクセスできることから、セキュリティ対策が必須です。

[表:代表的なサイバー攻撃]に、サイバー攻撃の代表例をまとめました。ウェブサイトの堅牢性を測れば、どの程度のセキュリティの知識を持っているかを知ることができます。

表:代表的なサイバー攻撃

攻撃

対象

攻撃の種類

内容

対策

クライアント

標的型攻撃

特定の人物に対して、メールなどを使ってマルウェアを送り込む、もしくはマルウェアが仕込まれているウェブサイトでフィッシング詐欺を行う

不明瞭なメールは開封しない、知らないウェブサイトのリンクをクリックしない。

ソーシャル・
エンジニアリング

管理者や上長になりすましてパスワードなどの機密情報を聞き出したり、肩越しにパスワードを盗み見したりする。

電話では、パスワードなどの重要な情報を伝えない。

ディスプレイにのぞき見防止フィルタを着用する。他人が周囲にいる場合は、パスワードを入力やメモ書きを見せないようにする。

重要な書類をシュレッダーにかけたり、溶解処理をする。

二段階認証を導入する

総当たり攻撃

考えられるパスワードのパターンをすべて試し、システムに侵入する方法。「ブルートフォースアタック」とも呼ばれる。

10文字以上で、複数の文字種が含まれた複雑なパスワードを設定する。

辞書攻撃

よくある地名・人名・ニックネーム、生年月日などと記号を組み合わせたパスワードの候補を辞書として用意して試し、システムに侵入する方法。

単語を組み合わせただけの単純なパスワードは使用しない。

中間者攻撃

ネットワーク上の通信内容を盗聴し、実際のサイトになりすまして利用者のパスワードや情報を窃取する。

SSLを導入する。

無線LANでWPA2-AES/WPA3-CNSAもしくは802.1X認証を採用する。

クライアント・
サーバー

脆弱性攻撃

システムの欠陥や意図しない弱点を利用し、管理者の権限の取得や、情報を窃取する。

セキュリティパッチの適用。脆弱性を招くコードの排除。

SQLインジェクション

ウェブサイトに不正なSQL文を送信し、データベースから情報を窃取する。

SQL文の特殊文字を適切にエスケープする。プリペアドステートメントを使用する。不要なエラーメッセージの表示を行わない。

クロスサイト
スクリプティング

脆弱性のあるサーバーのウェブページに不正なスクリプトを埋め込むことで、ページを改竄したり、Cookieを窃取して本人になりすまして侵入したりする。

入力値を制限する。サニタイジングを行う。常時SSL接続にする。サービス終了(ログオフ)したらCookie情報を無効にする。

サーバー

DoS攻撃

サーバーが処理しきれない大量のデータを送りつける、もしくは、HTTPなどの応答動作を利用して、サーバーに過負荷をかける。脆弱性を利用する場合もある。さらに複数の端末から攻撃する「DDos攻撃」もある

ファイヤーウォール製品の導入、セキュリティパッチの適用、WAFの導入。

IPのアクセス制限。

特定の国からのアクセスを遮断する。

用語説明

マルウェア

悪意のある不正プログラムで利用者に害をおよぼすソフトウェア総称のこと

フィッシング詐欺

改竄したウェブサイトなどを使い、クレジットカード情報など個人情報を盗むこと

のぞき見

人がパスワードなどを入力する様子を盗み見て、(肩越しに)情報を不正に入手することを「ショルダー・ハッキング」ともいう

二段階認証

システムやサービスにアクセスするために、二度認証を行うこと

SQL

Structured Query Languageデータベースを操作するための言語のこと

エスケープ

文字本来の意味とは異なる特別な意味や機能を与えることで、不正利用を防ぐ

プリペアド
ステートメント

SQL文を最初に用意し、パラメーターの値で実行できる機能のこと。SQLをフォームに入れても無視される

スクリプト

JavaScriptなどのコンパイル作業のいらない、そのまま実行できる言語のこと

サニタイジング

「無害化」のこと。プログラムにとって特別な意味を持つ文字や文字列を別の表記に置き換える

WAF

「Web Application Firewall」の略で、ウェブアプリケーションの観点からプログラムとデータを守るセキュリティ対策のこと。Dos攻撃を守るにはその機能があるWAFに限られる

ウェブサーバーのセキュリティ対策を怠れば、ほかのウェブサーバーの攻撃に利用される可能性があることを考えると、もはや社会的な義務といえます。セキュリティ対策を講じなかった企業に対して、メディアとユーザーは厳しい評価を下す時代になっています。ウェブサービスを提供する側としては、攻撃に対する知識をもとにした運用体制の構築が必要です。詳しくは割愛しますが、ウェブサービス管理者パスワードの要件を紹介します。

なぜ、定期的変更が不要なのでしょうか。12桁でキートップ96文字がすべて使えるとすれば、612,709,757,329,767,363,772,416通りの組み合わせが成立します。この組み合わせ数ならば総当たり攻撃が困難であり、辞書攻撃も不可能だからです。パソコンやデジタル媒体への保存を禁止すれば、ネットワークからの流出も起こり得ません。この場合、パスワードの流出が起こり得るのは、社内で鍵のかかったロッカー内にあるパスワードを書き留めた文書を閲覧した、もしくは、サーバーにスパイウェアかキーロガーを設置されたかのいずれかと推測できます。前者は被害に遭わないように適切な措置を講じることができますし、後者の場合はアンチウイルスツールで検出が可能です。これらに加えて、ウェブサービスへのアクセス端末を固定IPアドレスによる専用端末としておけば、より安全といえます。

パスワードの保存を紙媒体で行うことに疑問を感じる人も多いかもしれません。しかし、Windows端末のパスワードを不正に解読するクラッキングツールが多数出回っており、誰でも簡単に解読できるのが現実です。管理者専用のしっかりとした金庫の設置をお勧めします。

ウェブサイトのBCP/BCM

企業が災害や事故で重大な被害を受け、事業継続が困難な状況に陥ったときを想定した計画を「BCP(Business Continuity Planning:事業継続計画)」といいます。それに対し、事業継続に必要な活動を管理するマネジメント手法のことを「BCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)」といいます。

一般には、BCMによってBCPを最新の状態に保つと理解されています。災害や事故のときの情報発信は重要です。東日本大震災の際、福島県のある自治体は、津波と福島原発の事故の混乱からまったくサイトを更新することができず、「現在災害は起こっていません」というメッセージをトップページに掲載し続けてしまいました。災害が起きたときは、ユーザー、取引先、従業員の家族、近隣の住民、自治体、金融機関、株主などのステークホルダーがウェブサイトを確認し、情報を得ようとします。被害がなければ被害のないことを、被害があればその対応状況をスピーディーに発信をすることが、ステークホルダーに対する安心感と事業への支援につながり、事業継続に寄与します。災害時のウェブサイトの情報管理ができていなければ、関係者すべてに不信感を生んでしまいます。このような事態を防ぐためにも、タイムリーで正確な情報発信が不可欠です。そのためにも、次のようなことを事前に決めるようにしてください。

担当者と緊急時対応方法

緊急時の「誰に何を」「どういう手段を用いて伝えるか」について、事前に決めておきます。そして、その際にはウェブサイトを活用します。

トップページでは共通メッセージを発信し、下位のページにおいては、ユーザー向け、従業員の家族向けなどといったステークホルダーの属性別に情報を発信するとよいでしょう。また、これらの更新作業が、特定の社員や制作会社しかできないとなると、いざというときに情報更新できなくなる恐れがあります。CMS(Contents Management System)などを導入して、誰でも更新作業ができるようにしておきます。もちろん、防災訓練の一環として更新作業の訓練をすることも大切です。

災害時のウェブサイトはなるべく軽量なサイト・ページとする

災害時はネットワークが混雑する場合があるので、なるべくデータ量の少ない「軽量な」ページにします。そうすることで、携帯電話などの「非力な」ウェブブラウザからの閲覧も可能になります。また、停電などで限られた電力しかない閲覧者への配慮にもなります。

クラウドサービスに代替サーバーを設定する

ウェブサーバーを自前の施設に設置すると、停電やネットワークダウン、建屋の被災などの影響によって使えなくなる恐れがあります。この問題を解決する手段として、自社が立地する被災地域とは離れた場所にあるクラウドサービスを利用する方法があります。

1-2-8. アフィリエイト広告やフェイクニュースに関わる法律と事例

アフィリエイトに取り組むジャンルには、景品表示法や特定商取引法、健康増進法、金融商品取引法( <https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323AC0000000025>取引を過度に進める広告などの禁止事項がある)、貸金業法( <https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=358AC1000000032>過度な借り入れを促す広告などの禁止事項がある)、薬機法など、守らなければいけない法律が存在します。中でもすべてのアフィリエイト広告において特に注意が必要な法律が「景品表示法(通称、景表法)」と「特定商取引法(通称、特商法)」の2つです。

アフィリエイトサイト運営者側(いわゆるアフィリエイターやブロガー側)は商品を自ら供給する者ではないため、景品表示法上の措置を受けるべき事業者には当たりません。一方、広告主はアフィリエイトサイトの表示内容の決定に関与している、もしくは表示内容の決定を委ねている事業者に該当するため、アフィリエイトサイト上で虚偽の表示が掲載された場合、景品表示法の措置を受けるべき事業者に該当します。

例えば、「飲むだけで100%痩せるサプリメント」や「塗るだけで髪が生えてくる育毛剤」「絶対に儲かる投資システム」といった誇大広告(優良誤認、有利誤認など)に該当する表示が、たとえ広告主のランディングページやオウンドメディアでは行っていなかったとしても、提携しているアフィリエイトサイト上で表示されていた場合、アフィリエイト報酬を払っている広告主側が景表法の責任を問われます。

実際に、消費者庁はアフィリエイトの広告主側であった株式会社ブレインハーツに対し、景品表示法に基づく措置命令及び課徴金納付命令を2018年6月15日に下しました 。その措置命令内において日本の歴史上初めて、アフィリエイトサイトの表示も景表法の規制の対象であることが明記されています。

また、消費者庁取引対策課は2020年7月、広告主である販売業者がアフィリエイト広告をアフィリエイターに委託して、自分は知らなかったということで特商法違反が免罪符になることは決してなく、通信販売業者やASP(アプリケーションサービスプロバーダー)などの違反が景表法だけでなく特商法でも問い得ると発表しています <https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/meeting_materials/assets/consumer_transaction_cms202_200825_06.pdf>。

ASP(アプリケーションサービスプロバーダー)」とは

イーコマースのカートシステムなどの提供会社のこと

アフィリエイト広告を利用していた広告主側が景表法と特商法の両方の違反行為で処分された事例もあります。埼玉県は、株式会社ニコリオが運営する公式ウェブサイト、そしてニコリオの提携アフィリエイトサイト上において景表法と特商法に違反する表示が行われていたとして、同社に2020年3月に景表法の措置命令を、そして翌4月に特商法の業務停止命令という行政処分を科しています <https://www.pref.saitama.lg.jp/a0001/news/page/2020/0401-06.html>

景表法や特商法で処分されないためにも、消費者に正しい情報を伝えるためにも、広告主側は提携するアフィリエイトサイト、そして成果を上げているアフィリエイトサイトの表示内容を定期的にチェックし、問題のある表示を発見した場合は提携拒否や提携解除、報酬支払の拒否といった対応を取る必要があります。当然、アフィリエイトサイト運営者も誇大広告にならないよう表示内容には気を付けなければいけません。

パートナーASP選びの章でも詳しく解説していますが、ASPによって違法・悪質な事業者を自主的に排除しているところもあれば、景表法や特商法、薬機法に違反する恐れのある事業者やサイトを受け入れてしまっているところもあります。アフィリエイトに取り組むにあたってASPを選ぶ際は、手数料やサイト数だけでなく、違法・悪質なアフィリエイト行為に対してしっかり対応しているASPかどうかも見極める必要があります。

アフィリエイトが関わる景表法や特商法、薬機法などの法律面については、アフィリエイト・プログラムの業界団体「一般社団法人 日本アフィリエイト協議会(JAO)」 <https://www.japan-affiliate.org/>をはじめとして、さまざまな業界団体や事業者が、サイト上での注意喚起や法律の講習会などを開催しています。不安な場合は、こうしたサイト情報や講習会受講もチェックしてみましょう。

美容・健康ジャンルの事業者は「薬機法(旧・薬事法)」にも要注意

健康食品やサプリメント、化粧品など美容・健康ジャンルの商材を扱う事業者は、薬機法にも注意が必要です。薬機法は景表法とは違い、広告主だけでなくアフィリエイトサイト運営者、ASP、広告代理店など、関わる個人・法人すべてが責任を問われます。

医薬品の承認を得ていない健康食品やサプリメント、化粧品などで「病気が治る」「脂肪が溶ける」「シミが消える」といった医薬品的な効能効果を宣伝してしまうと、民間団体からの指導や行政指導、最悪の場合、刑事事件に発展する場合があります。

2020年7月20日には、体験談を書いたような記事広告を通じて健康食品を販売していたとして、健康食品通販会社のステラ漢方株式会社の従業員に加え、ネット広告代理店の株式会社KMウェブコンサルティング、同じく広告代理店のソウルドアウト株式会社、そしてソウルドアウト株式会社の委託先の制作会社の従業員ら計6名が、医薬品医療機器法違反(未承認医薬品の広告禁止)の疑いで大阪府警に逮捕されています<https://www.data-max.co.jp/article/36806/>。

フェイクニュース問題

2016年のアメリカ大統領選ではSNSなどで虚偽・捏造の情報、いわゆる「フェイクニュース」が拡散し、有権者の意思決定に影響を及ぼしたといわれています。近年、欧米諸国を中心にフェイクニュースは大きな社会問題となっています。

日本においても、2018年10月に総務省が「プラットフォームサービスに関する研究会」の中で、「インターネット上のフェイクニュースや偽情報への対応」を検討項目の1つとして議論を行い、2020年2月に最終報告書を取りまとめています <https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/ihoyugai_05.html>

日本では表現の自由が保障されていますが、一方で全くのデマ情報を発信し、他者の権利や利益を侵害した場合には名誉棄損や偽計業務妨害罪などでペナルティを科される可能性があります。実際に、2016年4月には「動物園からライオンが逃げた」というデマ情報をTwitterに投稿して動物園の業務を妨害したとして、神奈川県に住む20歳の会社員の男性が逮捕されました <https://www.huffingtonpost.jp/2016/07/20/lion-escape_n_11081056.html>。また、2019年4月にはバイラルメディア「netgeek」がフェイクニュースやデマの温床になっているとして、ITコンサルタントらに集団訴訟を提起されています<https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1904/08/news129.html>。

フェイクニュースを発信する行為だけでなく、フェイクニュースをSNSやブログ等で拡散した場合にもペナルティが科せられるケースもあります。2019年8月に発生したあおり運転殴打事件で「同乗者の女」とのフェイクニュースをネット上で広げられた女性が、Facebookなどでこのデマを広めていたとして元愛知県豊田市議を名誉棄損で訴えた裁判では、女性の社会的評価を低下させたとして元市議側に損害賠償の支払いが命じられています <https://www.jiji.com/jc/article?k=2020081700792&g=soc>

フェイクニュースを発信する理由としては、政治的動機だけでなく、センセーショナルなデマニュースを作り上げて多くのPVを集め、広告収入を得ようとする経済的動機もあります。このフェイクニュースと広告収入が悪い意味で合わさってしまったものが、「芸能人が絶賛している」「テレビ番組で紹介された」と虚偽の商品・サービス紹介を行ういわゆる「フェイク広告」です。2019年2月には警視庁サイバー犯罪対策課が、著作権法違反としてフェイク広告を作成していたサプリメントの通販会社を書類送検しました <https://www.asahi.com/articles/ASM2P33PRM2PUTIL003.html>。この事件では、事業者側は無断で日本テレビの情報番組の一場面を切り取った画像に「オススメの超最新型ダイエット」などと字幕を入れたり、厚労省のシンボルマークを使って「厚労省の指定補助食品に選ばれている」などとフェイク広告で宣伝することで、自社のダイエット用サプリメントの売上につなげていました。

オウンドメディアやアフィリエイトサイトで情報発信を行う際は、フェイクニュースやデマ情報を発信しないように最大の注意が必要です。また、広告主側であればこうしたフェイクニュース発信サイトやフェイク広告制作会社の資金源にならないよう、アフィリエイトやアドネットワークで自社の広告が表示されないように対策を取ることも大切です。

1-3 ウェブの基本的な仕組み

ウェブ解析の最初の一歩として、理解しておくべきことが2つあります。

1つ目は、インターネットにおけるデータ通信の仕組みです。アクセス解析ツールは、サーバーに関する知識がなくても扱えるため、データ通信の仕組みを意識することはありません。しかし、基本的な指標として得られるデータが、どのような仕組みで取得されているのかを理解すれば、指標の持つ意味や扱い方を理解しやすくなります。

2つ目は、ウェブ解析における基本的な用語と指標です。ウェブ解析を実践していく上で、その用語が何を意味し、特に指標であれば、その数値がどんな状態であるかをイメージできるようになっておく必要があります。

この2つの理解が不足していると、システムごとのデータの違いが理解できなかったり、データを解析しても結果を読み間違えたりするといった弊害が発生します。したがって、ここで技術的基本を理解し、基本的な指標をしっかりと覚えてください。

1-3-1. ウェブサイトが表示される仕組み

まずはウェブの仕組みから理解していきましょう。

例えば、ユーザーが「あるサイトを見たい」とブラウザにURLを入力すると、ウェブサーバーに「必要な情報を送信してください」という「リクエスト要求)」が送られます。

このリクエストに対して、ウェブサーバーは該当するファイルの検索やプログラムの実行をし、ブラウザに「レスポンス返答)」します。その結果がブラウザに表示されるのですが、このウェブサーバーにおける処理内容を記録したものが「アクセスログ」です。

アクセスログには、ウェブページ(HTML)や画像ファイル、JavaScriptファイル <https://developer.mozilla.org/ja/docs/Learn/JavaScript/First_steps/What_is_JavaScript>、CSS <https://developer.mozilla.org/ja/docs/Web/CSS>ファイルなどのリクエストが含まれます。また、パソコンのブラウザに限らず、携帯電話やスマートフォンなどのブラウザからのリクエストも、同様に記録されます。

図:ウェブサイトが表示される仕組み

図:ウェブサイトが表示される仕組み

アクセス解析のローデータ

アクセスログは、ツールなどで加工されていない状態のデータということから「ローデータRaw Data)」「生ログ」とも呼ばれます。アクセスログは当初、サーバーの負荷やシステムのエラーがあった際に、その原因を確認するために使用するものでした。しかし、このアクセスログに含まれる情報からサイトの閲覧状況を解析可能であるということから、アクセス解析が行われるようになりました。

アクセスログ情報の種類・順序などの書式は「ログフォーマット」と呼ばれます。主にCommon Log FormatCombined Log Formatがあり、アクセス解析にはCombined Log Formatが用いられます。

これら以外のログフォーマットとして、W3C拡張ログファイル形式や、Microsoft社製のウェブサーバーソフトウェア「Internet Information Services(IIS)」で利用されるMicrosoft IISログファイル形式などがあります。

図:Combined Log Formatの形式

図:Combined Log Formatの形式

Combined Log Formatには、次のような項目が含まれます。

リファラー参照元

リファラーは、リクエストしたページの直前に閲覧したページのURLです。

IPアドレスとホスト名

IPアドレスは、各コンピューターがインターネットに接続するときに与えられる住所のような識別子です。ホスト名は「ネットワークドメイン」とも呼ばれ、「waca.associates」といったようにIPアドレスに紐付けられている名称のことで、DNS(Domain Name System)というシステムを運用するDNSサーバーで設定します。DNSを検索した際に、IPアドレスと関連付けられているホスト名があれば、ログに記録されます(ホスト名がなければ、IPアドレスになる)。IPアドレスとホスト名から、このユーザーはどの接続ポイントから訪問しているかがわかります。

ステータスコード

ステータスコードは、リクエストに対してウェブサーバーがレスポンスを返した際の「レスポンスの状況」を表現する3桁の数字からなるコードです。主なステータスコードは[表:ステータスコード]のとおりです。

表:ステータスコード

ステータス
コード

内容

詳細

200

OK

リクエストは正常に受け付けられた

301

Moved Permanently

リクエストされたコンテンツは恒久的に別の URLに移動した

302

Found

「Moved Temporarily」という意味で、指定されたコンテンツが一時的にほかのURLに存在しているので、そちらを参照するように指示するもの。301と違い、リクエストされたURLに復帰する可能性があるため、クライアント側は引き続き同じURLでリクエストする必要があった。RFC 2616( <https://tools.ietf.org/html/rfc2616> 1999年に改定したステータスコードの決まり=プロトコル)で、このステータスは「Found」に改められ、 あわせて「303(See Other)」と「307(Temporary Redirect)」が追加された

303

See Other

RFC 2616にて追加されたステータスコード。「ほかを参照せよ」という意味で、リクエストに対するレスポンスがほかのURLに存在するときに返される。また、POSTメソッドでリクエストされた場合でも、リダイレクト先のURLに対してGETメソッドを使うべき際に使用する

304

Not Modified

リクエストされたコンテンツは更新されていない。キャッシュと同一内容である

307

Temporary Redirect

RFC 2616にて追加されたステータスコード。「一時的リダイレクト」という意味で、本来、302の使い方として想定されていたものを改めて定義し直したもの。リクエストメソッドを変更してはならず、GETメソッドやHEADメソッドなどではない場合、エンドユーザーへの確認なしにリダイレクトしてはならない

401

Unauthorized

リクエストされたコンテンツには認証が必要である

403

Forbidden

リクエストされたコンテンツへのアクセスは禁止されている

404

Not Found

リクエストされたコンテンツは存在しない

500

Internal Server Error

サーバー内でエラーが発生した(動的コンテンツが正常に動かない場合が多い)

「POSTメソッド」とは

フォームに入力したデータなど、URLにパラメーターとして見えない形でデータを受け渡す方法のこと

「GETメソッド」とは

URLにパラメーターとして見える形でデータを受け渡す方法のことユーザーエージェント

ユーザーエージェント

ユーザーエージェントは、通信に利用するソフトウェアやハードウェアを識別するための文字列です。携帯端末の機種名やウェブブラウザ名の情報によって、リクエストに対してユーザーの閲覧環境に最適なレンダリングデータ(ウェブページを表示するためのデータ)をレスポンスとして返す目的でも使われます。ユーザーエージェントをもとに、次のような情報を知ることができます。

  • OSの種類
  • ウェブブラウザの種類
  • 携帯端末からのアクセスの場合、通信事業者(キャリア)

なお、ユーザーエージェントは、ブラウザのプラグインやアドオンによって偽装することも可能なので、必ずしも正しい情報であるとは限らないという点に注意してください。

クローラー

クローラーは、検索エンジンやRSSサイトが情報を収集するために作った自動巡回プログラムのことで、「ロボット」「ボット」などと呼ばれることもあります。人間によるアクセスではない「ノンヒューマンアクセス」です。クローラーがサイトを訪れた場合もページをリクエストします。クローラーからのリクエストの場合は、次のような文字列情報がユーザーエージェントログとして記録されます。クローラーによる情報には、どの検索エンジンであるかが記録されます。

Google: Mozilla/5.0(compatible;Googlebot/2.1;+http://www.google.com/bot.html)
Yahoo!: Mozilla/5.0(compatible;Yahoo!Slurphttp://help.yahoo.com/help/us/ysearch/slurp)
Bing: Mozilla/5.0(compatible;bingbot/2.0;+http://www.bing.com/bingbot.htm)
クローラーの記録

アクセス解析の手法(後述)によって、クローラーの記録は異なります。ウェブビーコン型の解析ツールの場合は記録されないことも多いのですが、まれに解析データに含まれることがあります。サーバーログ型やパケットキャプチャ型の場合は、クローラーの行動もログに記録されます。クローラーからのアクセスを把握したい場合は、サーバーログ型の解析ツールを使う必要があります。

転送容量

転送容量は、ウェブサーバーが配信するデータ量(バイト)を示します。この情報はステータスコードが200だった場合のみに記録され、それ以外は0バイトとなります。

1-3-2. IPアドレスCookie

アクセスログは閲覧したページの情報を収集しますが、そのままではセッションやユーザー単位での閲覧行動が把握できません。この把握には、IPアドレスCookieを使うことが一般的です。

グローバルIPアドレスとプライベートIPアドレス

全端末に異なるIPアドレスを割り振ることが理想的ですが、現在は端末の数に比べてインターネット上にあるIPアドレスが少ないため、組織やプロバイダ(接続業者)ごとに複数の端末で1つのIPアドレスを共有しています。この全世界でユニークなIPアドレスを「グローバルIPアドレス」といい、組織内のネットワークのみで利用されるIPアドレスは「プライベートIPアドレス(ローカルIPアドレス)」といいます。

通常、同じインターネットへの接続ポイントを使っている端末は、同じグローバルIPアドレスが割り当てられます。したがって、アクセスログにあるIPアドレスだけで、どの端末がアクセスしているかを特定することは困難です。また、モバイルからの接続の場合、移動に応じて接続する基地局が変わるため、IPアドレスが変わることがあります。

IPアドレスによる関係者の除外とユーザーの判定

アクセスログから関係者のアクセスを除外するため、関係者のIPアドレスをウェブ解析ツール上や広告管理画面で「関係者の除外」に指定します。ただし、この方法は固定IPアドレス(後述)を保有している組織に限定されるため注意が必要です。

サーバーログ方式の解析ツールやパケットキャプチャ方式解析ツールでは、セッションやユーザーの判定にもIPアドレスを用います。OSやウェブブラウザ情報などのユーザーエージェント情報(後述)も併せて判断に用いることが一般的です。

エリア分析・組織名分析でのIPアドレスの活用

プロバイダ(接続業者)の多くは、接続ポイントごとにIPアドレスを割り振っているため、IPアドレスからどこの都道府県や市町村からアクセスされたのかを推定できます。

IPアドレスには、接続のたびにアドレスが変わる可能性のある「動的IPアドレス」と、アドレスが変わらない「固定IPアドレス」があります。固定IPアドレスの場合は、一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)が管理している情報を参照すれば、接続している組織名を特定できます。

また、多くの接続は接続業者経由の情報になりますが、専用のインターネット接続網を持っている組織であれば組織名もわかります。官公庁や大学、大手企業などは組織名まで確認できるので、見込み客になりそうな会社や、競合他社の閲覧頻度などがわかる可能性があります。ただし、固定IPアドレスを取得していない組織(中小企業など)の情報までは見られません。

Google アナリティクスでは、以前はIPアドレスによるネットワークドメイン(ホスト名)を表示していましたが、執筆現在(2020年8月)では非公開となっています。

また、「どこどこJP」 <https://www.docodoco.jp/>などのサービスをサイトに設置することで、Google アナリティクスなどのアクセス解析ツールにIPアドレスから判定される組織名を取り込むことができ、組織分析を軸としたアクセス解析が可能になります。

Cookieから得られる情報

Cookieは、ブラウザごとに記録されます。つまり、スマートフォンとパソコンでは同じユーザーであっても異なるCookieが使われます。また、同じパソコンであっても、複数のブラウザを使えば、それぞれ別のCookieが保存されます。

Cookieに保存される情報は、最後にサイトを訪れた日時や訪問回数などがあり、ウェブビーコン型アクセス解析では、ユーザーの識別、ユニークアクセス・セッションの測定に使われます。1つのCookieには4,096バイトのデータを記録できます。Cookieには有効期間が設定され、その設定を過ぎると消滅します。有効期間はアクセス解析ツールにより異なり、30日や90日という設定が多いようです。

ウェブビーコン方式のアクセス解析ツールでは、Cookieを利用してセッションやユーザーなどのデータを取得しています。

[図:Cookieの概念図]に示すように、初回の訪問ではCookieを持っていないので端末を識別できるIDなどを含むCookieを与え、次のページを見たときは同じCookieを持っているかどうかで2ページ目以降の閲覧と認識してCookieに追記します。このように、Cookieを利用し、ページビューをつなぐことで同一セッションとして認識できます。

図:Cookieの概念図

図:Cookieの概念図

通常、Cookieはウェブブラウザを閉じるなどで閲覧を終了しても保存するようにもできるため、Cookieを確認することで、再訪なのかどうかがわかります。これらの情報から、ユーザーの訪問回数を知ることもできます。

理論上、Cookieには4,096バイト以下の情報なら何でも格納できます。ツールによっては、初めて訪問したときのキーワードや初めて訪問したページなどを保存するものもあります。

ファーストパーティーCookieとサードパーティーCookie

Cookieは、発行元がどこのドメインかで次の2種類に分類されます。

ファーストパーティーCookieは、ユーザーがリクエストを送ったドメインのデータしか取得できないため、複数のドメインにまたがったウェブサイト(example.comとotherdomain.comなど)の場合、お互いのCookieの情報を参照・取得できません。その結果、データがドメインごとに分かれてしまいます。一方、サードパーティーCookieは、複数のドメインにまたがったウェブサイトでも容易に同じ閲覧行動としてデータが取得できます。

ファーストパーティーCookieは、ユーザーにブロックされにくい点がメリットです。ファーストパーティーCookieを利用することで、より精度の高いトラッキングや効果測定が可能です。最近ではサードパーティーCookieを標準でブロックするブラウザが増えてきています。そのため、正確な値が取得しづらくなっているので効果検証には注意が必要です。

サードパーティーCookieは、リクエストを送ったサーバーではないサーバー(第三者=サードパーティー)から送られたCookieで、第三者の広告配信やデータ収集を目的としています。主にターゲティング広告に使用されるサードパーティーCookieですが、2020年1月にGoogleがChromeでのサードパーティーCookieのサポートを2年以内に終了すると発表し <https://blog.chromium.org/2020/01/building-more-private-web-path-towards.html>、大きな話題になりました。今後、サードパーティーCookieを使ったサービスは使えなくなる予定です。そのため、Googleが目指すユーザーのプライバシーを守りながら最適な広告を表示する「プライバシーサンドボックス(後述)」の実現に向けた動きが生まれています。

表:Cookieの種類

Cookieの種類

説明

ファーストパーティーCookie

ユーザーが閲覧リクエストを送ったドメインから直接発行されるCookie。発行元ドメイン以外からはCookieの情報を参照できない。サイト(ドメイン)ごとに発行されるため、ドメインをまたがっての付与もできない

イーコマースサイトが自社サイトのログイン状態やカートの状態を保持するために発行する

サードパーティーCookie

ユーザーが閲覧リクエストを送ったページとは異なるドメイン(第三者)から発行されるCookie。サイト(ドメイン)に依存しないので、サイトをまたがってCookieを付与できる

広告配信サービス、アクセス解析ツール、広告効果測定ツールなど

Cookieの注意点とローカルストレージ

HTML5で導入されたウェブストレージの1つで、ローカルストレージCookieに代わる手法として注目されてきています。ローカルストレージは、ブラウザに一時的にデータを保存できる点はCookieと似ていますが、Cookieに比べて保存容量が大きいことやセッションの扱いに優れている点が特徴です。なお、古いブラウザは対応してないことがあること、ITP2.3ではCookieとは期間の違いがあるものの、データ保存期間に限りがあることは注意してください。

表:ローカルストレージCookie

ローカルストレージ

Cookie

容量

大(5Mバイト)

小(4,096バイト)

有効期限

×(なし)

〇(あり)

サーバーへのデータ送信

×(なし)

〇(リクエスト送信時に自動的にCookieの内容が送信される)

対応ブラウザ

最新のブラウザは対応済み

主なブラウザは対応済み

ITPによるCookieの制限

ITP(Intelligent Tracking Prevention)」は、AppleによってiOSやmacOSのSafariに実装された、ユーザー行動のトラッキングの防止によってユーザーのプライバシーを保護するための機能です。

ウェブサイトがブラウザに発行したCookieについて、トラッキングを目的にしたCookieローカルストレージの保管期限を短縮、削除する機能です。

2019年9月にはITP2.3が発表されました。従来からサードパーティー Cookieは制限がありましたが、これにより、トラッキングコードのJavaScriptなどが発行したCookieは、ファーストパーティーCookieでも7日間を過ぎると自動的に削除されるようになりました。条件によっては、ローカルストレージも対象になります。

この制限により、ブラウザが長期間にわたってCookieを保持することが前提だったアクセス解析結果や広告効果測定の測定が正しくなくなっています。具体的には、リピーターであってもCookieがないために新規ユーザーになる、広告をクリックしたあと間接的なコンバージョンがあったはずなのに測定できないといった問題です。

なお、現状ではサーバーが発行したCookieは制限外になっているため、いくつかの広告効果測定ツールはDNSを切り替えたり、サーバーからCookieを発行することで問題を回避していますが、規制は強化される方向にあります。

フィンガープリントとプライバシーサンドボックス

Cookieの規制が厳しくなる中、広告やアクセス解析で個人特定をする新たな手法としてフィンガープリントという技術も生まれています。これは、ユーザーのブラウザから取得できるプラグインのバージョンや種類などをもとに個人を特定し、広告やマーケティングに活かす技術です。まったく同じ端末、OS、プラグインを入れている人は少ないことから、ある程度の個人が特定が可能です。ただし、この手法には重大な問題があり、何をもとにトラッキングされているかをユーザー本人がわからないため、自分ではトラッキングを拒否できません。

これと同様の問題が、ブラウザにインストールするプラグインの「Flash」に搭載されていたCookieに似た機能を悪用したトラッキング(LSO)でもありました。一般の人はFlashプラグインに特殊な設定をしなければトラッキングを拒否できませんでした <https://www.pcworld.com/article/174260/privacy_watch_flash_cookies.html>。

このように個人特定の規制は厳しくなっていますが、広告主が無駄な広告コストを削減するために、トラッキングの要望はなくなりません。その結果、フィンガープリントのように、個人がトラッキング可否を選択する権利を奪う技術が進化してしまいます。

Googleは、この問題を解決するため、プライバシーサンドボックス <https://developers-jp.googleblog.com/2019/10/blog-post.html>というプロジェクトを始めています。これにより、個人の属性や行動履歴をプールするものの、一定量になるまではトラッキングやセグメントに利用できないため、個人が特定されるようなリスクがなくなるようにするシステムです。

個人情報を不当に利用されることは防ぐべきです。一方で、トラッキング技術を排除すると、広告を選ぶこともできなくなるだけではなく、個人の意思を尊重しないシステムが普及してしまいます。

個人の意思を尊重しつつ、希望者にターゲティングすることが、これから求められるでしょう。

1-3-3. ブラウザの役割と種類

ブラウザBrowser)とはウェブサイトを見る(Browse)ためのソフトウェアです。

ブラウザの仕組みと注意点

ウェブサイトは、HTML(HyperText Markup Language)と呼ばれる言語で記述されています。そして、そこにCSS(Cascading Style Sheets)でデザインやレイアウトを定義することが一般的です。また、JavaScript(JSとも略される)というプログラム言語が使われてることもよくあります。JavaScriptはブラウザ上でさまざまな挙動をリアルタイムに動かします。

ブラウザは、これらのファイルを読み込んでユーザーにわかりやすく表示してくれます。このことを「レンダリング」と呼びます。このレンダリング用のソフトウェア部品である「レンダリングエンジン」は、Google ChromeやMicrosoft Edgeで使われる「Blink」 <https://chromium.googlesource.com/chromium/blink>、その元になった「WebKit」 <https://webkit.org/>、Mozilla Firefoxで使われる「Gecko」 <https://developer.mozilla.org/ja/docs/Mozilla/Gecko>があります。どちらもオープンソースソフトウェア(OSS)です。

「オープンソースソフトウェア(OSS)」とは

ソースコードが公開され、改変や再配布が自由に認められているソフトウェアのこと

ブラウザは、HTMLやCSSのファイルや画像などを読み込み、ブラウザで表示するための準備をします。例えば、HTMLであれば「header要素」(見出し)に記述さている内容を読み込んでから「body要素」(本文)に書かれている内容を読み込みます。この作業は、DOM(Document Object Model) <https://developer.mozilla.org/ja/docs/Web/API/Document_Object_Model/Introduction>を利用して行います。

この読み込みから表示時間までが遅いと、ユーザーはウェブページを見るために長時間待つことになります。また、広告効果測定やアクセス解析などは主にJavaScriptを利用したトラッキングコードで行うため、HTMLのどの場所に書くか(HeaderやBodyなど)位置の指定を守る必要があります。また、このようなトラッキングコードが表示速度を遅らせてしまうこともあります。

注意すべきブラウザの新しい傾向の種類

さまざまなブラウザがありますが、ここではウェブ解析において気をつけておくべき傾向とブラウザのみ紹介します。

なお、中国ではOS はWindowsが中心でブラウザはGoogle Chrome がトップシェアです。

Google Chrome

Googleが提供するブラウザで、Androidのスマホでは標準装備されているものもあります。Googleのサービス(Gsuite)などと連携するときに便利に利用できます。Google OptimizeなどはこのブラウザのAdd-on利用が前提となります。

Microsoft Edge

Microsoftが提供する最新のブラウザです。Internet Explorerの欠点を補ったため、セキュリティの問題も解消され、速度も向上し、操作方法もChromeに似ていて使いやすくなっています。2020年にChromeと同じベース(Chronium)に切り替わりました。

Internet Explorer

Microsoftが提供しているブラウザで、現在はバージョン11です。IE10まではサポートも終了しているため、利用しないほうがいいでしょう。ただし、一部の日本の金融機関やシステムでは未だIE10以下しか動かないウェブサイトがあるため、利用しているユーザーもいます。

Safari

MacとiPhoneの標準ブラウザです。Macは他のブラウザに変える方も多いですが、多くのiPhoneユーザーは引き続きつかっています。個人情報保護の機能が豊富で、アドブロッカー(広告の表示を消す機能)が標準で備わっています。ITP3.2に対応しブラウザの発行したCookieを7日で削除するようになりました。

Brave

シェアはまだ低いですが、新しいコンセプトのブラウザです。Torを採用し個人のアクセスを暗号化して、広告やアクセス解析をブロックします。Brave独自の基準での個人情報を流用しない広告を配信し、広告のクリックに応じてユーザーに報酬を暗号通貨で提供したり、Brave Rewardsを通じて支援をすることができます。

Chromeと同じエンジンを利用しているため、Chromeユーザーは容易に移行できます。

アクセス解析でも広告効果測定ツールでもこのブラウザでのユーザーの行動は収集できません(2020年8月現在)

1-3-4. IPv6の最新事情

IPv4IPv6におけるジオロケーション情報の差異について、説明します。

IPv6アドレスについて

インターネット上の住所といわれるIPアドレスには、IPv4アドレスとIPv6アドレスがあります。インターネットの普及により、IPv4アドレスでは足りなくなることが想定され、後継として考えられたものがIPv6アドレスです。それぞれの数は、IPv4が2の32乗個、IPv6が3.4×10の38乗個となり、IPv6であれば、世界の人口(77億人:2019年)と比較しても十分に余裕があることがわかります。

「3.4×10の38乗個」とは

約340澗個のこと。1澗は、1兆×1兆×1兆となる

足りないならすぐに移行すればよいと思われますが、IPv6は後継とはいうものの、IPv4とは互換性がなく、単純に置き換えることはできないのです。場合によっては、ハードウェアのリプレースも必要になってきます。なぜ、互換性がないのかというと、世界中の人々が話し合って、IPv4の問題を改良しながら、IPv6の仕様を作り上げたためです。背景を話すと話は尽きないので、ここでは割愛します。

ユーザーPCのIPv6アドレスの普及状況

インターネットプロバイダ(ISP)においては、IPv4とIPv6の互換性がない中で移行を進めるにあたり、現行のIPv4の環境にIPv6も利用できる環境を追加する「デュアルスタック」と呼ばれる方法が主にとられており、IPv4とIPv6の両方でアクセスができるようになってきています。両方での通信が可能である場合、IPv6を用いた通信を優先するような仕組みです。他にもIPv4とIPv6の共存技術はありますが、ここでは割愛します。

GooleやFacebookは自社のサービスがIPv6アドレスでアクセスされている割合を公開しており、2020年7月時点でGoogleの統計では34.16% <https://www.google.com/intl/ja/ipv6/statistics.html#tab=per-country-ipv6-adoption>、Facebookの統計では40.89% <https://www.facebook.com/ipv6/?tab=ipv6_country>となっています。ちなみにGeolocation Technologyの「IPひろば」 <https://www.iphiroba.jp/>でウェブビーコンを用いて、IPv6アクセスがどの程度あるかを確認したところ、25.87%でした。これより、日本国内では、およそ30~40%程度のユーザーがIPv6でアクセスできる環境が整っているとみてよいと考えられます(自身の環境がIPv6による通信が可能であるかは、「https://test-ipv6.com/index.html.ja_JP」で確認できる)。

ウェブサーバーのIPv6の普及状況

IPv6で通信を行うには、ユーザーのPCからコンテンツが配信されるウェブサーバーまでの経路すべてでIPv6への対応が完了している必要があります。具体的には、ユーザーPCのOS、家庭に設置しているルータなどの設定、ISPのインフラ、アクセス先のウェブサーバーとそのネットワークやOSなどが挙げられます。OSについては、現在サポートされているほとんどのOSはIPv6に対応しているので問題ありません。ルータなどのネットワーク機器についても同様です。

問題は、ウェブサーバーです。ウェブを運営するコンテンツ事業者側から見てみると、現状のIPv4だけですべてのユーザーにリーチできているので、追加でIPv6に対応する場合、その管理運用コストしか発生しないという状況です。この状況がここ数年ずっと続いており、IPv6の普及を阻んでいるわけです。実際に、日本の主なサイトがIPv6対応できているかを公開しているサイト「IPv6 Deployment Status」 <https://www.vyncke.org/ipv6status/detailed.php?country=jp>によると、国内のTOP100のサイトのうち、IPv6に対応しているのは11サイトしかありません。こういった状況から、IPv6アドレスはこのまま普及しないのではと揶揄されることもあります。

コンテンツ事業者側には、メリットがないということだけではなく、ウェブ解析に有用なジオロケーション情報がIPv4と比べて十分ではなく、移行することで同等の情報の取得や利用ができなくなるというデメリットもあると考えられています。

ジオロケーション情報について

「ジオロケーション情報」とは、ユーザーの位置情報を識別する技術のことで、GPSやIPアドレス、Wi-Fiの電波強度などから取得できます。ここでは、IPアドレスからジオロケーション情報を取得するIP Geolocationについて説明します。IP Gelocationは、GPSの位置情報に比べると正確さはないものの、端末側の操作の必要がないことや、位置以外のIPアドレスに紐付いた組織や回線情報といった多様なデータを取得できることが特徴です。最近では、Google Analyticsでネットワークドメインが取得できなくなったことの代替技術にもなり、さらに注目されています。

IPv4とIPv6のジオロケーション情報の差異

IP Geolocationは、IPアドレスの登録状況やインターネット上での使用状況を調査、分析、統計をすることで地域情報、組織情報、接続回線(光回線、ケーブルテレビ、モバイル回線など)の属性を定めています。そのため、普及度が高くなければ、属性の特定が難しい面もあります。こういった事情により、IPv4アドレスとIPv6アドレスでは、取得できる属性の種類は同じものでも、その質が異なります。

地域情報については、国レベルであれば同等、都道府県以下ではIPv6は同じ水準とはいえない状況です。IPアドレスはインターネット全体で共有する資源のため、利用するエリアは管理されています。その管理の単位はおおよそ国であり、IP Geolocationでの国判別はその管理情報をもとに定められるため、IPv4とIPv6の両方で同等の情報が取得できます。国以下の都道府県、市区町村については、国内ISPそれぞれのIPアドレス管理事情とインターネット上で利用されているIPアドレスを調査、分析、統計することにより定められています。そのため、流量の違うIPv4とIPv6では、IPv6IP Geolocation情報が劣っているというのが現状です。回線の情報も地域情報と同様の理由で、現状ではIPv6のほうが劣っています。

組織情報については、IPアドレスやドメインの所有者を検索できる「whois」というサービスをもとに定められることが多いので、whoisに登録されている量が大きく影響します。国内のwhois情報登録数は、2020年7月現在でIPv4の登録数は60,035件、IPv6での登録数は1,698件と大きく隔たりがあります。このことより、組織については、IPv6の導入はまだまだ進んでいないと考えられます。IP Geolocationベンダーそれぞれに独自の調査を行なっているので、この数がそのまま反映されるわけではないですが、組織導入していないのであれば判定できるはずもないので、組織情報についてもIPv6が劣っているという状況です。

インターネットに変わるものが出てこない限り、IPv4アドレス不足の問題は続くため、IPv6への移行は間違いなく必要です。移行がなかなか進まない状況が続いていますが、インターネット上では新しい技術の登場により、一気に普及が進むこともよく起こるため、そのときになって焦ることのないように、状況に引き続き注目していきましょう。

1-4 ウェブ解析に使われる4つの視点

ここでは、ウェブ解析で使うデータの絞り込み、データの項目、指標の定義と使い方を紹介します。

1-4-1. 解析に必要な4つの視点

多くのアクセス解析ツールでは、集計や絞り込みができるようになっています。そのために使われる4つの視点が、「ディメンション」「メトリクス」「フィルタ」「セグメント」です。この視点は、アクセス解析にとどまらず、さまざまなウェブ解析ツールで使われています。

図:ウェブ解析の4つの視点

図:ウェブ解析の4つの視点

この4つの視点により、ほぼすべてのウェブ解析データが整理できます。

ディメンション

ディメンションは、データの項目です。日別やページ別、流入元別といった、データを集計するときの項目です。

Google アナリティクスで2つのディメンションを、「セカンダリディメンション」を追加できます。

また、「会員/非会員」といった独自の項目で解析するには、項目を作成して「カスタムディメンション」として扱うことができます。このように、「◯◯という項目ごとに◎◎という指標を見たい」という場合の「◯◯という項目」がディメンションです。

Adobe Analyticsでは、指標の内訳を表示する項目をディメンションと呼び、デフォルトで取得されている項目のほか、「コンバージョン変数(eVar)」や「トラフィック変数(prop)」もディメンションと呼ばれます。

メトリクス

メトリクスは、データの指標です。ページビュー数や直帰率、滞在時間といった数値や合計、平均や割合など、状況を判断したり評価したりするための指針となる項目です。

「◯◯という項目ごとに◎◎という指標を見たい」という場合の「◎◎という指標」がメトリクスです。ディメンションとセットで覚えておきましょう。

Googleアナリティクスでは、例えば「ポイント利用回数といった独自の値を解析したい」といった場合でも、独自に値を定めて「カスタムメトリクス」として扱えます。

Adobe Analyticsでは、デフォルトで取得設定されている指標のほか、コンバージョンとして設定されているeventsの設定や売上金額や売上個数といったものもメトリクスとして扱われます。また、計算式で新たな指標を作成した場合もメトリクスとして扱われます。

ディメンションメトリクスが混乱しやすい場合

ディメンションメトリクスのどちらにも似たような名称があり、紛らわしいものがあります。

例えば、Googleアナリティクスでは、「[ユーザー]→[行動]→[リピートの回数や間隔]」を見てみると、「セッション数」がディメンション(集計項目)、「セッション」がメトリクス(指標)として表示されています。

ここでの「セッション数」は、英語表記では「Count of Sessions」なので、セッションごとのデータです。このデータからは、一見(いちげん)さんかそうでないかでデータに差があることがわかります。迷ったときは「◯◯ごとに」「◯◯別に」と区分できる場合はディメンション、合計や平均に価値がある場合はメトリクスと考えると、判断しやすくなります。

セグメント

セグメントは、データとして記録されるユーザーの行動を、特定の条件で絞り込む機能です。以降で説明するフィルタとは異なり、絞り込んだ状態ごとに比較できるというメリットがあります。

Googleアナリティクスでは、セグメント条件を一度に適用させる場合を「条件(condition)」、「昨日Aページを見て、今日Bページを見た」というような行動の順番を含んだセグメントをかけるときを「シークエンス(sequence)」と呼びます。

Adobe Analyticsでは、さまざまなデータの比較にセグメントを利用することが可能です。その際には、メトリクスディメンション、時間軸などを取得しているほぼすべてのデータの利用が可能です。また、レポート全体、特定の指標やセグメントの組み合わせなどを無制限に設定が可能です。

フィルタ

フィルタは、特定の条件に合致するデータを含めたり、除外したりして集計するための機能です。

Googleアナリティクスでは、ビューやアカウントに設定する「フィルタ」と、表示データを簡易的に絞り込む「アドバンスフィルタ」があります。それぞれの機能は同じものではないため、注意が必要です。

一方で、表示データをその場で絞り込めるのが「アドバンスフィルタ」です。同じ「フィルタ」なので少し複雑ですが、まったく異なる機能です。「アドバンスフィルタ」は、表示しているデータを簡易的に絞り込むための機能です。

Adobe Analyticsでは、レポート表示の項目としてフィルタを行うことが可能です。そのほか、集計データ全体をさまざまな条件やセッションの設定を変更してフィルタリングし、別のレポートを作成する「バーチャルレポートスイート機能」も利用できます。

セグメントフィルタが混乱しやすい場合

Google アナリティクスのアドバンスフィルタは、その画面のみで有効ですが、セグメントは絞り込みを保ったまま、ほかの画面にも移動できるというメリットがあります。

また、同じようにデータを絞り込んでも、異なる結果になる場合があります。次に示したのは、Googleアナリティクスで「[集客]→[すべてのトラフィック]→[チャネル]」のデータを、それぞれの方法で「Organic Search」(検索流入)に絞り込んだ場合の画面です。

1. データを簡易的に絞り込めるフィルタの場合

ディメンションの「デフォルトチャンネルグループ」を「Organic Search」を含むデータのみに絞り込んだものです。セッションの合計は43,486件となっています。

図:フィルタで簡易的に絞り込む

図:フィルタで簡易的に絞り込む
2. セッション単位で絞り込んだカスタムセグメントの場合

セッション単位で「Organic Search」を含むという条件を作りました。

図:カスタムセグメントにてセッション単位で絞り込む(設定)

図:カスタムセグメントにてセッション単位で絞り込む(設定)

その結果、1.のフィルタと同じデータを取得できました。セッションの合計は43,486件です。

図:カスタムセグメントにてセッション単位で絞り込む(結果)

図:カスタムセグメントにてセッション単位で絞り込む(結果)
3. ユーザー単位で絞り込んだカスタムセグメントの場合

ユーザー単位で「Organic Search」を含むという条件を作ると、検索エンジンで訪問したことのあるユーザーでセグメントを行ってるため、その前後で他のチャネルで訪問したユーザーも対象となります。

図:カスタムセグメントにてユーザー単位で絞り込む(設定)

図:カスタムセグメントにてユーザー単位で絞り込む(設定)

「Organic Search」で絞り込んでいるにもかかわらず、ほかのチャネルも表示され、セッション数の合計も46,156件となっています。しかし、「Organic Search」の列だけを見れば、1.および2.の方法で得られたデータと変わっていません。

図:カスタムセグメントにてユーザー単位で絞り込む(結果)

図:カスタムセグメントにてユーザー単位で絞り込む(結果)

セッション単位ではウェブ解析で表示されたデータを絞り込んでいるのに対し、ユーザー単位ではユーザーの行動から絞り込んでいるため、同じユーザーのほかのチャネルからの訪問も集計対象とされます。

Adobe Analyticsでは、表示したレポートのデータに対して、細かい項目の除外や絞り込みにフィルタを利用して、表示するレポート全体の条件の絞り込みなどはセグメントを利用することが推奨されています。例えば、ページごとのトラフィックレポートを表示した場合には、「ページ名に特定の文字が含まれる(セクション名など)」はフィルタ機能を利用し、「特定のドメインからの流入のみにする」といった表示しているデータに含まれない内容も含めたい場合はセグメントを利用します。

1-4-2. オウンドメディアに関する指標

オウンドメディアの指標 <https://www.waca.associates/jp/column/31322/>は、主にアクセス解析ツールを使って調べます。

ページビュー数

ページをビュー(=眺める、見る)した数という言葉のとおり、ページの閲覧(ページビュー)をカウントした値を指します。「PV」とも呼ばれます。

最もシンプルなカウント方法で、解析ツールの種類や閲覧環境の影響を比較的受けにくいため、測定方法・計算方法などによるズレが最も少ない指標です。ページビュー数はページのボリュームにも比例するため、ページが多いポータルサイトなどは、必然的にページビュー数が多くなります。

そういった背景から、ページビュー数はサイトの規模を示す指標として用いられます。例えば、大手ポータルサイトでは月間ページビュー数が数十億~数百億にもなります。広告を出稿する際、媒体(広告を掲載するページやサイト)の集客力を表す指標としても活用されます。

セッション

セッション」は、ウェブサイトにアクセスしたユーザーが、サイト内を閲覧しはじめ、離脱するまでの一連の行動を指します。セッション数はその数をカウントしたもので、「訪問数」「ビジット数」「訪問回数」とも呼ばれます。

セッション数は、実際の行動とウェブサイトにおける計測が一致しないことが多い点に注意が必要です。例えば、一定時間(ほとんどのツールにおいては30分間)ウェブサーバーにリクエストがないと、セッションが終了したと判断されます。この「一定時間」はツールによって変更することができます。また、日をまたいでの行動も別のセッションとして計測されることもあるため、ツールのセッション保持条件は必ず確認しなければなりません。

多くのツールでは、ページごとのセッション数は最初に見たページにカウントされます。したがって、閲覧開始数とセッション数は原則として同じ値になります(閲覧開始数は、そのセッションの最初に見た数。イベントなどの特殊な設定でセッションを別ページに与えると、ページごとのセッション数と閲覧開始数は同じになる <https://developers.google.com/analytics/devguides/collection/protocol/v1/parameters#content>)。

新規セッション率

セッション数のうち、初めて訪問したユーザーのセッション数の割合を指します。計測期間以前に訪問したユーザーによるセッションは、リピーターのセッションと判断されるため、新規セッション率は測定する期間によって変わります。

新規セッション率(%)=新規ユーザーのセッション数÷全セッション数×100

ユニークページビュー数

同一セッション内で同一ページを複数回見ても、重複してカウントしないページビュー数を指します。「ページ別セッション数」「ページ別訪問数」とも呼ばれます。

例えば、同一セッションで「ページA→ページB→ページA」と見た(遷移した)場合、ページAのページビュー数は2ですが、ユニークページビュー数は1です。

セッション数はサイト全体の合計と合わせるため、一般には最初に見たページにセッション数を記録しますが、ユニークページビュー数はページを閲覧するごとに記録されるので、セッション数よりも多くなります。

図:ユニークページビュー数のカウント方法

図:ユニークページビュー数のカウント方法

ユーザー数

一定期間にウェブサイトを訪れたユーザーの数です。「訪問者数」「ビジター数」「ユニークユーザー数」とも呼ばれます。ユーザーの判別方法は、解析ツールによって異なります。

あるユーザーがある期間のうちに2回サイトに訪問した場合、セッション数は2ですが、ユーザー数は1となります。つまり、[図:セッション数とユーザー数の考え方]でいえば、ページビュー数は6、セッション数は2、ユーザー数は1となります。

図:セッション数とユーザー数の考え方

図:セッション数とユーザー数の考え方

新規ユーザー率・リピーター率

新規ユーザー率」は全ユーザーに占める新規ユーザー(New Visitor)の割合を指し、「リピーター率」は全ユーザーに占める再訪問によるユーザー(Returning Visitor:リピートユーザーのこと)の割合を指します。原則として、新規ユーザー率リピーター率を合わせると100%になります。

新規ユーザー率リピーター率は、解析ツールによって判断が異なるので注意が必要です。また、ネットショップ支援サービスなどでも、アクセス解析ツールとは異なる方法で新規購入者とリピート購入者の情報を取得していることがあります。同じ「新規」「リピート」という言葉を使っていてもツールやサービスによって意味が異なるので、混同に注意し、仕様を確認するようにしましょう。

直帰数・直帰率

「直帰」は、サイトの入口となった1つのページ(ランディングページ)だけを見て、ほかのページへ移動せずにサイトから離脱(ウェブブラウザを閉じる、または、ほかのサイトに移動)した行動を指します。英語では「Bounce」(はずむ、バウンドする)といわれるように、「1ページだけを見て跳ね返った」という状態です。直帰数はそのセッション数で、直帰率はその割合です。

「ランディングページ」とは

ランディング(Landing)は着地の意味。「入口ページ」「LP」ともいう

図:直帰率の考え方

図:直帰率の考え方

サイト全体の直帰率は、全体のセッション数のうち、直帰した数の割合で求められます。

サイト全体の直帰率(%)=直帰数÷セッション数×100

ページごとの直帰率は、該当ページがランディングページだった場合のセッション数(閲覧開始数)のうち、そのページで直帰した数の割合で求められます。該当ページの閲覧が含まれるセッション数ではない点に注意してください。

ページごとの直帰率(%)=そのページで直帰した数÷閲覧開始セッション数×100

少なくとも1ページを見て離脱するため、その場合のセッションは、セッション数1、ページビュー数1となります。

Google Analyticsでは、イベント(7-2「 インタラクション解析」参照)が発生したページは直帰に含めない設定になっています。Adobe Analyticsでは直帰を「Single Page Visit」のように細かく分けています <https://helpx.adobe.com/analytics/kb/comparing-bounces-and-single-access.html>

離脱数・離脱率

「離脱」は、ウェブサイト外への移動やウェブブラウザを閉じるなど、サイトを離脱する行動やセッションが切れる行動を指します。直帰は離脱に含まれます。

一般に、離脱数はページごとに判断し、該当ページを最後に離脱したページビュー数を指します。離脱率は、該当ページにおけるページビュー数と離脱数の割合です。ページビュー数単位で計算することに注意してください。

離脱率(%)=離脱したページビュー数÷ページビュー数×100

離脱率の高いページが、最終的に到達するページ(資料請求完了ページなど)ならば問題ないと考えられますが、本来離脱してほしくないページの離脱率が高い場合、サイト内の導線を見直し、改善する必要があります。

例えば、ページAについてユーザー数が10、セッション数が15、ページビュー数が20、離脱数が18であった場合、ページAの離脱率は90%となります。離脱率はページビュー数単位で計算することに注意してください。離脱率の計算にセッション数を使うと、1回の訪問で何度も離脱した場合、離脱率が100%を超えてしまうこともあるためです。

図:直帰と離脱の違い

図:直帰と離脱の違い

平均ページ滞在時間・平均セッション時間

「滞在時間」は、計測対象(ページやウェブサイトなど)をユーザーがどのくらいの時間見ていたかを指します。

滞在時間には「平均ページ滞在時間」と「平均セッション時間」があります。「平均ページ滞在時間」は、該当ページに滞在した時間の平均を指し、英語では「Avg. Time on Page」と表現されます。「平均セッション時間」は、サイト内に滞在したセッション時間の平均を指し、英語では「Avg. Session Duration」と表現され、「平均サイト滞在時間」とも呼ばれます。

ページ/セッション

1回の訪問(セッション)あたりのページビュー数を指し、「ページ・パー・セッション」と読みます。一般に、ウェブサイトに訪れたユーザーの興味関心度合いを表す指標として使われ、「訪問別ページ数」「平均ページビュー数」とも呼ばれます。

ページ/セッションページビュー数÷セッション

例えば、Aさんがサイトを訪問し、4ページ閲覧した場合、ページビュー数は4です。さらに、Bさんがサイトを訪問し、6ページ閲覧した場合、このサイトのページ/セッションは5になります。

図:ページ/セッションの計算方法

図:ページ/セッションの計算方法

コンバージョン数

コンバージョン」とは「転換」を意味する言葉ですが、ウェブ解析ではウェブサイト運営の目的(例えば、商品の販売や見込み客の獲得など)を達成することや、ユーザーが行う特定のアクション(例えば、商品の注文や資料請求など)を指します。その数がコンバージョン数です。

コンバージョンはウェブサイトの目的によって異なるので、ユーザーのどんなアクションが目的を達成したといえるのか、あらかじめ定義しておく必要があります。

コンバージョン率

コンバージョン率は、ウェブサイト全体のセッション数のうち、コンバージョンを達成した数の割合を指します。Conversion Rateを略して「CVR」ともいいます。

ウェブサイトに100件の訪問があり、そのうち10件がコンバージョンした場合、コンバージョン率は10%です。コンバージョン率は、一般には次の計算式で算出できます。

コンバージョン率(%)=コンバージョン数÷セッション数×100

ただし、コンバージョン率の定義は、ウェブサイトの目的や利用するソリューションによっても異なります。イーコマースでは、通常はユーザー(購買者)を分母にします。メディアでは、その目的によってページビュー数ユニークページビュー数を使うことがあります。デジタルマーケティングや広告では、コンバージョン率セッションで測定するため、特に説明がないときはセッションを使いますが、実務においては計算式を必ず確認してください。

ヒット数

現在では、ウェブページが1つのHTMLファイルだけで構成されていることは、ほとんどありません。ほぼすべてのページが、複数の画像やファイルの組み合わせで構成されています。ヒット数は、このようなページに関連するファイルも全部まとめて、ウェブ解析ツールにデータを送信している数です。

ロボットクローラーのアクセスもカウントしている場合があります。また、アクセス解析の設定によっては、Googleアナリティクスでリンクのクリックなどを測定している場合は、そのような数もカウントします。

Googleアナリティクスなどのソリューションで、トラフィック量を調べる方法の1つがヒット数です。ほかの指標と違ってヒット数はデータの処理量に比例するため、サーバー負荷と連動しやすいからです。Googleアナリティクスでは、プロパティの設定画面で確認できます。なお、Googleアナリティクスでは、無料で使えるヒット数に上限があります。

1-4-3. ペイドメディアに関する指標

インターネット広告効果に関する指標を紹介します。

図:広告の指標

図:広告の指標

インプレッション数

広告効果測定において、インターネット広告が表示された回数を表します。「imp」「imps」「表示回数」とも呼ばれます。

一般に、ページビューと同じく、表示した回数で数えます。広告が1ページに複数あればインプレッションは広告の数だけカウントし、1つの掲載エリアで2種類の広告を掲載している場合は、ページビューよりも多くなります。

リーチ数

広告を表示したユーザーの数を指します。計測はユニークユーザー単位となります。

クリック数

バナーやリンクをクリックした数を指します。一般的には、セッション単位でカウントします。

広告費用

広告にかかった費用を指します。広告媒体や広告種類によって期間やインプレッションやクリックなど、課金方法が異なります。インターネット広告では、インプレッション課金やクリック課金が一般的です。

CPM

CPMCost Per MCost Per Milleは広告掲載料金の単位の1つで、インプレッション1,000回あたりの料金を表します。インプレッション単価、imp単価ともいいます。

この「M」は、ローマ数字で1,000を意味する「M」、あるいはその由来となったラテン語で1,000を意味する「mille」から来ています。

CPM(円)=(広告掲載費用÷インプレッション数)×1,000

クリック率CTR

ウェブページ上に広告が表示された回数のうち、広告がクリックされた回数の割合のことです。「CTRClick Through Rate」と呼ばれます。

CTR(%) =広告がクリックされた回数÷広告が表示された回数×100
    =クリック数÷インプレッション数×100

広告では表示された回数として一般的にインプレッション数を用いいます。ただし、メディアモデルではリーチ数を用います。特に指定がない場合は、表示された回数はインプレッション数を用いますが、実務においては計算式を必ず確認してください。

クリック単価CPC

広告の表示によって得られるユーザーのクリック1回あたりのコストを示す指標です。「CPCCost Per Click」と呼ばれます。

CPC(円)=広告掲載費用÷クリック数

主に広告掲載後の効果測定時の指標で、クリック単価はサイト訪問者獲得単価と考えることもできます。リスティング(検索連動型)広告や一部のディスプレイ広告は、最初からクリック単価で買い付けができることから、「PPC(Pay Per Click)広告」とも呼ばれます。

顧客獲得単価CPA

コンバージョンなど商品購入や会員登録などの利益につながる成果を1件獲得するのに費やすコストのことです。CPACost Per AcquisitionCost Per Actionと呼ばれます。

CPAは、顧客獲得のために何らかの施策を行った際、その施策にかかったコストを、獲得できた成果件数で割ることで算出できます。例えば、月間50万円のコストをかけてディスプレイ広告を出稿し、そのディスプレイ広告から100件の商品購入を獲得できた場合には、CPAは5,000円となります。

CPA(円)=広告掲載費用÷コンバージョン数

どのくらい効率よくクリックを獲得できているかは、CPCで比較して見極めることが可能です。しかし、多くのインターネットビジネスでは、「クリック」=「利益」ではありません。

表:連動型広告の指標

キーワードA

キーワードB

キーワード

「ケーキ スイーツ」

「洋菓子 スイーツ」

総費用(広告費)

¥500,000

300,000

クリック数

100,000

60,000

申し込み獲得件数

1,000

300

売上

250,000

600,000

例えば、2種類のキーワードで検索連動型広告を利用し、結果が[表:連動型広告の指標]のようになったとします。CPC値はキーワードA・キーワードBともに5円ですが、CPA値はキーワードAが500円、キーワードBが1,000円となっています。つまり、クリック単価は同じでも、申し込みに結び付くクリックをより効率よく獲得できていたのは、キーワードAということになります。

このように、CPAを見ることで、各施策の費用対効果がわかります。より低コストでサイトの目的を達成するための施策を決定する上で非常に参考になる指標です。

ROAS

ROAS(Return On Advertising Spend)とは、広告の費用対効果を表す指標の1つで、広告費用に対して得られた売上金額の割合を意味します。売上金額を出稿した広告費用で割ることで算出できます。

「広告出稿によって、どのくらい売上が伸びたのか」を示すことができ、ROASが100%以下であれば、その広告キャンペーンにかけた広告費用売上よりも高かったことを意味します。単一の商品・サービスだけを扱っている場合は、数式上は商品・サービス単価をCPACost Per Acquisition)で割ることでROASを算出できます。100%に満たない場合は売上広告費用を下回っていることになります。

ROAS(%)=売上÷広告費×100

例えば、先に挙げたサンプルの場合、ROASはキーワードAが50%、キーワードBが200%となります。つまり、キーワードAは広告コストの半分しか売上が得られていませんが、キーワードBは広告費用の倍の売上を獲得しているということを示しています。

ROASを見ることで、各施策における広告の費用に対する売上の貢献度がわかります。より低コストで収益に貢献する施策を決定するために、参考になる指標です。

ROI

ROIReturn On Investmentとは投資利益率の略称で、企業が広告などに投下したコスト(投資)に対して、得られる効果(利益)の割合を指します。

広告効果測定の分野では、特に広告に費やしたコスト(費用)が実際にどのくらいの効果(利益)につながったのかを計測する際の効果指標として使われます。

ROIは、次の計算式で求められます。

ROI(%)=利益÷費用×100
    =(売上—費用)÷費用×100

費用が利益を上回る場合、ROIはマイナスになります。

例えば先のサンプルの場合、ROIはキーワードAが-50%、キーワードBが100%となります。キーワードAは投資に対して損失がありますが、キーワードBは投資した金額と同じ金額の利益を上げていることになります。

ROIを見ることで、各施策における広告の投資に対する利益の貢献度がわかります。より利益に貢献する施策を決定する上で参考になる指標です。

ROIROASの活用方法

広告の費用対効果を示す指標として、ROIを使うこともできます。ROAS広告費用に対する売上高を示しているのに対して、ROI広告費用に対する利益を示しているという違いがあります。ROASが100%を超えていても、ROIがマイナスの場合、その広告キャンペーンは増益には寄与しなかったと判断できます。

なお、ROIの「Investment」は定義によって変わります。広告効果測定では「投資=広告費用」とすることが一般的ですが、財務では「投資」には原価や人件費を含むこともあります。投資の定義が不明確であるため、広告効果測定ではROASCPAを使うことが一般的です。

1-4-4. ソーシャルメディアに関する指標

ソーシャルメディアに関する指標を紹介します。これらは、ソーシャルメディアのアカウントの管理画面やサードパーティーが提供するソリューションを使って測定します。

リーチ数

広告のリーチ数と同様で、ソーシャルメディアの記事やアカウントを見た人の数です。

クリック数

ソーシャルメディアの記事やアカウントで紹介したリンクや広告をクリックした数です。

いいね!数

ソーシャルメディアの記事やアカウントやウェブサイトにある「いいね!」ボタンやリンクをクリックした数です。

「いいね!」を押した人は、そのアカウントの記事が表示されやすくなります。「いいね!」ボタンにいくつかの種類がある場合は、「いいね!」以外(「超いいね!」など)のボタンを押したほうが、その効果は高くなります。

シェア数

ソーシャルメディアの記事やアカウントやウェブサイトにあるシェアボタンを使って、その内容を自身のタイムラインなどで紹介した数です。シェアしたユーザーのタイムラインでのリーチ数いいね!数などもカウントされます。

エンゲージメント数

いいね!やクリックなど、ソーシャルメディア上でユーザーが反応した(「アクション」ともいう)数を総じて「エンゲージメント数」といいます。以前はソーシャルメディアのいいね!数のみを表す指標でしたが、計上する範囲が拡大しました。

エンゲージメント率

エンゲージメント率は、リーチ数のうち何らかのアクションにつながった数が占める割合です。エンゲージメント率の算出式は、各ソーシャルメディアや効果測定ツールで異なるので、必ず確認するようにしてください。

1-4-5. モバイルアプリに関する指標

モバイルアプリや、サブスクリプション(定額課金)のサービスなどアクティブユーザーを基準に解析するときに使う指標を紹介します。デジタル化戦略の「アクティブユーザーモデル」で使われる指標です(第3章で詳しく説明する)。

DAU・WAU・MAU

「DAU」は「Daily Active Users」の略で、1日の間にそのサービスを利用した人数を指します。

アプリでは、アクセス解析でよく使う「セッション」という概念はあまり用いられず、ユーザー単位での集計や分析を行います。

1週間のアクティブユーザーを「WAU(Weekly Active Users)」、月間のアクティブユーザーを「MAU(Monthly Active Users)」といい、こちらも分析でよく使われます。

近い定義として「ユニークブラウザ」という単位もあり、DUB(Daily Unique Browsers)やMUB(Monthly Active Browsers)も使われます。短期的な成長を見る場合はDAUやWAU、中長期的な成長を見る場合はMAUを重視します。

なお、1週間分のDAUを合計しても、重複したユーザーをカウントしているため、WAUよりも多くなります。同様に、1カ月分を足してもMAUよりも多くなり、正しい数字にならないことに注意してください。

課金率・新規課金率

ウェブサイトのコンバージョン率セッションで計算されるのに対して、課金率は人数(アクティブユーザー)が単位になります。

課金率で使うアクティブユーザー数は、日単位のDAU、月単位のMAU、それに加えてイベント単位で計上します。

ゲームアプリの課金率は、月初とイベント時が上がりやすい傾向があります。月初に課金率が上がるのは、ゲーム会社側で月に使える金額がリセットされることや、クレジットカードの上限がリセットされることなどが理由のようです。

ゲーム会社が設けている月の上限額に達成すると、ほしいアイテムやキャラクターがもらえるといったことによるコンコルド効果(次は出るに違いないという心理状態)を使い、上限いっぱいまで課金してもらうという施策を入れているゲームもあります。

イベントとは、ある決まった期間内で協力したり競ったりポイントを稼ぎ、そのポイントによって報酬をもらうという仕組みです。特にイベント初日は課金率が上がる傾向にあり、最初にアイテムを購入して頑張ろうと思う人が多いためです。イベント内で手に入るアイテムが「大勢の人がほしいもの」であれば課金率が上がります。

課金率(%)=課金人数÷アクティブユーザー数×100

課金率を改善する際に考えるべきポイントは、「1人のユーザーにたくさんのお金を使ってもらう」ということではなく、「たくさんの人に小額でもお金を使ってもらう」ことです。単純に課金率だけを考えれば、既存の課金ユーザーに対して施策を打つことが有効なのですが、DAUの向上を考えると「いかに初めてお金をつかってもらうか」という「新規課金率」が重要になってきます。新規課金率は、次の計算式で求められます。

新規課金率(%)=新規課金人数÷課金人数×100

実は、課金に関して最も難しいのは「初めて支払いをしてもらう」ことです。一度でも課金をした場合、そのあとも継続利用したり、支払いを続けたりする傾向があります。その仕組みをどのように作っていくかを考えることが課金型アプリでは重要なポイントになります。

また、新しくゲームを始めると「登録してから◯日はアイテムが50%OFF」などというメッセージをよく目にしますが、これも新規課金率を意識した施策です。

ARPUARPPU

ARPUは、課金ユーザーと非課金ユーザーを合わせた全アクティブユーザーの平均購入額で、 ARPPUは、課金ユーザー1人あたりの平均購入額です。

ARPUAverage Revenue Per Userエーアールピーユーアープ)と呼び、ARPPU(Average Revenue Per Paid Userエーアールピーピーユーアープ)と呼びます。発音が一緒になることがあるので注意が必要です。

ARPU(円)=収益÷全ユーザー数
ARPPU(円)=収益÷課金ユーザー数

1日の売上は、次の式から算出できます。

1日の売上(円)=DAU×ARPU

同様にして、月間の売上は、次のような式となります。

月間売上(円)=MAU×ARPU

月間の売上ARPPUで表すと次の式になります。

都度課金型の売上(円)=MAU×課金率×ARPPU

ARPPUARPUの関係を確認することで、サービスの特徴や改善方法を考えていきます。

継続率・チャーン率

継続率は、サービスを続けて利用してくれるユーザーの割合です。先週のユーザー数と今週のユーザーから継続率を表すなら次の式になります。

今週の継続率(%)=今週のユーザー数÷先週のユーザー数×100

例えば、100人が1月1日に来て、1月8日にそのうちの30人が戻ってくると「7日後継続率」は30%です。8日ではなく1月6日に戻ってきた場合は継続率にはカウントしません。また、1月8日に再度訪問しても戻ってきただけでは7日後継続率にはカウントせず、あくまでも「その日に使った人」をカウントします。そのため、DAU・WAU・MAUと同様に、翌日継続率、翌週継続率、翌月継続率など、さまざまな単位で利用される指標です。

継続率には「新規継続率」と「既存継続率」の2種類がありますが、一般には新規継続率を指標として利用します。なぜならば、サービスが成長するためには新規のユーザーが増え、かつ継続的に使ってもらうことが必要だからです。

Googleアナリティクスであれば、コホート分析のレポートを使うことで、継続率を簡単に確認できます。継続率を上げるためには、「また明日も使いたい」と思わせることを目指します。そのために「継続利用することにお得感」を提供することが大切です。ソーシャルゲームであれば、毎日ログインするとアイテムがもらえる「ログインボーナス」や「連続ログインボーナス」などを用意します。ほかにも、毎日利用することによる機能開放や、プッシュ通知の活用なども継続率の向上に一役買います。

チャーン率(Churn Rate

チャーン率は、サブスクリプション型のサービスにおける解約率を指します。今月のチャーン率を今月のユーザー数と今月のサービス利用を停止したユーザー数で表すならば、

今月のチャーン率(%)=今月のサービス利用を停止したユーザー数÷今月のユーザー数×100

例えば前月には100人がサービスを利用していて、そのうちの10人が今月サービスの利用を停止した場合のチャーン率は10%になります。新規の利用人数を増やしても、それ以上に解約人数が多くなってしまっては、全体の利用人数は減少してしまいます。新規獲得だけに目を向けるのではなく、解約率を下げるための取り組みも同じくらいに重要なので、サブスクリプション型においてはチャーン率が非常に大切なKPIになります。

チャーン率を下げるためにできることは大きく分けて2つです。

1つ目は本質的な話で、サービス自体を継続したくなるような、より魅力的なサービスにしていくことです。新しい機能の追加や、コンテンツの拡大などが考えられます。

もう1つの方法は「負」をなくすことです。使いにくい、わかりにくい、成長や利用による効果を実感できない、モチベーションが下がってしまったといったネガティブな思いに対して、サービスとして何ができるのかを模索し、施策を行う必要があります。

いくら流入が多くても流出が多くては徒労に終わってしまうので、チャーン率を改善するための施策を継続的に行うことが推奨されます。

DAUを増やすためには、止める人の数よりも多くの新規ユーザーを増やすことが大切です。止めていくユーザーを0にすることは、どんなサービスでも不可能です。したがって、多くの新規ユーザーに継続して使ってもらうことが、DAUを伸ばすことにつながります。ユーザーに課金してもらうためには、繰り返し使ってもらうことが非常に大切です。「繰り返し使ってもらう」ということを数値化・可視化した新規継続率は、都度課金型サービスのリリース当初はもっとも大切なKPIです。

1-4-6. ビジネスに関する指標

ビジネスに関する指標についても紹介しておきましょう。

売上高

商品を販売したり、サービスを提供したりした代金です。「営業収益」ともいいます。メディア事業の場合、広告掲載で得た収益も、売上高に計上します。

売上原価

一般に商品の原価を指します。仕入れたり、新たに製造したりするときにかかるコストです。商品の販売数に応じてかかる費用を「変動費」と呼びますが、変動費売上原価として計上します。

売上総利益(粗利)

一般的には売上から売上原価を差し引いた金額です。「粗利」とも呼ばれます。

売上総利益(円)=売上高売上原価

販売管理費販管費

広告費用や人件費、家賃など、売れなくても計上する経費のことです。ウェブサイトやバナーなどの制作にかかる「コンテンツ制作費」も、一般的には販売管理費として計上します。

営業利益

売上総利益から販管費を差し引いた金額です。事業本来の活動からもたらされた利益で本業の利益がどれだけ出ているかを表しています。

営業利益(円)=売上総利益販売管理費販管費

その他の利益

営業利益」に営業外収支(損失)が計上されると「経常利益」です。「経常利益」に特別利益(損失)が計上されると「税引前当期純利益」です。「税引前当期純利益」から法人税を引くと「当期純利益」となります。

ビジネスに関する指標として、損益計算書で、一定期間に事業が活動した結果が表される指標を紹介しましたが、ウェブ解析士として、自分の施策が売上や経費と紐付いていることを覚えておきましょう。また、クライアント側の担当者も売上責任や経費責任を持っていることも意識してください。

図:損益計算書(P/L)に記載される要素

図:損益計算書(P/L)に記載される要素

1-5 新しいプラットフォーマーや経済圏の動き

近年、著名なブランド商品より、無名の個人や新興ブランドの製品が売れるようになっています。その背景には、SNSの普及で個人がメディアを持ち、より簡単に利用できるデジタルサービスが増え、副業を認める働き方が多様化したことがあります。

ウェブ解析士としては従来にはない新しいプラットフォームや経済圏の動きを学び、事業に活用してください。

1-5-1. 個人経済圏

個人が自分の専門的なスキルや製品を提供し、ビジネスを展開することを「個人経済圏」と呼びます。

「C2Cビジネス」(消費者と消費者が直接売買するサービス)の進化とともに、個人がビジネスを展開することが広がっています。

  • メディア「ニコニコ動画」や「YouTube」などのメディアサービスを使うことで、誰でも低コストでコンテンツを配信し、共感できるユーザーを集客することができる
  • 物販・賃貸「Shopify」や「Airbnb」などの低価格で手軽なサービスを使うことで、誰でも低コストで商品の販売や所有物の賃貸をし、中間マージンのない高い収益をあげることができる
  • スキルシェア「ココナラ」や「Fiverr」などのスキルシェアサービスを使うことで、誰でも個人の専門スキルを期間や内容を限定して提供し、収益をあげることができる
  • コンテンツ販売「note」や「Vimeo」などのコンテンツ販売サービスを使うことで、誰でも個人のノウハウや動画を販売し、収益をあげることができる

これらのサービスや技術を使うことで、次のような個人によるビジネスが広がっています。

  • 所有物の売買・賃貸中古品や自分が製作した作品を販売したり、住居の賃貸などで収益をあげるビジネスを運用することができる
  • オンラインサロンスキルや知識を教えるだけではなく、共同でプロジェクトを進めたり交流することで収益をあげるコミュニティを作ることができる
  • 副業によるスキルの収益化隙間時間でスキルや労働を提供することで、さまざまなプロジェクトに関わって業務経験や知識を高めつつ、対価を得ることができる

従来、個人との取引には、企業のような社会的信頼と、品質を担保するための設備投資が必要でした。現在では、レビューによる利用者評価と、スマートフォンの高機能化による品質の向上により、大手企業に劣らないサービスや製品を提供する個人が広がっています。

1-5-2. D2C

D2Cとは「Direct to Consumer」の略で、メーカーが消費者に商品を直接、販売する仕組みのことです。そのメリットは、流通を通さず販売することだけにとどまりません。メーカーがデジタルテクノロジーを利用してユーザーと直接つながることにより、従来の製品にはない利便性や付加価値を提供することが本質です。

従来、メーカーは店舗などの流通を通じて商品を販売するため、提供できるサービスは限定的でした。しかし、ユーザーが求めているのは製品ではなく、その周辺も含めたブランドや付加価値です。そのようなユーザーのニーズに対し、メーカーが直接ユーザーと接することで高付加価値を実現できるようになりました。

  • ビジョンや品質を直接ユーザーに伝えられる製品への思いをウェブで伝えたり、製造工程や品質管理をウェブで公開したりすることでユーザーに納得して購買してもらう環境を整えられる
  • 顧客からのダイレクトなフィードバックをもらえる購入したユーザーの満足、不満足をダイレクトに知ることで、製品やサービスの改良を迅速に行うPDCAを回すことが可能になる
  • 顧客の求めるニーズにあった総合的なサービスを提供できるユーザーの利用データや、関係するサービスと提携することでオンラインを駆使した顧客への提案や、関連サービスの紹介ができる
  • メーカーと顧客のコミュニティを育てることができるオンライン・オフラインでユーザー同士やメーカーとのコミュニティを作り、育てることで、製品企画から参加するロイヤルカスタマーを育てることができる

マーケット規模の小さい市場でも、直接顧客と接することで満足度の高い製品やサービスを提供し、長期間深い関係をユーザーと維持できます。また、デジタルテクノロジーによる低コストで高付加価値なコミュニケーションをすることで、より満足度の高い製品開発や、問題点の改良ができる点もメリットです。既存のブランド力の強い寡占市場でも、D2Cの新興企業がマーケットを開拓する事例が増えています。

1-5-3. DNVB

DNVB <https://www.coursehero.com/file/36077872/kp-pixlee-2017-DNVBpdf/>は「Digitally Native Vertical Brand」の略で、デジタルネイティブ世代以下の消費者に対し、ウェブを介してストーリーを伝え、商品の販売を行うブランドのことです。

メーカーが直接消費者とつながり、消費者にとっての利便性や付加価値を提供するD2Cとの違いは、カスタマーエクスペリエンスを重視した展開にあります。DNVBの主な傾向は次のとおりです。

材料の直接調達

サプライヤーとの直接の取引により、サプライヤーの運用基準を精査できるだけでなく、迅速なフィードバックループを促進して、製品の設計と需要を迅速に繰り返すことができる。製品のコストをユーザーに伝えることもある

強化されたブランド体験

商品、買い物客の経験、顧客サービスの集合体がブランドになる。DNVBは、主にオンラインで顧客と対話し、人々に語りかける強力なブランドライフスタイルの構築を目指している。DNVBの製品は、ブランドのアイデンティティを細かく表現し、製品とパッケージの両方がソーシャルメディアで共有されるように設計されており、多くの場合、ユーザーが作成したコンテンツに依存している

従来のECやモール型ECと競合しない第三の流通チャネル

以前は、イーコマースのほとんどは他社の商品を販売する小売業者だったが、現在では企業はAmazonなどと直接取引することが前提となっており、その巨大な規模とコスト優位性を活用して、イーコマースが最も安価な商品の最大の選択肢を提供することがますます厳しくなっている。また、オンラインとモバイルの売上は引き続き伸びているが、小売売上の94%は実店舗で行われており、米国の買い物客のほぼ半数は、オンラインではなく店頭での購入を好んでいると見られる。DNVBが成熟するにつれ、DNVBはオフラインで拡張されることもあり、体験型の物理的な小売りを組み合わせることも特徴

ソーシャルメディアへの関与の増加

1対1のマーケティングによる、コミュニティの構築に重きを置いている。今日の主要なSNSの強力な力を活用し、サービスとコンテンツでアクティブな顧客を生み出している。デジタルネイティブブランドは、ソーシャルへの関心を高めようとするが、商取引を超えて、顧客が関与できるデジタル体験を構築し、ブランドの忠誠を共有する。ミレニアル世代は、広告を受け取るだけでなく、それらをエンゲージし、共有することにもオープンな世代であり、この世代の特性を最適化するために、DNVBはソーシャルメディアで働きかけ、共有可能なコンテンツを創り出している

直接消費者と取引を行うEC、従来の製品にはない利便性や付加価値を提供するD2C、ブランド体験を提供するDNVBと、ウェブとユーザーの体験を時代の変遷と合わせて理解しましょう。

1-5-4. シェアリングエコノミー

個人経済圏で触れましたが、シェアサービスとは個人の持っている遊休資産やスキルを期間や範囲を限定して貸与することで、シェアリングエコノミーはそのサービスによる経済圏です。資産の有効活用を促すことは、経済的環境的な社会的メリットも期待できます。

すでに「Uber」や「Grab」などのカーシェアリングは他の旅客業を超える規模であり、「Airbnb」は「民泊」の最大のプラットフォームで、どのホテルチェーンより大きい宿泊業となっています。さらに専門スキルをシェアするスキルシェアやデリバリーや家事などの代行など幅広いシェアリングプラットフォームが存在します。

「民泊」とは

民家に泊まること。日本では住宅宿泊事業の申請が必要となる

シェアリングエコノミーには、次のような強みがあります。<https://www.moneycrashers.com/sharing-economy/>

  • 購入するより安く製品・サービスを利用できる
  • 提供者に新たな収益源をもたらすことができる
  • 購入者は多彩な製品・サービスを利用できる
  • レビューを通して強固なコミュニティを創造できる

一方で、デメリットもあります。

  • プライバシーや安全の問題が起きうる
  • 保証がほとんどないことがある
  • 利用者・提供者双方の協調性が求められる
  • 産業破壊や混乱をもたらすことがある

そこで、一般社団法人シェアリングエコノミー協会が認証制度を広めていこうと取り組んでいます(認証マーク <https://sharing-economy.jp/ja/trust/>)。シェアリングエコノミーサービスといっても、さまざまなジャンルや業態があり、シェアリングエコノミー協会では主流の事業を次の5種類に分類しています( <https://share.jp/sharing-economy/シェアリングエコノミー/>より引用)。

  1. モノのシェア(フリマ・レンタルなど)
  2. 空間のシェア(ホームシェア・駐車場・会議室など)
  3. 移動のシェア(カーシェア・ライドシェアシェアサイクルなど)
  4. スキルのシェア(家事・介護・育児・知識など)
  5. お金のシェア(クラウドファンディングなど)

空間のシェア

民泊については次のサイトが参考になる。「民泊文化はコロナ禍によって終焉を迎えるのか? 民泊の現状と3つの法制度の概観(前編)(中編)(後編)」 <https://share.jp/column/sharingeconomy_law/private-lodging/>

5つの領域で、主なシェアサービスを分類すると、[図:シェアリングエコノミー 領域Map](一般社団法人シェアリングエコノミー協会が公開している <https://sharing-economy.jp/ja/news/map202003/>)のようになります。

図:シェアリングエコノミー領域Map

図:シェアリングエコノミー領域Map

これら以外にも、有名なシェアサービスとして、次のようなものもあります。

AsMama <http://asmama.jp/>

送迎・託児を顔見知り同士で頼り合う、子育てのシェアサービス。地域の親子が出会う、つながる親子交流イベントなど、場の提供も行っている

TABICA <https://tabica.jp/>

その地域ならではのワークショップや農業体験、街歩きなど、ガイドブックでは見つからない「今、ここでしかできない地域体験」を予約でき、地元の暮らしを楽しめる、体験型マッチングサービス。自分の好きを生かして手軽にホストになることも可能

ラクサス <https://laxus.co/x>

憧れのブランドバッグを交換し使い放題のブランドバッグのレンタルシェアサービス。自宅のクローゼットに眠るブランドバッグを預けて、最大24,000円(年間)のお小遣い稼ぎをすることもできる

エアクローゼット <https://www.air-closet.com/>

無料のパーソナルスタイル診断により、プロのスタイリストがコーディネートした洋服が借りられる月額制ファッションレンタルサービス。「何を着ればいいのかわからない」「服を選ぶ時間がない」など、忙しい女性の悩みを解決してくれる

シェアリングエコノミー成功のキーワード

シェアリングエコノミーが成功するためのキーワードとして、次のようなことが挙げられています。

1. 社会の課題解決を目指すこと

少子高齢化、超高齢化などの社会課題は、企業、自治体の課題でもあります。そんな社会の課題解決を目指すシェアリングエコノミービジネスが、昨今の主流となっています。

2. 買うより借りる時代へ

特に若い世代の中では、車も家も自転車も洋服もレンタルが当たり前になってきました。モノを買って所有するよりも、共有するほうがお得という価値観になっているといえます。

3. 助け合いの精神

東日本大震災以来、ボランティア活動に参加する若い世代が増加する傾向にあります。シェアリングエコノミーを支持する人たちには、助け合いや分かち合いの精神が強くあるようです。

4. つながるビジネスの可能性

自社だけでは限りがある今、ビジネスの世界では、業界や組織の垣根を越えた連携やコラボなど、他社や個人とつながる(マッチング)ことで、新たなビジネスを生み出しています。

5. 組織を超えた個の力

副業も解禁になる会社が増え、改めて企業や組織の中での個人の力が注目されています。組織の中で個人にファンが付くなど、個人の力をサポートするようなシェアリングエコノミーも増えつつあります。

1-5-5. クラウドファンディング

クラウドファンディング(以降、クラファン)は、銀行や投資家からお金を集めるのではなく、不特定多数の人から、インターネット上のプラットフォームを通して少額ずつお金を集める仕組みです。今までの資金調達と違うのは、仲介サイトまたはプラットフォーム(以降、クラファンサイト)により、不特定多数の群衆からお金を集めやすくなった点です。

海外の代表的サイト:
日本の代表的サイト:

クラファンの種類

クラファンは、大きくわけて「購入型」「寄付型」「金融型」と3つの種類があります。

購入型(reward)

「購入型」では、お金を支援した人(支援者)に、その対価としてなんらかの見返り(返礼品)として物品やサービスを渡します。例えば、時計を作るプロジェクトに1万円の支援金を出せば、1万円の返礼品として現物の時計を送ります。

現在、一般的な「クラウドファンディング」は「購入型」のことを指します。

寄付型(donation)

「寄付型」は、お金を支援した人に対して経済的な見返りのないものをいいます。

世界最大のサイトはGoFundMeです。日本には現在、寄付型専用サイトはありません。

金融型

「金融型」では、クラファンサイト運営会社に金融商品取引業の免許が必要です。金融型には、3つの種類に分かれます。

1つ目は、「融資型」(Social lending, P2P lending)です。集めた資金を、クラファンサイトが起案者に融資を行い、その利子を元に利益の一部を支援者に分配します。

2つ目は、「事業投資型」(revenue, profit share, Royalty)です。プロジェクトの成果をもとに、投資した割合に応じて配当金を支援者に渡します。事業が失敗した際は、配当金はありません。

3つ目は「株式型」(Equity)です。支援者個人が未上場企業に出資して、対価として株式を受け取ります。アメリカでは2012年に「JOBS法」で法制化し、日本では2015年5月に金融商品取引法の改正によって合法化されました。この法律により、1社あたり上限1億円、1人あたり最大50万円まで未上場企業の株式を購入できるようになりました。また、現在クラファンサイトは第一種少額電子募集取扱業者の登録になり、規制は緩和されました。

クラファンで資金調達する2つの仕組み

クラファンで資金を調達する仕組みは、大きく分けて2つあります。各クラファンサイトによって言い方は異なりますが、「All or Nothing(達成時報酬型)」と「All in(実施確約報酬型)」です。

All or Nothing(達成時報酬型)

あらかじめ起案者(プロジェクト実施者)が決定した期間中に目標金額が達成した場合のみに資金調達ができる方式です。

目標金額に1円でも足りなかった場合は不成立となり、一切お金を受け取ることができません。海外で最も一般的なクラファンの仕組みです。

All in (実施確約報酬型)

目標金額が開催期間中に達成できなくても、全額受け取れる仕組みです。目標金額が達成しない場合でも、プロジェクトが実行できる場合に活用されます。

昨今の日本では、この「All in」を採用する起案者が多いようです。

クラファンを活用する目的とは

クラファンのメリットは、資金調達だけではなく、次のようなメリットもあります。

予約販売で販売量を確保できる

まだ存在していない商品やサービスでも「予約注文」をとれることです(アメリカ人に「クラウドファンディングって何?」と聞くと、「予約販売サイト」と答えることが多い。アメリカ人にとって、クラファンとは予約販売サイトやECサイトのようにとらえていることがわかる)。

テストマーケティングができる

プロジェクトを実行する前に、顧客のニーズを事前に把握することができます。そのため、在庫リスクや販売不振を大きく軽減することが可能です。言い変えれば、クラファンで人気がないプロジェクトは、たとえ商品化しても売れない商品と予想されます。クラファンでは、プロジェクトが公開されると、リアルタイムで支援者から生の声を聞くことができます。不特定多数に情報が公開されているので、幅広いユーザーから直接声を聞くことが可能です。

販売ルートの開拓ができる

通常の販売では、営業マンなどを使って販売ルートの開拓をする必要があります。しかし、クラファンで話題になれば、販売店の方から直接声をかけてくるケースが多くあります。大手デパートや量販店、レコード店、セレクトショップ、カーショップなどから直接声がかかり、販売ルートを開拓することもできます。

協力者とのコラボレーションができる

クラファンを利用すると、お金だけではない協力者とコラボレーションすることができます。例えば本を出版するプロジェクトを立ち上げたとします。不特定多数にその活動をアピールすることで、その活動を協力してくれる人が現れます。支援者の中から、「表紙の写真を撮りましょうか」と申し出るカメラマンが名乗り出たり、「本の販売をお手伝いましょう」というボランティアが現れたり、「印刷所を紹介しますよ」という業界に精通した人など、さまざまな協力者が現れ、そのプロジェクトをお金以外でも支援してくれることがあります。

将来の上客の確保やファンを獲得できる

プロジェクトを事前に告知するというクラファンの特性上、将来の上客やファンを囲い込むことができます。例えば、渋谷に会員制バーを開業するというプロジェクトを立案します。お得な会員権を目当てに多数の支援者を獲得したとすれば、オープン前から十分な会員数を獲得できます。このように、開店前に顧客を獲得し、応援してもらう人たちを事前に集めることができるわけです。これらの支援者は、あたかも自分のプロジェクトのように、「自分事」として愛着を持ってくれます。このように支援者を将来の上客として獲得できます。

メディアの露出を増やす

クラファンで資金を調達しているということで、通常なら注目されにくい取り組みが、大手出版社やローカルテレビ局の取材を受けたり、コミュニティで話題になることがあります。例えば、地方の町工場が「これまでにない新しい商品を作ります!」と表明しところで、現物がなければ記事に掲載されることはなかなかありません。しかし、最近ではマスコミも「何か新しいネタはないか」という目的でクラファンサイトをまめにチェックしているため、メディアなどに掲載される可能性が高まります。

社会的信用やブランド構築

クラファンの資金調達に透明性があるため、社会的信用が高まることがあります。例えば、立案したプロジェクトは、半永久的にクラファンサイトに掲載されます。特に通常なら信頼を獲得しにくい初めてのビジネスの場合に、信用性を高められます。また、海外では、クラファンが成功すると「成功しそうなビジネスである」と、ブランド価値が上がるケースが多くあります。日本でも、クラファンの実施有無が、国や自治体の補助金や助成金の採択の加点になったことがあります。

融資や投資につながる

もともと、アメリカでは起業する際は、投資家から資金を集めていました。しかし、2008年のリーマンショック後に投資家からの資金調達が難しくなったことから、クラウドファンディングが盛んに行われるようになりました。海外では、新商品を開発するときや、映画を製作する場合など、まずは自力でクラファンを活用し、資金調達を行うようになりました。その後、その実績を元に、投資家から投資を受けるのが1つのスタンダードとなっています。日本においては、投資家から投資を受けるというよりも、銀行から融資を受けるというのが一般的です。銀行は融資の際には、実績や担保を求めてきます。しかし、事前に実績がない場合でも、クラファンで成功することにより事業開始前に実績を作ることができ、昨今では、クラファンが実績作りに有効的な方法として銀行や自治体などからも注目されています。

1-6 マーケティング0への招待

マーケティング0への招待

フィリップ・コトラー(『コトラーのマーケティング4.0 ―スマートフォン時代の究極法則』フィリップ・コトラー、ヘルマワン・カルタジャヤ、イワン・セティアワン 著、恩藏 直人 監修、藤井 清美 訳/朝日新聞出版/2017年/ISBN978-4-02-331615-7)によると、マーケティングの歴史はマーケティング1.0から4.0までの歴史を辿っており、1950年の製品中心、1970年の消費者志向、1990年の価値主導、2010年の自己実現という歴史の遷移を経てきたと説明しています。

それでは、マーケティングはいつ、どこで、はじまったのでしょうか?

ピーター・ドラッカー(『マネジメント:上』P.F.ドラッカー 著、野田一夫、村上恒夫 監訳/ダイヤモンド社/ 1993年/ISBN978-4-478-41002-8)は、マーケティングの起源として、1650年頃に三井家が最初の百貨店三越の前身となる江戸日本橋の呉服屋(和服や和服の生地(反物)を販売する店舗)ゑちご屋(越後屋)が、最初の事例だと説明しています。この事実から、この出発点を「マーケティング0」と呼ぶことにします(ウェブ解析士マスター窪田望氏による命名)。確かに、ゑちご屋は1683年の新築移転の際に日本初のチラシ「引札」を発行(アド・ミュージアム東京)しています。そもそも日本独自のものの捉え方があり、欧米がマーケティングを体系的に学問化するよりずっと前に、アジア、日本にはマーケティングの文化があったということです。

当時の呉服屋は、直接見本を持って販売する「見せ物商い」か、商品を得意先で見てもらう「屋敷売り」しかありませんでした。この方法だと支払いは「掛売り」(ツケ)になってしまうので、販売してからしばらくはお金が手元に残りません。最初に販売のための人件費も原価もかかった上に、入金が遅くなってしまうわけです。そんな時代に「現金掛け値なし」という商法を0から思いついたのが越後屋でした。これは「店頭での現金取引で服が買える」と言う薄利多売モデルです。この方法なら、呉服屋はこれまでよりもずっと早く資金が先に手に入るので、結果的に商品を安く売ることができます。このやり方に庶民はとても喜びました。この告知のために使われたのが引札(チラシ)でした。この手法を考えたのが、ゑちご屋の創業者である三井高利(みついたかとし)です。何もない0から着想し、新しい手法を確立させたということからも、やはりマーケティング0に相応しい事例といえるでしょう。

余白の美意識

日本には独自の美意識が存在していました。「白紙ももやうのうちなれば、心にてふさぐべし」と書いたのは、江戸時代の土佐派を代表する絵師である土佐光起です。あるいは、国宝でもある長谷川等伯の松林図の瑞々しい余白の中に日本人は感銘を受けます。これらは「余白の美意識」です。

この感覚は、欧米とアジア、特に日本において決定的に違う点です。この美意識の違いは情報の捉え方にも現れます。

情報論のグレゴリー・ベイトソンは「情報とは何か」について「Any difference that makes a difference」と記しました。つまり、差異にこそ情報があると定義したのです。しかし、日本では、差がなくても「間・空・余白」から情報を得ることができると考えます。「間・空・余白」は、どれも数字で表すと「0」になります。情報がない、差異がないように見える何かの中で得られる情報に対する嗅覚もマーケティング0の考え方に含まれます。

解析可能なデータには常に欠損があり、壮大な余白が存在する。

我々の行動は、すべてデジタルに置き換わり、すべてがデータとして可視化されたように見えます。今後、私達はすべてのデータを可視化して扱うことができるのでしょうか。

実は、そうではないことを[図:人生の出来事や感情と解析可能範囲]をもとに説明します。

図:人生の出来事や感情と解析可能範囲

図:人生の出来事や感情と解析可能範囲

我々の行動や状態をウェブ解析が記録を続けるたびに、誰かの挙動や事実をつかむことができます。しかし、そのとき、どんな服を着ているのか、どんな顔をしているのかといったことや、悲しいと思っているのか、うれしいと思っているのかなどの感情は類推していくしかありません。

そして、データとして記録された行動は「過去」です。行動した後の「現在」、そしてその人の「未来」はデータには残りません。ウェブ解析士の仕事は過去を評価することではなく、知りたいのは現在と未来です。しかし、それはデータとして取得することはできないのです。

データが取得できる範囲は、どんどん増えていくことでしょう。それでも、すべてのデータを揃えることは不可能です。データにはならない、定性的なこともたくさんあります。私たちが知ることができる情報には限界があり、解析可能な範囲はごく一部なのです。しかし、このような「欠損のあるおぼろげなデータ」を使って、前に進むことが求められます。

例えば、[図:PCに表示されたグラフ]に示したPCが映し出した美しいグラフのことを考えてみましょう。ここには数字が美しく連なっているように見え、欠損がないように見えます。

図:PCに表示されたグラフ

図:PCに表示されたグラフ

しかし、本当にそうでしょうか。

このX軸が時間軸だったとして、それを分、秒、ミリ秒と細かくしていくと、このグラフは一変して、1と0の世界になります。ほとんどの値は0でたまに1が現れるデータになるはずです。

ありとあらゆる数字は、そもそもが連続値ではなく離散値で、その名の通り、離れて存在しているのです。一見、欠損が一切ないように見えるグラフにすら、永遠の余白が存在しているわけです。

正解なき難問

我々が見ているデータは、膨大に見えながら、実は膨大な余白を眺めているのです。

ウェブ解析士は、常に「正解なき難問」に晒されます。助けてくれるのは「欠損のあるおぼろげなデータ」です。この頼りない情報をもとに、マクロレポートやミクロレポートを作らなければなりません。マクロレポートは「企業はどこへ向かうべきか」を、ミクロレポートは「どうすればユーザーをハッピーにできるか」を指し示したレポートです。

「マクロレポート」とは

事業の改善を目的としたウェブ解析レポートのこと

「ミクロレポート」とは

ユーザーの満足向上を目的としたウェブ解析レポートのこと

図:マクロレポートとミクロレポート

図:マクロレポートとミクロレポート

しかし、このような正解なき難問に対し、日本では独特の事物の捉え方をする文化がありました。それが「寄物陳思」です。松岡正剛氏とドミニクチェン氏による『謎床 ―思考が発酵する編集術』(松岡 正剛、ドミニク チェン 著/晶文社/2017年/ISBN978-4-7949-6965-1)に、次のような記述があります。

「日本人はかつて花鳥風月や雪月花(せつげつか)を全面的に観賞していなかった。いまはみんなソメイヨシノの下でドンちゃん騒ぎをしますが、かつては花見も直接にはしない。桜の一枝を手折って(たおって)、部分だけ持ってきて部屋のなかで見る。月も月そのものを見るのではなく、水盤(すいばん)に投影してそれを見る。雪も盆景に。」

日系アメリカ人の彫刻家イサム・ノグチは、「完璧なものは面白みに欠ける」と語っています。

「完璧なものはおもしろみに欠ける、不完全なものがよい、白紙をふさぐのは最後は心である」と考えると、不完全であればあるほど、想像力を働かせることができます。

つまり、欠損だらけであるウェブ解析のデータを扱うには想像力が欠かせないということです。

ウェブ解析士とはどんな職業なのか?

ウェブ解析士は、欠損しているデータをもとに、想像力を働かせて不特定多数へのおもてなし(貢献)をする仕事です。メインの仕事でも、ウェブ解析士のスキルを用いることで、ユーザーと事業と競合を理解できます。つまり、ウェブ解析士は、メインの仕事を補完できるのです。そして、ユーザー分析とミクロ解析でプロファイリングし、ユーザーの思いや気持ちを知ることができるスキルです。メインの仕事で顧客をより幸せにする技術でもあります。

クライアントのウェブ解析をすれば、ウェブ解析士はその仕事を疑似体験できます。そうやってあらゆる職業でユーザーと事業と競合を理解する意味で補完でき、あらゆるユーザーをユーザー分析とミクロ解析でプロファイリングし、思いや気持ちを知ることができるプロフェッショナルを体験することで、クライアントを具体的に助けることができます。

図:ウェブ解析士と企業とユーザー

図:ウェブ解析士と企業とユーザー

ウェブ解析士は「欠損のあるおぼろげなデータ」からユーザーの気持ちを考え、企業の人に成り代わって、そのよさを必死に考えます。そのとき、私たちはその職業の仮面(ペルソナ(2-4「 マクロ解析とミクロ解析」参照))を得て、ユーザーに語りかける言葉や、コミュニケーションを考えていくことができるのです。

日本の文学に学ぶペルソナ思考

このような仮面を元に考える発想法は、もともと日本人が得意とするものでした。その歴史を遡ると、紀貫之の「土佐日記」の「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。」 <https://www.aozora.gr.jp/cards/000155/files/832_16016.html>や、夏目漱石の『吾輩は猫である』などの例を挙げることができます。

また、村上春樹は『職業としての小説家』(村上春樹 著/スイッチ・パブリッシング/2015年/ISBN978-4-88418-443-8)の中で、小説のキャラクター作りについて「オートマこびと」と名付けています。キャラクターを作る時、村上春樹は無意識下の「『オートマこびと』たちがなんとかあくせくと働いている」として、それをせっせと文章に書き写していくと記しています。しかし、それがそのまま作品に組み込まれることはなく、何度も書き直され、もっと意識的にロジカルな作業を繰り返すとも書かれています。では、なぜ原型の立ち上げについては無意識的で直感的かということについては、そうしないと「生きていない人間像」ができてしまうというのです。

「オートマこびと」の由来

村上春樹が初めてオートマティック・ギアの車を運転した際に、「このギアボックスの中にはきっとこびとが何人も住んでいて、そいつらが手分けしてギアの操作をしているに違いない」と感じたということに由来する

このプロセスは、ウェブ解析士がペルソナを作るときと酷似しています。ウェブ解析士はデータと無意識を往復しながら、1人の人物像を作っていく必要があります。1人の人物像を練り上げて、チーム内で共有をすることにより、マーケティングの方向性が定まり、チーム内で同じイメージを持つことができるようになります。そして、紀貫之や夏目漱石、村上春樹の事例が示すように、日本の文学のキャラクターの作り方が、ペルソナ構築の参考になるといえます。

妄想ドリブンの日本

安宅 和人は「シン・ニホン」の中で、「日本のSFやマンガはAI時代の行方を妄想によって先取りしていた」と指摘しています。

攻殻機動隊しかり、鉄腕アトムしかり、はたまたドラえもんに出てくる「ほんやくコンニャク」、 「お医者さんカバン」、「暗記パン」、「エラチューブ」しかり、これらはよく見ればフェーズ2、 フェーズ3そのものだ(ここでの「フェーズ2」「フェーズ3」とは、「人工知能の研究開発目標と産業化のロードマップ(案)」 <https://www.nedo.go.jp/content/100862412.pdf>によると、「フェーズ2:個別の領域の枠を越えて、AI、データの一般利用が進む」「フェーズ3:個別の領域の枠を越えて、AI、データの一般利用が進む」と定義されている)。意識している、していないにかかわらず、世界でもこれほど妄想ドリブンな情操教育を行ってきた国は珍しい。

土佐日記や夏目漱石に限らず、日本のSFやマンガは未来的なものですら、実現されるより先に妄想によってイメージを具現化することができる力がありました。ウェブ解析士もこの種の「妄想」は必要であり、それは未来を切り開く力の源泉になります。

ドラえもんが出してくれそうな、便利なグッズを発明するのは科学者に任せましょう。私達が「妄想」を発揮するのは、マーケティングで人を幸せにするときです。

さて、このある種の妄想をマーケティングに生かしたストーリーを紹介しましょう。それは寅さんの「鉛筆売り」( <

> 寅次郎、えんぴつを売る ~男はつらいよ「拝啓車寅次郎様」 より引用)と言う話です(『フーテンの寅に学ぶたった2分で売り切るセールス法則』 <https://diamond.jp/articles/-/179357?page=2>の書き起こしを引用。)。この話の中では、甥が売れない営業として悩んでいる姿を見て、寅さんは「中古の鉛筆を売ってみろ」と言います。試しに甥がやってみますが、まったくうまくいきません。その姿を見て、寅さんが言ったのはこんなセリフでした。

「(親戚縁者を見回して)

オレはこの鉛筆を見ると、おふくろのことを思い出すんだ。オレは不器用だったから、満足に鉛筆ひとつ削れなかった。すると夜、おふくろが鉛筆を削ってくれたんだ。火鉢の前できちんと正座して削ってくれるんだけど、削りカスが火の中に入るとプーンといい香りがしてな。きれいに削ってくれた鉛筆で勉強せず落書きばっかりしていた。

でも削った鉛筆が短くなると、その分だけ頭が良くなった気がしたもんだ。

(甥に向き直り)

お客さん、ボールペンってものは便利でいいでしょ。だけど味わいってもんがない。その点、鉛筆は握り心地が一番。木の温かさ、六角形が指の間にきちんと収まる。ちょっとそこに何でもいいから書いてごらん。

(甥が渡された鉛筆で試し書きをして、書き心地に納得している)

どう、デパートでお願いすると1本60円はする品物だよ。 だけど、ちょっと削ってあるから30円だな。

(甥が試し書きの手を止めて、顔を上げる)

いいよ、いいよ、タダでくれてやったつもりで20円!

(え、いいの?という顔の甥)

すぐ出せ。さっさと出せ」

寅さんは、妄想で人情のストーリーを作りました。それは架空かもしれませんが、ここで私たちが寅さんのストーリーから感じることができるのは、人としての暖かさなのではないでしょうか。

例えば「富山の薬売り」の懸場帳(かけばちょう)には、置薬の売買記録や置薬の商品在庫だけでなく、顧客の家族構成や健康状況などの付加情報も記録されていました。その情報が記録されることにより、知恵とまごころを尽くし、顧客のためなら日本中を駆け回るという熱い思いがあったのです。

さて、私たちは欠損したデータから人の気持ちを妄想し、あらゆる人情の体験を作り出すことができます。しかし、人情には弱みがあります。それは、アーカイブ化されないこと、そして再現が難しいことです。そして、我々ウェブ解析士は、その人情の体験をウェブの中で保存することにより、何度も再現できるようになるのです。

さあ、あなたは何で余白を埋めるのでしょうか。ようこそ、マーケティング0へ(マーケティング0に関する動画は、 <

> で視聴可能。文章のみならず、ビジュアルでも学ことができる)。